Brain shrinker -人は、誰かに成れる。……でも熟れの果てって、腐るってことじゃねえの?-
今回のサブタイトルですが、特に声優や俳優等といった方々に対して悪意があってのものではありません。関係者の方にはご不快のことであろうこと、ここにお詫び申しあげます。
頭が可怪しいとか、腐ってるとか、そんなサブタイトルですが、笑って赦していただければ幸いです。
ということで、もう一度謝罪を。本当に申し訳ございません。
7月。期末試験が終わり、クラスの奴らも放と一息吐けるようになった頃……否、まあ一部を除いてなんだけど……って止めておこう、ただ強いて言うなら、例に依って美咲ちゃんがその中に含まれてるって言えば、まあ十分伝わるだろうしな。
で、その…まあ、ともかくだ、そんなわけで大抵の奴らは再び試験勉強から解放され、自由の身となったわけだで、当然オレもフリー……となるはずだったんだけど…。
現在のオレはJUNとして作曲活動中。
本来ならば、学業優先なので、もう少し悠然りというか暢然りとしたいところだったのだけど、『魔法少女マジカルリリー』の監督からの要請で、主要キャラのイメージ曲を作る羽目に。あのアニメ監督にはフェアリーテイルの件で借りが有るからなぁ…。
そんな理由でオレは平日だというのに、学校が終わって直ぐでスタジオへと向かったのだった。
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「じゃ、これが依頼の曲です。
あと一応、歌唱も添附にしてます」
例に依ってメモリーを監督に手渡す。
「って言っても、実際は電子音って謂うか、他人の声を機械で再現して組み合わせたものに過ぎないですけど、一応イメージは把握できればと思いまして」
但し、こんな台詞附きだけど。
「ふ〜ん、なるほどね。
じゃあ、実際に聴いて試ようか」
そういうわけで、試聴すること暫く。
「うむ、流石は新進気鋭のJUNだけあって、どれも良い曲ばかりだ。
よし、早速コピーを録って皆に配るとしよう」
実際に人が歌うんじゃなく機械に依る再現のため、多少の心配が有ったのだが、大した問題は無かったようだ。
ただ……。
「それでだが、彼らの練習と収録の際には君にも立ち会ってもらいたいのだが、いつが宜いかな?」
どうやら監督の中では、オレの立ち会いは既定となっているらしい。
否、まあ確かにその責任は有るんだろうけど。
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数日後、学校が終わったオレはスタジオにて歌唱指導を行なっていた。
相手は各主要キャラを演じる中の人達。
それらのキャラの見た目年齢に対して、演じる彼らの年齢は高い。中には随分と年ぱ……まあ、それなりの大御所も在たりする。
年齢については不問がお約束だ。
それは女性限定ってわけじゃない。
確かに女性に年齢を尋ねるのは失礼ではある。
だが、この業界に関してはそれとは別の意味で禁忌だ。
だってあの年齢であの演技だぞ。とてもじゃないけど、正気じゃ無理だ。
オレもドラマ『学園騎士団』で『小笠原由宇』役を経験したけど、これはそんな生易しいものじゃない。
判然り言って痛い!
成熟したおっさん、おばさんが、あんな痛々しい……。
羞恥心とか尊厳とか、ついでに礼節とか、とにかくそんなものを全て捨て、己を殺して新たにその役に生まれ変わる。
そうやって役に成り切ることができて、それで漸く第一歩。
そんな冥府魔道の道こそが、この声優業界という世界なのだ。
黒歴史に染まるどころかどっぷり浸かり、漬かりきり、奈落の深淵を堕ちに墜ち、その最果ての神となる。そんな業を極めんとする者のみに許されし職こそが、きっと声優というものなのだろう。
まあ冗談はともかく、ある意味虚無の悟りを啓くことが必要だろうことには違い無い。
ただ、その道程は厳しい。
「声優王にオレはなる!」とか憧れ任せで門を叩き、「俺は常識人をやめるぞ」などと厳しい覚悟で挑んでみても、そうそう適うわけがない。
恐らくその願いの叶わない者が殆どだろう。
そうやって何かに成ろうと憧れた熟れの果てが、単に腐っただけの痛いオタクってのも少なくないはずだ。
恐らく多くの挫折者達は「早く社会人に復帰したい」なんてことになっていることだろう。
そんな成功者達が彼らなわけで、そのひとりひとりへの指導しているわけだけど……果然りこの手の人達って曲者だ。と謂うよりも個性的?
例えば主人公・遠野百合役の美月真奈さん(XX歳)。
実は歌手としてもなかなかの実力。というか、何枚もアルバムも発表している実力者。
話には聞いていたけど、所詮本業は声優だからと侮っていた。
指導といっても殆どイメージを伝えるだけで、技術云々は必要無し。
う〜む、声優畏るべし。
因みに見た目もなかなかの美人で若作り。結構長いらしいのに。
マジで声優畏るべしだ。
他にも、主人公の相棒・妖精フェイ役の柚原花梨さん(推定2X歳)。
歌唱力はまあ程々。流石に皆が美月さんのような怪ぶ…否、超才媛ってわけじゃないようだ。喩え見た目が趙○穎的な顔立ちの美人だとしても。まあ、この人もそんな役を演じてるだけかもしれないけど…。
でもそんな柚原さんも、何年かすれば美月さんみたいになったりするのだろうか…。
主人公の友人・春日彩芽役の里見美里。
彼女の年齢は随分若い。
恐らくオレより少し歳上の二十歳前後ってところだろうか。見た目はオレと同年代なんだけど…。
まあ、新人声優ってところだな。
でも、その歳でこの抜擢ってことは、実力は本物に違い無い。
……そのはずだよな?
