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夏の甲子園初日第二試合

 今回の話では、兵庫県代表対島根県代表の対決となっております。但し、双方とも作者に依る架空の学校であり、仮に実際に同名の学校等が存在したとしても一切関わりがありません。また、彼らの地元地域についても飽くまで作中での話です、現実とは関わりありません。鵜呑みにしないでください。そんなわけで該当地域の関係者方には申し訳ありませんが、他意は無いのでお許し願います。

 第二試合、オレのいる三塁側応援席(スタンド)は随分と空いた状態だった。

 否、応援が居ないわけではない。学校の生徒達や関係者といった人達は()るには在た。ただ、その規模が小さかっただけだ。一回戦(先程)までの時と比べて…。


 まあ、正直言って仕方がないだろう。

 こちら三塁側の学校は島根杵築学園高校。こんな名前だが島根県の代表校だ。

 そして島根の予選参加校は39校、部員数は約1700人。優勝回数は春夏合わせて一度も無い。

 対する相手校は地元兵庫県の山陽明石高校。

 兵庫の予選参加校は164校、部員数は約7800人。全国でも有数の激戦区。甲子園での優勝回数も春6回、夏7回と兵庫県のレベルは高い。

 しかも、優勝候補の一角、報国学園を決勝で破っての出場だ、明らかに相手が悪いってわけだ。

 要するにやる前から諦めてるってわけか…。


「確かに相手は強豪(ひし)めく兵庫県の代表チームですが、うちの選手達だって負けてませんよ。

 相手は同じ高校生。増してや同じ初出場。決して勝てない相手じゃないと信じてます」


 応援に来ていた同校の、同じ野球部の生徒達の力強い言葉に、周囲の応援の人達も肯く。

 まあ、そうでないとな。

 選手達にとって何が堪えるって、応援する者の心が折れるのが一番堪えるっていうからな。


「相手は強敵ですが、応援の方は負けてません。

 選手達も壮気健全。きっと良い試合を見せてくれることでしょう」



 オレのリポートが終わると同時に試合が始まった。

 先攻は相手側の山陽明石高校。

 先頭(トップ)打者(バッター)を凡打に抑えたところで、二番打者が二遊間を抜くヒット。三番打者がバンドで送って二死二塁。

 こう言っては悪いんだけど、先入観でヤンキーイメージが有ったため、結構イケイケで振り回してくるとばかり思ってたのだけど、なんとも手堅くきたものだ。

 そういやこの地域って、ガラが悪いのが多いと同時に、全国でも秀才の多い所でもあったんだよな。


 なんてこと思ってる間に快打音が響いた。

 打球は……って、うおっ⁈


 あ〜、びっくりした。まさかこんな所に飛んでくるとは…。

 そう打球はオレの頭上数十㎝付近まで飛んできたのだ。なんて危ない。

 とはいえ取り敢えずストライクひとつだ。


 再び投球は続く。

 まずは……ボールだ。

 一球外したってところかな…。

 次は……内角ギリギリ。

 ……ボールか…、結構よく視てるな。

 これでカウント、ツーボール、ワンストライク。

 続いては外角……。


 打者が打球を捉えた。

 そして打球は…。


 打球は投手を強襲し、グローブを弾く。

 そしてその球は二塁手の前へ。

 素早く捕球された球は一塁へと送られ、走者は見事にアウト。無事に一回表を乗り切ったのだった。


 攻守交代し一回裏、島根杵築学園高校の攻撃。

 残念ながら、その回の攻撃は三者凡退で浅然(あっさ)りと攻守交代(チェンジ)だった。

 流石は強豪兵庫代表、そう簡単にはいかないよな。


 二回表、再び山陽明石の攻撃。

 だが島根杵築もよく守り、1点さえも与えない。

