デビュー曲
デビュー曲が決まった。
タイトルは『恋するトワイライト』
毎夕に出会う名も知らない男性に想いを寄せる。そんな少女の切ない慕情を詠った曲だ。
作詞作曲は聖さん。彼は数多くのヒット曲を、うち所属の歌手達に、ジャンルを問わず幅広く提供しているという。
そんなわけでオレ達も意気軒昂。
美咲ちゃんなんて学校で、休み時間を使っては練習に励む姿がよく見掛けられたくらいだ。
まだその正体を知らない奴らから、痛い女なんて後ろ指を指されながらも、それすら気にならないくらいの熱中ぶりに、いったいどれだけの感動を覚えたことだか。
ただ、好事魔多しというわけで……。
「どういうことですか、聖さん!」
「その…、上からの指示でね……」
「まあ、そういうことだ織部。
ライバルの伊藤瑠花が新曲を出すって情報が入ったんだ。
だったらこっちも、千鶴の新曲で対抗するのが当然だろう。
運が悪かったと諦めてくれ」
何が起きたか説明しよう。
今朝、事務所にやって来たところで、オレ達は聖さんからの呼び出しを受けた。
で、来てみると、他にも二人。
長谷川千鶴(16歳)と、そのマネージャーの横手。
長谷川千鶴は、オレ達に先駆けてデビューしたアイドルで、現在絶賛売り出し中、人気もそれなりに高いらしい。
そんな彼女のライバルが、先程話に出てきた伊藤瑠花。
彼女の所属する大東プロダクションは、うちの事務所にとってもライバルに当たり、上のほうでも随分とムキになってるらしい。
と、いうわけでせっかくのオレ達のデビュー曲も、長谷川千鶴にもっていかれることになったというのだ。
「そういうわけなので、悪いが3人には我慢して受け入れてもらいたい」
すまなそうに言う聖さんに対し、どこか勝ち誇ったように嗤う長谷川千鶴とマネージャー横手。
オレの被害妄想かもしれないが、正直いっておもしろくない。
だが、これも業務命令だ。黙って受け入れるしかない。
こうしてデビュー曲の話は白紙となってしまったのだった。
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駄目だ。やっぱり納得がいかない。
美咲ちゃんのがんばりを毎日見てきただけに、どうしても受け入れられない。
悶々とした不満は帰宅後、夜遅くになって収まらなかった。
翌日、我慢は限界を超えた。
そして、オレはやらかしてしまった。
曲の制作に手を出してしまったのだ。
後から考えれば恥ずかしいのだが、それでも決して後悔はない。
成算はあった。
「兄貴達に出来て、オレに出来ねぇわけがねぇ」
兄貴達のように、自分達で曲を作ってるアマチュアバンドも少なくない。
甘い考えかもしれないが、それでもやると決めたのだ。
さて、曲制作だが、どうやって作ればいいのだろう?
まずは詞か。
どんな内容がいいんだろう。
女性アイドルの曲の歌詞。
考えるだけで恥ずかしい。
これをオレが作るのか……。黒歴史になりそうだ。
だが、やると決めたのだ。
羞恥心なんていってる場合じゃない。
今度こそ、真面目に考える。
中学生アイドルが歌う曲。
出来れば、子供嗜好の変態どもに媚びるようなものじゃなく、女性も含めた万人受けの曲にしたい。
じゃあ、どうするか。
オレの出した答は、より低年齢、幼い子供達の心和ましい恋愛をイメージした曲だった。
流石にこれなら、如何に子供嗜好の変態とはいえ、欲情を促されることもないだろう。
女性に対するイメージも悪くないかもしれない。
よし、これならいける。
後はこれにあった可愛らしい曲をつけるだけ。
パソコンの楽曲制作のソフトを使って制作、調整を行ない完成させる。
これでとりあえず1曲だ。
とはいえ、所詮はド素人。
心配なので後、何曲か作っておこう。
気づいたら夜が明けていた。
※設定ミス発見、長谷川千鶴の年齢を14歳→15歳と変更しました。[23年1月15日]
→再度の設定変更です。長谷川千鶴の年齢を15歳→16歳と変更しました。[23年2月2日]




