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射的

 文化祭を見て回っていると、屋台エリアに差し掛かった。縁日のような賑わいがあって、ただ見ているだけでもワクワクする。


 輪投げ、スーパーボールすくいといったオーソドックスな物から、「世界のパズルに挑もう」という変わり種まで。なお、世界のパズル展をちらっと見た所、ハノイの塔が見えた。昔、ちょっとだけ遊んだ事があったっけ?

 そうやってぶらついていると、不意に紗也が足を止めた。


「ジーー」


「どうしたんだ? おや?」


 紗也の視線の先では、射的をやっていた。数ある景品の中でも、一等の景品が特に目立っている。それは……。


「大きなくまさんね」


「だな。欲しいのか?」


 大きなテディーベアだ。抱き枕サイズのテディーベアが景品の陳列棚の頂上にドシッと座っている。


「可愛いなあ……。でも、欲しいって思っても取れるものでもないし……」


「確かに。でも、せっかくの機会だしチャレンジするのもいいんじゃないか?」


「うーん。そうね! やってみたいかな!」


「決まり。それじゃあ、行くか!」



 少々順番待ちをする必要があったが、無事俺達の番になった。


「それじゃあ、一人二発までですよー」


「「はーい」」


「それじゃあ、紗也。せーので撃とうな」


「りょーかい!」


「せーの!」


 パチン! 輪ゴムの力を利用した鉄砲から弾が放たれる。軌道は悪くない……。これはもしかしなくても……!


「「あれ?」」


 命中した。命中した物の、くまさんが倒れる事は無かった。というか、一ミリも動いていない気がする。先ほどまで微笑んでいたくまさんが、今は挑発的な笑みを浮かべている。(当然気のせいです)


「ざんねーん! 後一発ですよ!」


 先ほどまで愛想が良かった店員さんも、今は挑発的な笑みを浮かべている。(当然気のせい……とは言えないか)


(これは……無理な奴だな。落とさせる気が無い……)


 そう言う思いを込めて紗也を見る。紗也も困った顔をして俺の顔を見る。どうにかならないか? どうにか……。あ、そうだ!


「紗也。ここは俺達が編み出した禁断の魔法を解放しようではないか!」


「……? ッ! そうね! 使っちゃいましょう! 私たちが力を合わせたら、出来ない事なんて無いわ!」


「では改めて。構えて……せーの!!」


「『加速』」

「『アクセル』」


 弾に加速度を加え、高速発射する。本物の鉄砲……よりは遅いが、輪ゴムで発射される物よりは確実に早い。


「「「おーー!」」」


 紗也と俺、そして見ていた野次馬から歓声が上がった。二人が同時に発射した弾はくまさんの顔面に命中(ごめんね、くまさん)。衝撃に耐えられず、くまさんは後ろ向きに倒れ……


「「「あれ?」」」


 明らかにあり得ない姿勢で止まった。具体的には、45°くらい傾いているのに、その状態のまま倒れないのだ。


「はい、残念でしたー! またの機会に!」


 店員は慌ててテディーベアを起き上がらせようとする。しかし。


「おい、どうなってるんだよ! なんで、あんな姿勢で止まるんだよ!」

「おかしいじゃないか!」

「テディ―ベアの下、テープで固定してない?!」

「ずるいぞーー!」

「卑怯だー!」


 野次馬から非難が飛ぶ。

 これを聞いて慌てる店員。だが、冷や汗をかいているのは、店員だけではない。


(俺達も……)

(卑怯なことをしたから……)

((人の事を言えない!!))


 罪悪感を覚える俺達兄妹なのだった。



「結局、くまさん、貰っちゃったね……」


 紗也がつぶやく。


「なんだか、悪いことしたなあ……」


「でも、まさか『すみません、魔法を使って威力を上げたんで、僕らもずるかったんです! だから店員さんを責めないであげて!』とは言えないし……」


「そもそも言っても信じてくれないだろうし……」


「「今後は誠実に生きよう……」」


 くまさんは紗也の部屋に飾られることになった。触り心地が最高だったので、時々モフモフしに行こうと思う俺であった。



「そろそろお昼ね。何か食べなきゃね」


「だな。何を食べよう?」


「私、焼きそば食べたいかな。かず兄は?」


「俺はたこ焼きの気分かな」


「なるほどー! たこ焼きも良いわね! たこ焼き屋さんは……向こうだったよね?」


「焼きそば屋は向こうだから……。反対だな。別行動して、どこかで合流する?」


「ええ。それじゃあ、屋上で集まりましょ!」


「オーケー。んじゃ、俺はたこ焼きを買いに行きますか」


「またあとでねーー!」


……

………


「あ、かず兄、お待たせー! 待った?」


「いや、今着いたとこ。早速食べようぜ!」


「ええ!」


 蓋を開ける。食欲をそそるソースの香りが辺りを漂う。


「「いただきまーす!」」



「ふーふー!」


 熱いので冷ましていると、紗也がちらっとこちらを見て


「たこ焼きって冷やす必要があるから、嫌なのよね……。誰かが冷ましてくれるならともかく、そうやって冷やすのって面倒じゃない?」

 と言った。


「まあ、その気持ちは分からんでもない。球体って単位体積当たりの表面積が最小だから、冷えにくいしね」


「えーと。そうね。表面積が小さい分、熱が逃げにくいって事ね。でも、やっぱりたこ焼きも美味しそうだな……。あーん」


 ずいっと俺の方に近づく紗也。え? マジ? この箸、さっき口を付けたやつなんだけど? たこ焼きを吹いて冷やしたし……。


「え? た、食べる?」


 俺は箸を紗也の方へと向ける。やばい、どもってしまった。変に意識してると思われたりないだろうか? いや、意識してるんだけれども!


「え? え? え、でも。えーと? え?」


 紗也は箸と俺の顔を交互に見て、あわあわしだした。自分で言ったくせに、なんで恥ずかしがってるんだよ! まあでも、俺だけが慌てている訳じゃなくてよかった……のか?


「よし。パク!」

 結局、たこ焼きに食らい付いた紗也。

「あちゅい、あちゅい! ハフハフ!」


 まだ冷め切っていなかっただろうか?


「大丈夫?」


「だいじょーぶ。ありがと……」


 それから、なんとなく気恥ずかしくなった俺は、紗也に話しかける事が出来ず。逆に紗也からも俺に話しかけてくることはなく。静かな昼飯になったのだった。







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