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夏の甲子園四日目 第二試合 (前編) -ええっ? マジでこいつが出るの?-

 甲子園四日目第二試合、鳥取県代表・羽衣石(うえし)高校対新潟県代表・春日山高校。

 この試合、こう言っては悪いんだけど、第一試合の強豪県代表同士の対戦を観たオレからすると判然(はっき)り言って、地味だ。

 方や出場校数22校という、最も出場校の少ない地域代表。もう方やは、依然(やはり)東北の日本海側。優勝校が出たことの無いせいか、どうしても他所と比べると地味に思えてしまう。

 否、第一試合と比べるのが悪いって解ってはいるのだけど…。

 もちろんだからと謂って、両校が弱いと言ってるわけじゃない。

 鳥取県といえば米子東が嘗て選抜で準優勝をしたことが有る。……まあそれも1960年前後と随分昔で、最近は些か成績不振みたいだけど…。

 新潟県は日本文理が2009年夏に準優勝とこっちはそこそこ最近だ。それに新潟明訓なんかも結構名前をよく聞くし。気候というハンデは有るけど、それにも負けずにがんばっている。

 ただ、どちらの学校も最近の戦績が一、二回戦を勝ち抜くのがやっとって感じなせいか、その応援も少人数と、どちらの学校も寂しい。


 それでもそんなの選手達には関係ない。

 否、それどころか、相手がそんな学校ならば、もしかするとこの試合勝てるかもなんて、そんなことを考えていそうだ。

 まあ、殆どの学校は、強い学校(ところ)より弱い学校(ところ)に当たりたいって考えるだろうしな。



 音響(サイレン)が鳴り試合開始(プレイボール)

 先攻は鳥取県代表・羽衣石(うえし)高校。

 先頭(トップ)打者(バッター)十九百(つづお)

 対する新潟県代表・春日山高校の先発投手(ピッチャー)は直江。


 …………え? ええぇ〜⁉

 な、直江って、便所で逢ったあの子のことか⁈


 声に出して叫ばなかったオレを我ながら褒めてやりたい。

 だって、あれって女の子だぞ?

 あの子は数合わせのための代理で、代わりの投手が投げるんじゃなかったのか?

 本気でこの子に投げさせるのか?

 否、もしかしてチームの奴らはこの子の正体を知らないのか?

 それなら納得がいくけど、それってつまり、仲間にも内緒で男の()りをしてるってことか?

 まさか本気でで投げるつもりか?

 否、登板したからには投げるしかないんだけど、大丈夫なのか?

 一応、投球練習の様子じゃ球は届いていたみたいだけど。だけどその球速は90km/h程度。果然(やは)り女子じゃ無理がある。


 コキーン!


 あ〜あ、果然(やっぱ)り打たれたか。

 って、美味い具合に遊撃手(ショート)前ゴロ。

 なんとか取り敢えず(ワン)(ナウト)か。


 続く二番打者・大宮司。

 彼にもいきなり初球から打たれ……って、これまた美味く(ライト)(フライ)

 そして三番・山中も(キャッチャー)邪飛(フライ)


 これってもしかして、偶々美味くじゃなくって、計算通りに巧くなのか?

 確か、投手にとって一番の理想は打たせて捕るって聞いたことがある。

 観る者にとっては奪三振が恰好良いけど、投手にとっては投球数の少ない方が好いからな。投球数に制限も有るし。

 だからと言って、敢えて打たせるのっては相当怖いはずだよな。

 つまりこれは、それだけ守る仲間達(チームメイト)への信頼が篤いってことか。

 それに仲間側にしても、投手への信頼が必要だ。

 よくこんな女みたいな……いや、女なんだけど、こんな非力そうな投手をそこまで信頼できるもんだ。

 少なくとも急造バッテリーとは思えない。

 こいつ、いつからやってんだ?

 もしかして予選以前から?

 よくもバレずにやってるもんだ。

 それとも(チーム)(ぐる)みなのか?

 詮索しないとは約束したけど、それでも依然(やっぱ)り気にはなる。

 と言っても所詮はこの試合まで。勝っても負けても次で終わりだ。

 なんてったって、次の相手は横浜(みなと)学園だもんなぁ……。



 一回裏、羽衣石(うえし)高校の先発投手(ピッチャー)伊福部(いおきべ)

 対する春日山高校の先頭(トップ)打者(バッター)は……。


 カキーン!


 あ……。

 まさかいきなりの本塁打(ホームラン)

 手を挙げてアピールしながら塁を周る一番・前田。

 この1点、非力な直江の援護射撃としては抜群の働きと謂えるだろう。


 続く二番打者は久住……ってこいつ、いつの間にやら三振してるし。

 どうやら前田は本塁打は偶然の産物だったらしい。

 否、こう言うと前田が大したことないみたいだけど、決してそんなわけじゃない。

 単に伊福部(いおきべ)が凄かったってだけだ。

 と言うのも、彼は142km/hの速球とチェンジアップ、そしてキレの良い高速スライダーを武器とする遣り手の投手だったのだ。流石は主戦投手(エース)と謂ったところか。

 そんなわけで久住はこの三球だけで浅然(あっさ)り三振。

 そして三番・長尾が投飛(ピッチャーフライ)

 四番・久保埜(くぼの)三塁(サード)ゴロで凡退。

 う〜ん、前田ってばよく本塁打なんて打てたよな。

 球速153km/hが三人も()たことに比べれば大したことないように思えるけど、それでもこいつはかなりの遣り手だ。


 誰だよ、鳥取県なんて弱小地区で、大した奴なんて()やしないなんて言った奴。

 ちゃんと凄いのが在るじゃねえか。

 それに対して直江といえば、その正体が女であるだけに、どれだけかんばっても平凡だ。

 これは厳しい闘いになりそうだぞ。

※作中のルビには、一般的でない、作者流の当て字が混ざっております。ご注意下さい。

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