夏の甲子園三日目 第二試合 -夢みる奴って何気に強い-
今回、作中において実在の学校についてあれこれと述べており、場合によっては不愉快な思いをされる方もいると思います。
ですが、作者としては一切の悪意はなく、どちらかといえば称賛のつもりで実名で載せさせていただきました。
ただ、やはり不愉快に思われることには変わりはないと思いますのでここにお詫びいたします。
どうもすみません。
日本全国津々浦々、全国に約4000校も高校が有れば中には変わった学校も有る。
第二試合、オレの受け持つ京都府代表は、聞いて思わず耳を疑うような、そんな学校だった。
だって『京都サブカルチャー学院』なんて、有り得ないだろ?
そういうのって、精々が専門学校とかそんな類のもののはずだと思ってたんだけど……、本当にそんなの有ったんだ…。
否、芸術学科みたいなところで多少はそういうことをしてたりってのは、聞いたことが有るような無いような、オレにとってはそんな怪しい認識だった。
「ええ〜? なにそれ、ずる〜い。
私、そっちの学校の応援が好かった〜」
美咲ちゃんの声が届く。
「なに馬鹿なこと言ってんだよっ! そっちの学校に失礼だろっ!
応援の人達にちゃんと謝れっ!」
本当、なんてこと言ってんだ。自分の立場を考えろよ。
オレだって本当はそっちが好かったっての。
こちら側の応援は、こういう人達の集まる学校なので、なんと謂うかクセが強い。
多分、制限が無かったら、仮装とかで応援してそうな、そんな人達がかなり多い。
というか、恐らくそれのギリギリの恰好をしていると思う。なんか皆してその恰好がなんと謂うか微妙にアレな雰囲気だ。恐らく解る人間には解るってやつだろう。
オレがこんなこと考えている間に、美咲ちゃんが向こう側の応援の人達に謝っていた。
どうやら天然のアレってことで、笑って赦してもらえたみたいだ。
多分、カメラが撮影してるのも有るんだろうけど、それでも懐の深い人達だ。不快に思っわれも仕方がないところなんだけどな。
で、その美咲ちゃん側は、東東京代表・墨東高校。
オレ達の地元・東東京の代表だ。
そんな理由も有り、謝罪後は浅然りと何事も無かったかのように、応援の観客に自然に解け込んでいた。
なんとも大した人徳だ。本当に全然り溶け込んでるし。
そんなことを気にしているうちに試合が始まった。
先攻は墨東高校。
先頭打者・住田に対するは先発投手の安室。
なんか沖縄県民みたいな名字だな。いや、別に縦いんだけど。
うん、人の名前は自由だ。仮令それが安室礼なんてどこかで聞いたような名前だとしても。
それにしても、サブカルチャー学院でこの名前って、絶対ネタでの進学だよなぁ。
…って、そんなわけないか。進学ってのは将来に関わる大事な選択なんだし。
でもなんていうか、誰でもツッコミたくなるんじゃねえの?
まあ、こんな冗談みたいな名前だけれど、その実力は当然京都代表に相応しいもので、墨東の打者三人を直然り打ち取り攻守交代だ。
彼ら風に謂うなら、流石は期待のニュー○イプ、「ザコとは違うのだよ、ザコとは」ってことになるらしい。
いや、いろいろとツッコミたくなるんだけど、まあここは気分の問題か。
台詞が微妙に違うとか、それは敵側の台詞だとか、そんなことはおいておくべきだろう。
アレなやつらに拘わると、とにかく面倒くさいだけだしな。なにより詳しくは知らないし。
大体アレは昭和世代の漫画だしなぁ…。
一回裏、京都サブカルチャー学院、略して京サブの攻撃。
先頭打者は一条光。
うん、ちゃんと京都らしい名字だ。公家とかそんな感じの名字だな。フルネームもなんか恰好好い。
……また、なんかネタに引っ掛かってたりしないよな? 否、まあ別に縦いんだけど。
攻撃の回ってことで、吹奏楽部の応援曲が流れる。
曲名は『私の彼は○イロット』っていう昭和のアイドルの曲らしい。
……なんだろう。なんかアレな感じがする。
いや、そういう学校なんだからそういう選曲も可怪しくはないんだけど、なんなんだろうな。
で、その一条だけど、見事な二遊間を抜く安打で出塁。さらに二番打者の打席では、見事な二塁への盗塁を決めていた。
なるほど、高速の戦闘機ってイメージだな。
選曲に間違い無しってわけだ。
で、その二番打者・神谷美旦なんだけど、彼が執ったのは堅実な送りバンド……のはずだったんだけど、なに? 一塁もセーフなの?