比較相手が悪いだけかもしれないけど、正直に言えば平凡だ。少なくとも歌に限っては。
まあ、音痴とか下手ってわけじゃないんだ、恐らく問題は無いはずだ。本業は飽くまで声優だろうし。
「言葉で説明するより、実際に歌ってみせた方が解り易くって良いんじゃないか?」
そう言ってきたのは、森聖人役の諏訪進一。
年齢は多分三十過ぎ。柚原さんより少し上ってところか。
恐らく調試した悪戯けってところか。
悪い虫なんて思われてるなら心外だ。オレにそんな気はさらさら無い。
「じゃあ」
そんな理由で癪だったので、それではと歌ってみせるとしよう。
「わあ、凄い」
里見さんが感嘆の声を洩らす。
ふ、ざっとこんなものだ。
「お前、本当は女だろ?」
あ……。
諏訪さんの言葉で己の失態に気づいた。
素然早乙女純のつもりだった。
つい、調子に乗ってしまった。
まあ、相手も冗談で言ってるんだから、バレるなんてことは無いだろうけど。
「冗談は止してくださいよ。これでもちゃんとした男なんですから」
だから否定もこれで十分。
「それだけ歌えるんだ、シンガーソングライターとしてもやっていけるんじゃないのかい。
デビューの話とか有るんじゃないの?」
傍らで聴いてた監督がオレに問い掛ける。
「もしこの声でってんなら無理ですよ。いずれ近いうちに声変わりだってしますからね。
それに目立ちたくないから、JUNの活動も秘密にしてるんです。今のままでも十分満足過ぎですよ」
最近忘れがちだけど、早乙女純が務まるのも、いったいいつまでのことだか。せっかく現実逃避してたのに……。
人間は何者かに成れるなんて何かのキャッチコピーで有ったけど、その後の熟れの果て……否、熟り損ないってやつは……。
うん、腐り果てるだけだよな…。
ああっ、早く男に戻りたい!
※今回のサブタイトル『Brain shrinker』の意味は直訳すれば『脳萎縮者』、または『脳障害者』つまり『脳の病んだ奴』という意味です。『Head shrinker』ともいい、こちらは『誇大妄想』という俗語です。
あと、もしかすると『Brain shrinker』には『萎縮思考者』で『引き籠もり』なんて意味が有るかも? 少なくとも『shrinker』には『引っ込み思案』という意味が有るみたいです。
※サブタイトル等で使っている『熟れの果て』ですが本来は『成れの果て』と書きます。
ここでの意味合いは『熟成』もひとつ間違えば『腐る』と化すっていう皮肉です。
何でもただ時間を掛ければ良いってわけじゃないってことで、大事なのは内容ですね。惰性じゃ意味が無いですから。
……作者的には自虐?
※作中に『適う』『叶う』という言葉が出てくるので、ついでに『敵う』も含めてその違いを比べてみると次のようになってました。
【適う】ぴったり当てはまる、適合する。
【叶う】望みが実現する、思い通りになる。
【敵う】匹敵するという意味。普通は、打ち消しの表現をともなって、勝つことができないという意味で用います。
[Google 参考]
『敵わない』大きな目標を『叶う』よう努力で克服し、その適性に『適う』ようになれば、格好良いですよね。
※作中に出てくる『果然り』ですが、『やはり』には『果然』と『依然』の二通りの意味が有りました。
【果然】予想していた通り。
【依然】以前と比べて状況が変わらない。
[Google 参考]
こういう理由で使い分けることにしたわけですが、恐らく惰性で『依然』となっているところが有るかも…。
※作中に出てくる『ちょっと』を『調試』と当てていますが、意味合いは本来の『少し』とは異なります。
『調試[tiáo shì]』とは中国語で調整の意味で、コンピュータプログラムのデバッグ[de-bug]作業と訳されたりもします。[Google 参考]
そういう理由で、作中では女性に湧く悪い虫(bug)除去(de-〜)という牽制の意味合いが有ったりします。
※作中に『洩らす』という言葉が出てきたので、同じ意味合いの『漏らす』との違いについて調べてみました。なお、公文書などでは『漏らす』で統一されているそうです。
【漏らす】
主に水の場合に使う。
旁の『屚』は『屍』と『雨』で、恐らく血等が『滲み出る』の意味。
【洩れる】
水以外の場合に使う。
旁の『曳』は『申』で、のばすこと。
『拡がる』のイメージと思われます。
[Google 参考]
※今回はサブタイトルや内容には、声優や俳優といった職種に対して中傷的なものが含まれておりますが、当作品にはそういった意図はありません。読者の方においても真に受けないようご注意下さい。
※作中のルビには、一般的でない、作者流の当て字が混ざっております。ご注意下さい。




