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夏の甲子園十一日目 第二試合 -哀戦士?-

 ごめんなさい。今回のサブタイトルって、半ばネタバレしています。

 でも、こういうどこかで聞いたタイトルネタって意味合いが違ったり、無意味だったり、些か強引だったりしても、ついやってみたくなってしまって……。なのでできればツッコミをいれないでくれたら……否、嘲笑いたければ嘲笑ってくれて構いません。だってそれってこの作品を読んでくれてる人がいるってことですしね。

 本日、第二試合目は京都サブカルチャー学院、通称京サブの試合だ。

 対戦相手は大分県代表・熊崎高校。

 九州勢は既に2校がベスト8入りを決めていて、この試合で熊崎が勝てば3校目。

 でも、そう安易(やすやす)とはいかないだろう。

 なんてったって、京サブ(こっち)は九州以上の強豪地区・近畿地方の代表だ。仮令(たとえ)それがネタ枠と揶揄されるオタク学校だとしても。

 実際、京サブは一回戦、二回戦で関東の強豪地区代表2校を圧倒的点差で破り、今大会の大穴(ダークホース)としてではあるがその実力を見直され始めている。オレとしても今大会、大阪桐葉を超える打撃1位(ナンバーワン)じゃないかと思っているし、守備にしたって二試合を合わせて1失点だけと堅い。選手達も粒揃いだ。

 そんな理由でオレの予想では、この試合を勝ってベスト8入りするのは京サブの方となっている。

 まあそれでも勝負ってのは、実際に()って()ないと判らないのだけどな。



 試合開始(プレイボール)音響(サイレン)が鳴り響いた。

 先攻は京サブ。先頭(トップ)打者(バッター)キザったらしい名前(キラキラネーム)の一条(あきら)

 否、本当はそんなことは無いのかもしれないけど、この手の名前ってのはどうにも癪に障る。恐らくオレの名前が『純』なんて女みたいな名前のせいだろう。まあ一条にしてみれば『(あきら)』って名前も似たようなもんだって言うかもしれないけど。

 でも、女の名前の場合は『光』って書いて『ヒカリ』、もしくは男でも使う『ヒカル』ってところだろう。オレも同じ女みたいな名前なら『(ヒカル)』の方が好かった。増してやこいつは『(アキラ)』だなんて…。

 くそっ、格好良過ぎだろう、ちくしょーっ。

 しかもこいつ、なに気に爽やか系の二枚目だし…。


 オレがこんなことを毒()いている間に一条は三振していた。ざまーみろってんだ。

 って、そんなこと言ってる間に二番の神谷も一塁(ファースト)ゴロでアウト。

 そして、三番の吉良もまた、熊崎の主戦投手(エース)・立花に依って三振に……って。


 あれ? 背番号11?

 ええっ⁈ 主戦投手(エース)は戸次じゃなかったのかよ⁈

 その戸次だけど今日は不在。

 もしかすると流川ながれかわ蓼丸(たでまる)みたいに怪我とかで出られないとか?


「うおぉ? マジか?

 あいつ、一年のくせにこんなに凄かったんかよ?

 屁の突っ張りにもならん法外(ほげ)なことしちょる思うちょったのに」

「下手すりゃ食(あた)りじゃきい云うて休んじょる戸次より良かと違うか?」


 例に依ってモニター越しに聞こえてくる一塁側応援席(アルプススタンド)からの声に依ると、どうやら戸次は食中りらしい。

 聞けば間抜けな話だけど、他所に行けばその地独特の食べ物なんかを食べたくなるのはよく解かる。それに水が合わずに水(あた)りってのは結構聞く話だ。

 増してやこれだけ暑けりゃ当然水だって飲まずにいられないだろうし。

 まあそう()っても、こういう大会とかでは余り聞いた覚えは無いけど。

 そりゃあ、選手達も体調管理には気を付けるだろうし、マネージャーとかも仕事として確りと管理しているだろうからな。


 それにしても立花だ。

 控えのくせに、まさかこれだけ良いだなんて。

 熊崎側も計算外だったかもしれないけど、当然京サブも計算外だろう。

 ……でも、主戦投手(エース)が不在なんだから、プラマイゼロでそんなには変わっていないのか?

