二日目は……
文化祭二日目。土曜日に開催されるので、保護者はもちろん、小中学生も見学に来る。オープンスクールのような感じだな。将来、うちの高校に入学したいと考えている人も来て、学校の雰囲気を知るのだ。
だからこそ、朝礼の時は「見学に来る人に迷惑をかけないように」と厳重に注意された。
今日、俺は10時~店番のシフトが入っており、公演後の商品整理までが仕事である。劇に使った小道具の内、売りに出すものが運ばれてくるので、それらを仕分けするのだ。
「お疲れ、暁君。これが追加の品ね」
「オッケー、仕分けていくかあ……。結構な量だな」
「そうね。私も手伝うから、ちゃっちゃと終わらせましょう」
◆
なんやかんやと時間がかかり、俺が自由になったのは11時半。さて、これからどうしようか。今日、紗也は小鳥遊さんと一緒に見て回るらしいので、俺は……
「おーい、姉さん~!」
「あ、和也! 作業は終わったのか?」
「ああ。待たせてスマンな」
「大丈夫大丈夫。それじゃあ、一緒に回ろうか」
今日は姉さんと一緒に文化祭を回る約束をしている。いくらOGとは言え、部外者が一人で文化祭を回るのは気が引けるようだ。
「俺達の劇、見たのか?」
「見たぞ。重要文法が散りばめられていて、驚いたよ。意図して散りばめたんだよな?」
「流石姉さん、気が付いたんだ。そうそう、うちのクラスの委員長が張り切ってさ」
「いやはや、優秀な人だね。同じクラスにああいうタイプの人間が居たら、もう少しは勉強が楽しくなったのかなあ?」
「どうだろ? そもそも、姉さんもかなり優秀な方だったじゃないか」
「いやあ、私が成績を伸ばしたのは高3の頃だぞ? 和也達と一緒に毎日勉強したおかげで成績が伸びたんだよ」
「そうかなあ? でも、確かに萩原のおかげで、勉強を楽しめているのは事実かもしれないな」
「受験は団体戦って言う奴だな」
「違いない。それで、姉さんはどこか見たいところはあるのか?」
「そうだなあ……。あ、クラブの様子を見に行きたいな」
「科学部の? まだ行ってなかったんだ」
「知ってる後輩がほとんどいないから……。躊躇してしまってさ」
えーと、姉さんがクラブ活動をしていたのは高2まで。当時一年生だった人は今は高3。そっか、仲良くなった後輩は、今は受験勉強中か。
「じゃあ、一緒に行こうか」
「ああ」
◆
科学部の扉をくぐる。おや。丁度、何かのショーをしているようだ。白衣を着た学生が、パソコンの画面をホワイトボードに投影しながら、観客に説明する。
「今から、メモ帳にとある文字列を打ち込みます」
――カタカタカタカタ
「そして、これを保存します。すると……」
――ピコン!『ウイルスが検出されました! http://……にアクセスし、ウイルス対策ソフトをダウンロードしてください!』
「と偽の警告メッセージが出るようになりました。これ、オッケーを押しても、×ボタンを押しても消えないんですよ。こんな風に」
警告メッセージのOKボタンや×ボタンを押すも、メッセージが消える事は無かった。
「これで、慌ててURLにアクセスすると、全く効果の無い、ただ高いだけのウイルス対策ソフトを購入させられるという訳です。もし、ご自宅のパソコンでこのようなメッセージが表示されても、慌てず有識者に相談するようにしましょう。そうする事で、詐欺の被害に遭わずに済みます。ちなみに、このパソコンにはウイルス対策ソフトが入っています。しかし、排除されていません。この事から分かるように、『ウイルス対策ソフトを入れていれば安全』という訳では決してありません」
そこで、彼はいったん言葉を置き、真剣なまなざしで観客を見た。
「このような手口の詐欺が最近増加しています。特に最近は、『プログラミング教育がどーのこーの』と、パソコンに詳しくない人でもパソコンを持つ時代になっています。そんな時代だからこそ、こうした詐欺が増えているのでしょうね。だから、私達に求められることは正しい知識を知る事です。ご清聴、ありがとうございました」
――パチパチパチパチ……
すげぇ……! あの人、一瞬でコンピュータウイルス?を作ったよ……。
「あんなに簡単にウイルスって作れるものなのか?」
姉さんに聞いてみる。
「あはは。あのプログラム、実は私が後輩に教えたんだよね。それが代々受け継がれてるのかなあ……」
「へー。って姉さん? 後輩を嵌めたのか?」
「普通に教えただけだよ。今、彼がやったみたいに、『こういう詐欺に気を付けろ』ってな」
姉さんの技術力が想像以上にヤバくて、少し怖くなったのだった。
※このようなプログラムを作成し、他人のパソコンに入れる事は犯罪です。きちんと相手の承諾を得てから入れるようにしましょう。「悪戯も過ぎれば犯罪」ですよ!
◆
「おや、暁じゃん!」
その後、学生によるプレゼンが終わり、展示物を見る時間に。そんな時、突然名前が呼ばれた。振り返ると、先生らしき人物がいる。
「あ。どうもこんにちは。お久しぶりです、先生」
俺ではなく、姉さんがあいさつした。そうか、この先生は科学部の顧問なのか。
「一緒にいるそこの学生は? まさか彼氏か?」
「いや、弟です」
「なるほど。元気にしてるか?」
「はい。いつもの如く、自分の研究に勤しんでいますよ」
「そうかそうか。今日の発表、どうだった?」
「私のいた時には無かった実験がありましたね。楽しめましたよ」
「それは良かった。まあ、ゆっくりしていってくれ」
先生が離れて行ったあと、姉さんが小声でつぶやいた。
「先生もまさか、私は今魔法の研究をしているとは思わないだろうなあ……」
◆
「あれ? 暁じゃん!」
また呼ばれた。振り返ると、クラスメイトが居た。今度は俺が呼ばれたんだな。紛らわしいな!
「そういえば、お前って科学部だったな。何してるんだ?」
「一年だからな。まだ裏方だよ。で、さっきから仲良さそうに喋ってる美人さんは誰だ? お前の妹に『浮気してたぞ』って言い付けるべきか?」
「いや、これは姉だ。実の姉だ」
「そういや、姉がいるとか言ってたな。なんだ、つまらない」
「つまらないって何だよ、おい」
何故か誤解されることの多い時間となった。




