夏の甲子園四日目 第三試合 -Heel and Hero-
作中でチーム防御率等を云々といってますが、その数字は縦い加減です。実際にこういう数字になるかは解りません。地域によって予選の試合数とか違いますんで…。
夏の甲子園四日目。第三試合は大阪府代表・大阪桐葉高校対愛知県代表・清洲工業高校。
大阪府と愛知県、どちらも190校近い強豪校の犇めく激戦区だ。
甲子園での戦績は、大阪府が春夏併せて優勝26回、愛知県が19回、勝率はどちらも約6割。
それ故に、一回戦にして事実上の優勝決定戦なんて謂う者も在る程だ。
特に大阪桐葉高校の大島は予選での打率が6割超え、本塁打が6本、打点が18点という猛打者だ。
今大会では、投げの海堂、打撃の大島と謳われる程の注目振りである。
一方、清洲工業高校は特出した選手は在ないけど、その予選戦績はチーム打率が0.385、チームの一試合平均得点が7.5点、チーム防御率が0.82とチームとしての総合力は高い。
つまり、スター選手率いる大阪桐葉と、総合力の清洲工業の対決ってわけである。
とまあ、そんな風に両校の比較をしているうちに試合は始まった。
先攻・大阪桐葉に対するは清洲工業の主戦投手・豊田。
彼の投球スタイルは、先の試合の直江と同じで打たせて捕るって感じのようだ。
ただ、その投球は力強い直球にキレの良い変化球と、随分と安心感が有る。
実際に大阪桐葉の打者三人を、全て内野ゴロに仕留めている。
流石はチーム防御率が0.82。守りが堅い。
攻守が交代して清洲工業の攻撃。
残念ながらこちらも三者凡退だった。
大阪桐葉の主戦投手・戌角もなかなかのやり手だ。そう簡単には点を取らせてはくれない。
二回表、再び大阪桐葉の攻撃。
迎えた打者は四番の大島。
さて清洲工業のバッテリーは、彼をどのように抑えるのか。
豊田が第一投を放つ。
大島が大きく後方へと仰け反った。
狙いは内角高めの直球。そのまま立っていれば恐らく顔面擦れ擦れの際どさ。
摘うまでもなく危険なボール球。
正に悪質な悪球と謂うべきものだった。
だって漫画やなんかと違って、現実にはそこまで正確なコントロールなんてできないらしい。
大抵の投手で右か左かの二分割、コントロールの優れた者でも上下の加わった四分割。
ゲームや野球中継で用られる九分割なんて、そんなことできる奴はまず在ないらしい。
実際、テレビ番組の企画でプロの投手が九分割の的当てなんかやってるのを見たことあるけど、球速を落としてでさえ大抵外しまくってるし。それを考えれば正確なコントロールがどれだけ難しいかがよく解かる。ほぼ不可能と断じて間違い無いだろう。
流石に撃撞けてやろうなんて思ってはないだろうけど、そのリスクは承知のはず。だからこそ悪質と謂えるのだ。
……まさか、本当に撃撞けようとしたんじゃないだろうな。
彼が怪我とかで引っ込めば、その分試合展開は変わってくる。
って、そりゃ無いか。そんなことするくらいなら、敬遠でもすれば宜いんだから。
塁には出すことにはなるけれど、長打のリスクと引き換えならそれも十分アリだろうしな。
それはともあれ第二球目。
って、豊田のやつ、何事も無かったかのように、しれっとしてやがる。
しかも同じコースへの投球って、否、今度は変化球みたいだ。
カキーン!
甲子園球場に快音が響いた。
続いて観客達の歓声が響く。
大島の打球は青空の彼方、真っ直ぐ場外へと消えていった。
誰が云うまでもなく本塁打だ。
ガックリと崩れる主戦投手・豊田。
本来ならオレも悔しがるべき場面なんだろうけど、何故かザマーミロって心境だ。
否、何故かってこともないか。
だってこいつ、あんなことやったばかりだし。
恐らく駆け引きだったんだろう。
思うに最初の危険な悪球は、二球目の変化球のための伏線だったのだろうな。
それをああやって、まるで狙ったかのように本塁打だ。だから豊田もガックリってとこか。
そりゃまあ、そうかもしれないな。
傍から観れば敵役と主役だ。
もしかしてこっちの方が堪えたのか。
だってそこまでやって打たれわけだしな。
勝負ってのは時として非情だ。
まあ、まだ初対決だ。次が有る。
……これが決勝点だったら笑えないけど。
否、哂うしかないか。当然ながら苦笑いだけど…。
フラグとでも謂うのだろうか、結局あの本塁打が決勝点となり、結果1対0で大阪桐葉の勝利となった。
でも、オレが悪いわけじゃない。
ただ、それでもなんか後味が悪いんだよな…。
……今後は余計なこと考えないようにしよう。
※今回のサブタイトルに含まれる『Heel』ですが危うく『Heal』と間違うところでした。
読み方は同じ『ヒール』なのですが、『heel』は『悪役』、『heal』は『癒やし』。『heel』には『踏みつける』という意味も有るようなので『heel』と『heal』一緒にすると、特殊性癖を疑われることに。因みに『heel』には『踵』『弱点』という意味も有ります。
で、この『Heal』ですが、『Villain』とどう違うかというと、簡単にいえば『Heel』は『敵役』、『Villain』は『悪者』。
作者の偏見でいうなら、
『Heel』は更生が許される者、罰はせいぜいお仕置きレベル。倒した後で『仲間になりたそうにこちらをみている』と仲間入りも許される。
『Villain』は不倶戴天の絶対的敵で、絶対悪。罰は無慈悲に処刑一択。罪は決して赦されず、それどころか存在さえもが許されない。排除することが美徳とさえいわれる。
因みにそれぞれの意味の由来は、
『heel』は『踏みつける』という意味から『踏みつけられる』は『悪しき存在』ということでらしいです。
『vilein』の語源は古代ローマ語の『villa』で『荘園』。というわけでもともとの意味合いは『田舎者』。そこから『卑しい者』、『忌まわしき者』と転じて『排除べき敵』となったみたいです。
なんかどちらの由来にしても、ろくなものではないですね。
※作中のルビには、一般的でない、作者流の当て字が混ざっております。ご注意下さい。