 否、こいつにはデータが無いんだから若干マイナスかもしれないけど。



 気を取り直して一回裏。今度は熊崎の攻撃だ。

 京サブの先発は主戦投手(エース)の安室。こっちは熊崎と違い予定通り。

 そしてその安定した投球(ピッチング)も予定通りだ。否、計算通りと謂うべきか。

 ただ、何もかもが計算通りにいくというわけじゃない。

 安室が熊崎を0点に抑えれば、熊崎もまた京サブ打線を抑え未だ0点。(ノー)安打(ヒット)(ノー)走者(ラン)が続いている。



 七回表。

 先発投手(ピッチャー)の立花に代わり、衛藤(えとう)が登板。

 こいつは立花と違って二年生、そして背番号は10。つまり立花と違って予定通りの登板ということだ。

 そして当然ながらこいつもそれなりの遣り手だった。

 そりゃあそうだ。立花は想定外(イレギュラー)な遣り手だったけど、こいつは予定通りの抑え投手(ストッパー)。お陰でこの回も京サブは無得点。そして未だに(ノー)安打(ヒット)(ノー)走者(ラン)状態だ。

 爽やか美男子(イケメン)一条が無様な三振を曝し、その名前に反した余りの滑稽さに思わず同情をしまった。

 俊足を活かしたバントエンドランを狙ったが、多彩な変化球を前に全く以て掠ることなく翻弄され、最終的にはスリーバント中に変化球が股間に命中。いろんな意味で涙が出てくる思いだった。

 続く神谷も同じようにバントエンドランを狙って失敗。一条と違い三球目に喰らい付きはしたのだが、その打球はファールとなり、スリーバント失敗でアウトとなった。

 そして吉良も衛藤(えとう)の変化球に翻弄され、空振りの三球三振だったのだ。



 七回裏を無失点に抑え八回表。

 先頭(トップ)打者(バッター)は安室。

 四番を任される者としては、()い加減この辺りで得意に結び付くような安打(ヒット)が欲しいところだ。

 そういう理由で安室は粘る。粘って粘って粘り捲くる。目(まぐ)るしく変化する球にとにかく懸命に喰らい付く。

 但し、ただ無暗に当てれば良いってものじゃない。間違ってもアウトになるような当たりは避けなければならない。理想は流し打ちの安打(ヒット)だが、それが無理ならなんとかファールに持ち込まなければならないのだ。これは(キツ)い。

 そんな中、遂に安室のバットが快音を放った。

 打球は投手(ピッチャー)衛藤(えとう)の頭上を越え、中堅(センター)奥深く観客席へと向かう。

 そして(フェンス)際。だが追い付いていた中堅手(センター)が大きく身体を伸ばして跳び()いた。

 着地した彼のその手の中には……。



 八回裏、熊崎の攻撃は京サブと同じく四番から。

 但しその緊張感は正反対。

 先程の攻撃で本塁打(ホームラン)……かと思われた打球を好守備(ファインプレー)で見事にアウトにされた京サブと、対してそれをアウトにした熊崎。

 しかも、その対決はその球を打った安室が投手(ピッチャー)、そしてその球を捕ってアウトにした中堅手(センター)の姫野が今度は打者(バッター)となっての対決だ。

 期待を不意にした側とそれを打ち砕き流れに乗る側。なんとも皮肉な因縁の対決だ。


 安室の第一球は外角(アウトコース)へと逸れるスライダー……だったと思う。

 何故思うなのかと()うと…………、まあ、要するに打たれたからで、それも選りによって本塁打(ホームラン)

