夏の甲子園十一日目 第一試合 (前編)
有力候補って謂われる学校は果然り強い。
九日目の第二試合、最有力候補、本命と謂われる大阪桐葉は高知県代表の南国高校相手に12対3と圧勝。四番・大島は4打席3安打で本塁打が2本、打点が6という暴れっ振りで、最後の打席は敬遠されてたし。流石は今大会一の猛打者って謳われるだけのことはある。美咲ちゃんも大興奮だった。
三回戦目に入った十日目の昨日も長崎県の聖法、佐賀県の鍋島工業が勝ち抜いている。まあ熊本県の火神が山口県の市立下松に敗れたのが意外だったけど。
ともあれだ、三回戦目が始まったことで、遂にベスト8が決まり始めたわけだ。
その内2校が九州勢。そして今日の第二試合に大分県が勝てば3校目。本当、強いな九州勢。
否、西日本勢というべきか。市立下松もそうだけど、三回戦に残った学校ってその殆どが西日本勢なんだよなぁ……。
十一日目、今日の第一試合も西日本勢同士。広島県対奈良県だ。あの名物抑え投手堂官が在る流川高校の試合だ。
……とは言っても、オレの受け持ちはその対戦相手の優曇華学院なのだが。
「ん? あれ? どうしたんだ?」
今日の流川高校の打順は、というかスタメンが前回と変わっていた。先頭の一番打者が蓼丸に変わって阿世比丸になっているのだ。
「蓼丸はこの間の怪我で出れないけど、その分阿世比丸ががんばってくれるけん」
「まあ一年じゃけん、ちょい心配は有るかもしれんけど、代わりにその分、気合と根性だけは有るけんの」
オレの疑問に対する答はモニターの向こう側、美咲ちゃんのインタビューに応えるふたり組から齎された。
この前、済し崩しでオレの解説役に収まってたふたりだ。今回も美咲ちゃんの解説役を狙ってるみたいだな。黠りしてやがる。
まあそんなことよりもだ、蓼丸はこの前の試合でのピッチャー返しで胸部骨折。一応ベンチ入りはしているけど、試合出場は無理らしい。
安静にしてろよ、全く。
まあ、気持ちは解らないでもないけどな。
で、この阿世比丸の打席だけど、果然り期待は難しくて、結果は三振だった。
まあ、蓼丸も気合ばっかりで三振とかが多かったし、そんなに変わらないけどな。
ああ、だから「気合と根性だけは有る」なんだ。蓼丸もそのふたつは十分だったし。
続く殿畠、世羅の打席も、残念ながら凡退で終わった。
まあ、そうは言ってもまだ一打席目だ。いきなり早々に打てるもんじゃないだろう。
流川高校の攻撃が終わって一回裏。
ピッチャーマウンドに向かうのは、前回蓼丸に代わって継投登板した水主村。代わりに阿世比丸が中堅守備位置へと向かう。
で、この水主村の投球だけど、蓼丸のせいで目立たないだけで、結構優秀だったりする。
武器は130km/h後半の直球。そしてキレの良いシュートとスライダー。
153km/hを投げる蓼丸と比べるから、地味で大したことがないなんて思われるだけなのだ。
水主村は期待に応え、よく優曇華学院打線を抑えていた。その打撃力は大阪桐葉や京サブ並だってのに。
事実、第一試合では相手校を圧倒的な点差で撃ち破っている。
そんな強力打線を相手に未だ無失点。お陰で四回裏が終わっても0対0だ。
五回表、遂に膠着していた試合が動いた。
四番・山本が二塁打で出塁し、続く水主村が本塁打で一掃。これで一挙2点を先取。
誰だよ、水主村を昼行灯なんて言った奴は。
前回に続き、今日の試合でも大活躍じゃないか。
六番・橘高も三遊間を抜く安打で出塁した。
無死一塁。チャンスは続く。
これより下位だけど関係無い。ここはじゃんじゃん行け行けだ。
七番打者の石風呂が送りバントで走者を送る。
堅実だ。
八番の依怙はエンドラン。
一塁ゴロでアウトになってしまったけど、それでも走者は二塁から三塁へと進塁。
安打が出れば追加点だ。
続く九番・九十九も……アウトだった。
こいつは空振りの三振だ。
まあ、所詮は下位。九番なんだし、仕方がないか。
※作中のルビには、一般的でない、作者流の当て字が混ざっております。ご注意下さい。