ええ? 打者二人で無死一・二塁って凄くない?
ネタ枠みたいな感じで出て来たオタク学校のイメージだったのに、なんなんだよこの強さ。
そういや近畿勢って強かったんだよな。
そんな地区の代表なんだから弱いわけがないってことか。正直言って侮てた。
続く三番打者は吉良隼人。
無事に安打だったんだけど、得点にはならず。
まあでもアウトにもなってなく、現在無死満塁。
ここで迎えた四番打者。
…って、安室? マジで?
つまり背番号1で四番ってやつ⁉
否、そういうやつって結構在るって聞いてはいたけど、普通投手って下位で体力を温存するもんじゃないのかよ?
盛り上がる応援団。
流れる応援曲。
曲は『翔べ○ンダム』
もう絶対に安室の名前を意識して、漫画の主人公と掛けた選曲だ。
墨東の投手・高橋の第一球は外角高めの直球。
ここは見逃しが多く、打球もファールになりやすいコースらしい。
だがしかし、安室のバットは高橋の投球にジャストミート。
打球は快音と共に風に乗り、スコアボードに直撃する本塁打となった。
勢いに乗った京サブは、さらに五番・須藤、六番・碇谷と続けて安打を重ねていき打者一巡、一回裏が終わった時には0対7となっていた。
しかもその後も毎回得点を重ね、試合が終わってみれば0対18の圧倒的点差。
昨日も点差の大きな試合が有ったけど、流石にここまでじゃなかった。
なんとも観ていて可哀想になってくる。
だけどそれでも、地方大会とは違い甲子園大会ではコールドゲームが適用されないらしい。
なので第104回大会(2022年)2回戦の大阪桐蔭(大阪)対聖望学園(埼玉)の19対0みたいな例も有ったりする。
で、なんでコールドが無いのかというと、ここまで勝ち上がってきた強豪校なら奇跡の大逆転だって起り得るだろうってことらしい。
確かに、仙台育英の第101回大会(2019年)、飯山(長野)戦にて5回に10得点を記録したような例も有る。
他にも、第98回大会(2016年)では、東邦(愛知)が北陸(福井)戦にて4回に、打者16人が11本のヒットを連ね、一挙12点を挙げている。
解り易い逆転の例だと第93回大会(2011年)3回戦の横浜(神奈川)対智辯学園(奈良)の9回二死から8点を奪った大逆転勝利なんかが劇的だ。
つまり、諦めない限り勝利の可能性は有るってわけだ。確かに勝負は水物とか時の運とか謂うからな。
とはいえそれは飽くまで奇跡。余程の幸運でもないとそう安易には覆らない。
まあそれ以前に、努力に基づく実力が絶対必要なんだけど。
けどまあそんなわけで、勝負はやってみないと解らないわけで全力を尽くしたのなら決して恥じたり、卑屈になったりすることは無い。だから悔々なんてすることは無く、胸を張って入れば良い。
それに地方大会では122対0とか82対0なんて記録も有るみたいだし、それに比べれば……。
うん、この人達ってある意味凄い。少なくともこれで投げ出さなかったってんだから、その不屈さは十分尊敬するに値する。
とまあそんなわけで、墨東は結構な大差で負けたわけだけど、決して……。
否、自業自得か…。
こいつらって試合する前までは、陰で隠れて京サブの連中を「なんかの間違いで代表に勝ち上がったオタクども」とか、「こんなのが勝てる程京都はレベルが低い」なんて馬鹿にして侮て嗤ってたからな。
恐らくそれがどこかで耳に入ったんだろう。
それでその怒りがそのままやる気になったってわけだ。