 これは幾らなんでも皮肉が効き過ぎだ。



 次の打席の安心院(あじみ)が続けて本塁打(ホームラン)を打ったのが駄目押しだったといえるだろう。

 幾ら強打の京サブとはいえ、七番からの下位打線から逆転っていうのは難しい。

 結果、京都サブカルチャー学院は熊崎に2対0の完封で敗れたのだった。


 今日の立役者(ヒーロー)(あわ)本塁打(ホームラン)となる安室の一打を好守備(ファインプレー)でアウトにし、また攻撃では決勝点となる本塁打(ホームラン)を放った姫野だろう。

 安心院(あじみ)の駄目押しの本塁打(ホームラン)も有るけどそれは飽くまでおまけだ。

『現実は小説より奇なり』なんて謂うけど、これは劇的(ドラマティック)と謂うよりもご都合主義って謂いたくなる程にでき過ぎだ。

 ……でもこれが意外と現実なんだよなあ。

 これが運命の女神の悪戯ってやつなのか、それとも甲子園の魔物の仕業かは知らないけど、なんとも(たち)の悪い巫山戯振りだ。

 なんて非情で残酷なことか……。


          ▼


「試合、お疲れ様でした。

 結果は残念なことになりましたけど、お互い実力伯仲の好試合でした。

 特に八回表の安室選手の打席なんか、あともう少しで本塁打(ホームラン)だったし、本当にあれは惜しかったですよね」


 試合終了後のいつもの如くのインタビューとあって、流石に質問にも慣れてきた。


「ありがとうございます。

 確かにあれは惜しかったと思います。もしもあれが入っていれば、否、そうでなくとも責めて安打(ヒット)になっていれば、少なくとも完封負けなんて無様を曝さなくて済んだのですが、でもそんな相手に負けたのなら自分達の負けにも納得がいきますし、後悔なんて有りません。

 願わくば彼らには自分達の分までこれからの試合でがんばってほしいと思います」


 そしてこんな大人な対応をしてくる学校にも。


「まあ、僕達みたいにオタクって呼ばれる者達だって、その気になればここまでやれるってことを示せただけで満足です。これからは暫く趣味に没頭して、そして頭を切り替えたらまた来年を目指します」


 ただ、このコメントは京サブ(彼ら)らしい。

 半分は自虐が有るんだろうけど、決して卑屈にはなってない。寧ろ自分達の個性とばかり、誇らしげにさえ聞こえる気がする。


 なんにしてもこういう前向きなコメントは聞いていて嬉しい。仮令(たとえ)それが表面だけの強がりで、内心では未だ消化不良気味だとしても。

 ……否、彼らの場合はなんとなく言葉通りな気がするけど。


「それでは皆さんの来年の活躍を期待してます」


 こんな台詞を何度となく、いろいろな学校に対して言ってきたけど、そのどれもが全てがオレの本音だ。

 以前なら八方美人で嘘臭いって思ってたんだけどなあ…。


 ああ、またひとつオレのお気に入りの学校が消えてしまった。

 とはいえ、お互いそれぞれが競い合う以上それは決して避けられないのが道理なんだけど、頭では解っているんだけど何故か寂しい。


 オレってこんなに女々しい性格だったっけ。

 もっとドライでクールだとばかり思ってたんだけど。

 ……まあ、()いか。

 次だ次、次。次の試合だ。

※作中に出てくる『合わせる』という言葉ですけど、この言葉って使い方が簡単なようで、意外と難しいみたいです。同じ読み方で似た意味の言葉に『併せる』ってのが有るので。

 それらの違いは『合わせる』は『別々のものを、一つにする』という意味で、『併せる』は『別々のものを、一緒に行う』という意味です。

 でもこれって書く時には迷いますけど、できた文章を読んで比べると実は判り易かったりします。

『AとBをあわせて使う』という文を試してみれば判ると思います。

『AとBを合わせて使う』の場合は『AとBをひとつにして使う』という意味になり『AとBを併せて使う』の場合は『AとBを同時に使う』という意味になります。[Google 参考]

『AとBを会わせて使う』? 恐らく何かのイベントフラグじゃないですか?

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