 そしてその裏、島根杵築の攻撃も山陽明石の強固な守りを崩すことが依然(やは)りできない。

 そんな攻防を繰り返し、そのまま膠着状態が暫く続いた。


 動きが有ったのは七回裏、山陽明石はエースから第二投手へと代えてきた。

 で、この第二投手、肩の慣らしが不十分だったのか、それとも打者との相性だったのか、島根杵築は遂に念願の初ヒットを奪ったのだ。

 そんな理由で(ノー)(アウト)二塁。そこから二番打者・多々良が堅実に送りバンドで(ワン)(ナウト)三塁。

 そして迎えた三番打者・石飛(いしとび)。彼の犠牲フライで1点先取。


 格上と思われた相手から先制点を奪ったことで、島根杵築のベンチが沸き立つ。

 そして当然、オレ達の応援席(スタンド)も大盛り上がりだ。

 弱小と云われた島根勢が、強豪兵庫に一矢報いたわけである。

 勝てる。勝てるぞ。大金星だ!


 余勢を駆って攻めたい島根杵築。

 (ツー)(アウト)走者(ランナー)無しで挑むは四番打者・主将(キャプテン)錦織(にしごり)

 期待に応え、彼も中堅手(センター)前ヒットを放つ。

 いけっ。いけるぞ!


 だが、この回のこの攻勢もここまでだった。

 二番手投手が捕手の檄により持ち直し、五番打者・田中を二塁(セカンド)ゴロに打ち取り攻守交代(チェンジ)となった。

 まあ、大丈夫だ。このままあと二回、守り切ったら島根杵築(こちら)の勝ちだ。


 続く八回表、山陽明石の攻撃。

 幸い相手は下位打線だったため、きっちりと抑え切ることができた。

 ただ、裏の攻撃では追加点ってわけにはいかなかったけどまあ()しだ。

 さあ、あとは九回を守り切るだけだ。


 盛り上がる島根杵築応援席。

 そりゃあそうだ、あと少しで大金星なんだ、応援にも力が入るってもんだろう。

 あと女の子達なんて祈るかのようにしている子らも何人か()る。

 そう言やこの学校って、地元には出雲大社が在るんだったな。だったら祈るは大物主神(おおものぬしのかみ)ってところかな。

 まあ、神頼みってのも解らないではないよな。勝負は時の運とも云うし。


 だが、流石は強豪兵庫代表。ここから怒涛の反撃が始まった。

 先頭打者が出塁した後、二番打者が送りバンドを装ったヒッティングで(ノー)(アウト)一・三塁。

 続く三番打者が二塁(ツーベース)(ヒット)で1点返して(ノー)(アウト)二・三塁。

 そして四番打者が走者一掃の本塁打(ホームラン)で3点追加しての逆転。

 だというのに未だ(ノー)(アウト)

 島根杵築が慌てて投手(ピッチャー)を交代させるがそれでもこの攻勢は収まらない。

 最終的には打者一巡してあれから3点追加し7対1の絶望的点差に。

 島根杵築(オレ達の)応援席(スタンド)では女の子達が半泣き状態。それでも男子達は健気ながらも応援を続ける。

 そう、試合前にも言ったけど、選手達にとって何が堪えるって、応援する者の心が折れるのが一番堪えるのだ。

 だからこそ彼らは歯を食いしばり応援を続ける。

 これまで闘い続けた……否、今もなお闘い続ける選手達のために。



 結局結果は覆らなかった。

 運命の神は無慈悲だ。

 はぁ…。また負けチームへのインタビューか…。

 だけど、決して彼らは恥じるべき存在ではない。

 強豪相手にあれだけ善戦したんだし、寧ろ誇って良いくらいだ。


 勝負事には必ず勝者と敗者が出る。

 これは避けては通れない。

 ならば責めて、オレくらいは彼ら敗者を讃えよう。

 素晴らしき闘いを観せてくれた彼らを。


 よし、じゃあいくとするか。

※作中のルビには、一般的でない、作者流の当て字が混ざっております。ご注意下さい。

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