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公演中の出来事

 午後、一番のイベントは何と言っても、我々のクラスの劇である。練習は何度も見させてもらったが、舞台の上で演じられるのは見たことが無い。是非鑑賞したいと思っていたのだが……。


「当日の舞台演技中、店番してくれる人は……。えっと、役割の無い人の中から選ばないといけないのだけど……」


「私、その時間は部活の出し物で忙しく……」

「私も……」

「俺も……」


「あと残ってるのは……えーと、暁? どうかな?」


「え? ああ、大丈夫だぞ」


「決まりだな」


 という訳で、その時間は店番をしなくちゃいけない。母さんが動画を取っていると思うし、機会があれば見てみようか。(そう思いつつ、結局は見ないだろうな……)



「こちら、何のお店ですか?」


「はい。ここでは僕たちのクラスの劇『古典を英語で味わおう』で使った小道具や、劇にまつわるアクセサリーを販売しています。実際に劇で使った小道具の販売は、明日の講演終了後となりますが」


「へーー。なかなか、クオリティーも高いですね……。このハンカチの刺繍、自分たちでなさったんですか?」


「はい。デザインは美術部に所属している人を中心に行って、刺繍はみんなで行った次第です」


「実用的だし、いいわね。せっかくの記念に買っていこうかしら。はい、250円ちょうどです。ちなみに、劇はいつ講演ですか?」


「まいどあり。劇についてですが、実は今まさに公演している所なんですよね……。明日は午前中、具体的には10時15分からです」


「あら、そうなんですね。ありがとー」


「いえいえ。是非、劇の方も見てみてくださいねー」



「見て、見て。可愛いアクセサリー売ってる!」


「そうだな。どれか買おうか? プレゼントするよ」


 やってきたのはカップルと思われる男女である。ナチュラルに「プレゼントするよ」なんて言える事から推察するに、相当仲がいいのだろう。


「本当? いいの? ありがとう! じゃあ……。これ!」


「いいじゃないか! やっぱり、ピンクがお前には似合うな。いくらかな、店員さん?」


「100円です」


「ほい、100円」


「まいどあり」


 うんうん。文化祭を一緒に見て回るなんて、仲のいいカップルだな。……俺と紗也も、傍から見たらカップルに見えたのだろうか? いかんいかん。余計なことは考えないでおこう。




◆Side 紗也


「若愛ちゃん、次の音源はどれか分かる?」


「えっと、次は烏の鳴き声だね。10個先のセリフの後。ここよ」


 こんな事を言うのはなんだけど、効果音の担当って楽よね……。台本を見ながらでオッケーだし。


「もうすぐかな」


「そうね。……今!」


 ――カァカァカァ


「そして、直ぐに夕焼け小焼け(オルゴールver)を!」


 ――♪♪♪


「ループをオンにしてっと。完璧ね。次は……」


「次の劇までは特にないみたい」


「そう? じゃあ、休憩ね。そういえば、若愛ちゃん。午前中は何をしてたの?」


 劇の邪魔にならないよう、小さな声で話しかける。


「私は早瀬君と一緒に文化祭を見て回っていたんだ」


 若愛ちゃんこと小鳥遊若愛さんと早瀬和泉君は、例のクラス会、もとい肝試しの時以来、上手く仲良くなったみたい。夏休み明け直前、水族館デートに行ったらしいのだけど、そこで早瀬君から告白したみたい。二人とも、大人しくて真面目な性格だし、このまま結婚するのではないかと考えている。もちろん、本人たちの考えは分からないけど。


「いいじゃない! 楽しかった?」


「うん! 私、文化祭の雰囲気はちょっと苦手だったんだけど、今年は楽しめそうなの!」


「いいわね、いいわね!」


「お昼も一緒に食べたの!」


「へえ! 何を食べたの?」


「クレープ! 甘くておいしかった……」


「それは、昼食なの……?」


「あ、あはは。早瀬君も甘い物が好きみたいで良かったわ! 紗也ちゃんはどう過ごしたの?」


「私? 私はかず兄と一緒に色々見て回ったわ」


「へー! 楽しかった?」


「ええ、そうね! 若愛ちゃんの言葉を借りると『文化祭の雰囲気はちょっと苦手だったけど、今年は楽しめそう』って感じ」


「そうなんだ! あれ? って事はもしかして、中学では暁君とは別行動だったの?」


「そうね……。前の文化祭となれば、二年前。中学二年生の頃よね。あの頃は、揶揄されるのを避けていたから……」


「そうなんだ! じゃあ、高校に上がってから仲良くなった……というか距離を縮めたんだ?」


「まあ、そうなるかな? 正確には受験シーズンに一緒に勉強したことがきっかけだけど」


「へー! お昼ご飯も一緒に?」


「ええ、そうね。焼きそばを食べたわ。かず兄はたこ焼きを」


「おー! お祭りって感じだね! 楽しかった?」


「楽し……かった……わよ?」


「紗也ちゃん? 顔が赤いけど、大丈夫? まさか、熱中症じゃあ……」


「違う違う! 大丈夫よ。ちょっと、色々あっただけ」


「色々……? なにが?」


「……間接キスしちゃって。えへへ」


「か、かん……! むぐ!」


「静かに! 邪魔になっちゃうよ!」


 若愛ちゃんが叫びそうだったので、慌てて口をふさぐ。危ない、危ない。


「ごめん、ごめん。ちょっとびっくりしちゃって……。二人は大人だね……。そっか……」


「というか、そっちは正式に恋人なんだし、間接キスくらい……」


 自分で言ったセリフに一瞬疑問を抱く。「そっちは正式に恋人」か。じゃあ、かず兄と私は……?


「そ、そんな恥ずかしい事、まだしてないよ……! 手を繋いだことも無いし……」


 私の思考を遮ったのは、若愛ちゃんのセリフだった。そっか、二人は真面目そうだものね。ゆっくりゆっくり、自分たちのペースで仲を深めていくのだろう。


「一応言っておくと、かず兄と私は恋人じゃないんだし、手を繋いだことは無いわよ?」


「そうなの? 確かに、兄妹って手を繋いだりはしないよね」


「無い無い……。いや、あったかもしれないわね」


 海で一緒に遊んだ時とか、どこかのタイミングで手を繋いだこともあった……かな?


「大人だあ……」


 あと、若愛ちゃん。それくらいで、大人扱いされても、困るよ? 私からすると、正式にお付き合いをしている二人の方が大人に見えるし。おっと、いけない。そろそろ次の劇が始まりそうだ。


「あ、そろそろ次の劇ね。準備しましょ!」


「て、手を繋ぐ……。私と早瀬君が……」


「若愛ちゃんー! 戻ってきてー!」





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