夏の甲子園準決勝 第二試合 (前編)
準決勝第二試合は優曇華学院対横浜港学園。
幸いにしてオレの担当は三塁側、つまり横浜港学園側だ。お陰で堂々と応援できるってもんだ。
いや、別に優曇華学院が嫌いだとか敵意が有るとかいう理由じゃなくって、単に横浜港学園の方が好きってだけである。
特に主戦投手の海堂晋が格好良い。今大会最速の155km/hの速球で次々と強打者を打ち取る姿は同じ男のオレから観ても惚れ惚れする程だ。
否、だからといって別に変な趣味が有るわけじゃない。素直に憧れるっていう……つまり羨望を懐くってだけだ。
ほら、今も優曇華学院の三番・王隠堂が剛速球の前に三振だ。
くぅ〜、本当に格好良いっ。
オレもこんな感じの男らしい男になりたかった。
なのに今のオレは何の因果か女の子。
男の娘ですらない国民的美少女。
嬉しくねえーーっ!
だってオレは男だ。男なんだっ。
だから本当は嫉妬が有る。羨ましい。
でも、ここまで凄いと認めるしかねえじゃねえか。
女々しく否定なんてできないっての。
だからオレは素直に受け容れファンになったってわけだ。
そしてそれがオレが横浜港学園を応援する理由だ。
優曇華学院の攻撃が終わり一回裏。今度は横浜港学園の攻撃だ。
応援団の掛け声と吹奏楽部の演奏が選手達を後押しする。
「町田く〜ん、がんばって〜っ」
女の子の声援も混ざってたりもする。もしかして彼女か?
で、その先頭打者の町田はその声が届いたのか、非常にやる気満々で、鼻息荒く豪快な強振を繰り出し捲くる。
当然結果は三球三振。
そりゃあ、こんだけ見境無しに振り捲ればなぁ…。
明かに息み過ぎで、気合いが空回りしている。
「ちっ……だっさぁ……」
あ〜あ、舌打ちされちゃって。
失望する気持ちは解かるけど、この子も余り性格良くねえなあ……。
二番の大下は無事に安打で出塁。続く三番・鷹山も……こっちは右翼手前へのゴロでアウトだけど、それでも大下が二塁へ進塁しているし半ば犠打みたいなものだろう。
ともかくこれで得点圏。二死ではあるけど十分チャンスだ。
そして四番打者の山田。
この山田、主戦投手の海堂が目立つせいで注目度合いが小さいけど、何気に打点に絡んでたりする。
一回戦目の西予学園戦ではサヨナラ本塁打を放ち、二回戦目の春日山戦では押し出しサヨナラの走者として本塁へと帰塁。三回戦目は二塁打で1点、準々決勝では九回に果然り鍋島工業の龍造寺から勝ち越しの本塁打を放っている。打っているのは終盤が多いけど、とにかくチャンスでの得点に絡んでいるのだ。
……ただ、終盤に強い山田だけれど序盤は今一ってことなのだろうか、今回は一塁ゴロでの凡退に終わったのだった。
四回表。流石は強打の優曇華学院だけあって空振りが少なくなってきた。というかこれまで無安打だったのが、打って出塁するようになり始めてきた。打者が一巡したせいだろう。
コキンッ。
言ってる傍からまた安打だ。
今の万歳で王隠堂に続き二人目、連続安打だ。流石は三番、四番のクリーンナップ。お陰で現在、二死一・三塁と危機だ。
……まあ、普通の奴ならだけど。
なんといっても今大会最優秀投手の海堂だ。こんなの危機の内には入らない……はず、仮令それがクリーンナップの五番打者で、現在立て続けに打たれ始めてたとしても……大丈夫……だよな…。
その五番打者・五鬼助への第一球は、まさかのど真ん中の直球。正しくは少しばかり高めだけど。
なんでもキレの良い直球は、その球の後方回転故に上方へと浮き上がるのだと聞いたことがある。つまり今の球はそれ故に少し高めの球となったと謂うことだろう。
因みに今の球速は151km/h。
凄えな、おい。
続く二球目も同じコースへの同じ球。
否、高さが先程より少し高い? 球速も153km/hと先程より速い。つまり、よりキレが増したってことだ。
その凄さ故か五鬼助は今の2球にまるで反応できずに見逃しだ。
そして投じる三球目。これも果然り依然変わらず剛速球の直球。
流石に五鬼助も今回ばかりは喰らい付く。
否、その振りは計算通りと謂うことか、先程より少し高い位置を全力で狙って振っている。
これってもしかしてヤバいのか⁈
その振りのタイミングは球より僅かばかり遅れており、そして軌道は球よりもひとつかふたつ分低かった。
つまり今の球は先の2球よりもよりキレが良く速い球だったと謂うことだ。
当然結果は空振りであり、五鬼助は三球三振でアウト。これにて三死で交代というわけで、海堂は見事に危機を力尽くで捻じ伏せたってわけだ。
流石は海堂。期待通り。
依然りこいつは凄い奴だ。一層のこと、『怪童』とか『快童』とかに改名しても宜いんじゃねえの?
※作中のルビには、一般的でない、作者流の当て字が混ざっております。ご注意下さい。