彼ら風に言うなら「てめーはおれを怒らせた」ってやつか。
否、それとも案外彼らの好みのジャンルは違うのかも。応援曲がロボット戦記系のアニメみたいだし。
まあ、オレとしてもこっちの方なら多少は理解というか共感できるところもある。
依然り男なら機械技術系が憧れだよな。
まあともかく、やる気になった本気の京サブと、驕って腑抜けた墨東とじゃ最初っから勝負になってなかったわけだ。
……オレもそんなに他人のこと評えないか。
最初はあいつらと同じようなこと考えてたわけだし。
それによく考えれば、今の日本を支えているのは、こういうオタクって連中だったな。
こいつらの目指すのは夢を創る仕事ってわけだ。
で、その夢を現実にしようと努力するのが、影響を受けた技術系オタク。
終戦世代の目指したのが欧米文化で、昭和後期が機械技術。そして平成世代が電脳技術。
オレ達令和世代はいったいどこを、何を目指していくのだろう。
……恰好付けて、難しいこと考えても解らないか。
ならまずは目の前のできることからだ。
そうすりゃ何か目標とするものも見つかるだろう。
京サブの連中に負けてられない。
よし、がんばるぞ。
※作中にて『解け込む』『溶け込む』といった表現が有りますが、それぞれ『解り合う』『一体化するように馴染む』という意味合いで使っております。
因みに『とける』という漢字には次のようなものが有りました。[Google 参考]
【解ける】
ほどける。解除される。わだかまりが消える。問題が解決する。
【融ける】
固体が熱などによって液体状になる。(限定されるのが通常です)
なお、常用漢字表では『融』には『とける』という読みはないようです。
【溶ける】
物質の分子が、液体中に均一に拡散すること。
固形物が熱で液状になること。
【熔ける】
『金属』が熱で液状になったり、1つにとけあったりすること。『融』けて『溶』ける?
『熱』に依ることを強調?
【鎔ける】
『金属』が熔けること。
『金属』であることを強調?
※甲子園の大量得点差の試合は、
2001年・1回戦 明豊20―0聖光学院
2019年・1回戦 仙台育英20―1飯山
2022年・2回戦 大阪桐蔭19―0聖望学園
などがあります。
高校野球最多得点は98年青森予選の東奥義塾 対深浦の122-0です。試合時間3時間47分。
東奥義塾は初回に39点、7回合計で86安打、33四死球、7本塁打、78盗塁。
深浦は打者25人、無安打、16三振ということらしいです。
また近年では2022年の第104回大会にて、千葉学芸が51安打82得点17本塁打の猛攻でわせがくに82-0で5回コールドで勝利したようです。
[Google 参考]
※甲子園1イニングの大量得点記録について。
夏の第9回(1923年)の1回戦・立命館中(京都、現・立命館)が台北一中(台湾)の3回裏に14点が1位の記録です。また、12人連続得点という記録でもあります。
次点は13点で、夏の第45回(1963年)2回戦、九州学院(熊本)が足利工(栃木)戦の7回裏 に記録したものです。このイニングでは、滝川選手の満塁本塁打も飛び出しています。
また、春の第43回(1971年)の1回戦にて、東邦(愛知)が報徳学園(兵庫)戦の1回裏に11点を挙げたりもしています。
[Google 参考]
※作中のルビには、一般的でない、作者流の当て字が混ざっております。ご注意下さい。




