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マジックショーの裏側

◆Side マジシャンの女の子


「Ladies and Gentleman! マジック同好会のマジックショーを見に来てくれてありがとな!」


 松井先輩、じゃなくてMr.Mの司会が始まった。彼の挨拶が終わったら、私の舞台が始まる。そう考えると、吐き気がするほどの緊張に襲われる。


(大丈夫、大丈夫よ。私なら出来る。私なら出来るはずよ!!)


 自分に言い聞かせながら、その時を待つ。


「It's a show time!」


 Mr.Mが紙吹雪をばらまいた。私の出番である。


「Hello, boys and girls!」


 緊張を振り切るように私はハイテンションで飛び出した。私がマジック同好会に入って約半年。失敗が許されない場面は初めてである。勿論、仲間内でマジックの見せ合いをする事は多々あったが、それは失敗が許される場面である。失敗してしまっても『クラッシックパスって慣れないうちは難しいよね』などとフォローしてもらえるし、アドバイスを頂く事もある。だけど、観客の前ではそうはいかない。ミスが許されないという緊張感に私は耐える事が出来るだろうか……。


「ここに、トランプがありまーす!」


 パッとトランプ広げて観客に見せる。この、扇形にトランプを広げるのも、最初の頃は失敗してばかりだった。今では、カッコよく広げる事が出来る。


「今回使うのは、四枚のエースと四枚のキングでーす! それじゃあ、ちょっと探しますね。ところで、マジシャンは触っただけでトランプの枚数がだいたい分かるってよく言われるんですが、もっと極めたら触っただけで欲しいカードの位置が分かるようになるんですよ」


 こうして喋りながら作業する事で、観客の集中を逸らす事が出来る。当然のことながら、触っただけで欲しいカードの位置が分かるようになるはずがない。タネも仕掛けもあるのだ。


 実は、このトランプには三枚の「少し角を削ったトランプ」を混ぜている。カッターナイフで1mmほど切り落としたのだ。その上で、予めデックを以下のように並べておく。


【K、A、……、切、K、A、……、切、K、A、……、切、K、JK、A……】

A:エース

K:キング

切:少し角を削ったトランプ

JK:ジョーカー


 まずはこのトランプを指ではじいていく。すると、「切」の直後で指が引っかかる。こうする事で、狙った位置でトランプをカットする事が出来る。もし家にトランプがある人は、ぜひ試してみてほしい。


【K、A、……、切】

【K、A、……、切】

【K、A、……、切】

【K、JK、A……】


 こうして、私は一番上が全てKになるようにトランプを四分割できたのだ。一番上のカードを見せて、観客に示す。ここまでで第一段階は完了。



「そして続いて……エースを取り出そうと思います! まずはこの山」


 次にエースを取り出すマジック。当然、全ての山の一番上にAがあるのだが、これをそのまま見せると「タネも仕掛けもあったんだな」とバレてしまう。そこで使うのが『トップショット』という技法だ。


 トップショットとはトランプの一番上のカードを飛ばす技法。私は右手に束を持って左手へとパスするのが得意だけど、人によっては逆の方がやりやすいかも? ともかく、トップショットを使って、Aを三枚出現させる。


 この辺りで、観客は「はいはい、凄いですねー(棒)」となってしまう。そこで、もう一個、何かネタを挟むようにとのアドバイスを受けた。結局、私が選んだのはサッカートリックを挟む事だった。

 サッカートリックとは「失敗したと思わせて、実は成功していた」というもの。観客の中には嫌う人もいるようだが、私は一種の演出としては問題ないと考えている。という訳で。


「最後の山からも……それ! じゃん! あれ? ジョーカーは混ぜてないはずなのに……」


 当然ながら、最後の山でトップショットを行うと、ジョーカーが出現する。

 焦っているような演技をしながら、こっそりとJKの下にあったAを右手で掴み、JKの上に重ねる。そうやって小細工をしている間も、セリフは続ける。


「少々お待ちを。こういう時はフッと息を吹きかけてッと。じゃん!」


 エースを出現させて、完了だ。あとは、JKを隠すだけ。四枚揃ったエースを観客に見せびらかして、そっちに視線を集めつつ、JKをポケットに突っ込む。これで第二段階も完了。



 続いてのマジック。ここで重要になってくるのは『エルムズリー・カウント』という技法。これは三枚しかないカードを四枚あるように見せかけるトリックだ。

 スペードA、ハートA、ダイヤA、スペードAというように、スペードを二回見せても「うんうん、Aが四枚あるな」と誤認させることができる。なお、ジロジロ見られてはトリックがバレるので、スピーディーにこなさないといけない。


 今回使うのはこの応用だ。【スペードA、ハートA、ダイヤA、クラブK】の四枚を『エルムズリー・カウント』を使ってスペードA、ハートA、ダイヤA、スペードAの順番で見せる。すると、観客は四枚のAがあると誤認する。同様に、【スペードK、ハートK、ダイヤK、クラブA】を四枚のKと誤認させる。


 つまり、黒板に磁石で貼ったのは元から【スペードA、ハートA、ダイヤA、クラブK】の四枚だったのだ! 観客の認識をゆがめ、まるで四枚のAが黒板に固定されていると思わさせる。


 こうして仕込み完了である。



 さて、突然だが、トランプのAの形を思い出せるだろうか?

「A


   ♣


     A」

 このような形だ。

 これを見て思わないだろうか?「ほとんど白紙部分じゃん!」と……。

 この白紙部分だけを見せる事で、【スペードK、ハートK、ダイヤK、クラブA】が【スペードK、ハートK、ダイヤK、白紙】に変わったように見せかける事が出来る。



 その後は、色々としゃべりつつ、【スペードK、ハートK、ダイヤK、クラブA】に変わっていると見せ、黒板に貼ってある四枚が【スペードA、ハートA、ダイヤA、クラブK】であることを示せば演技が完了。



「き、緊張しました……」


「お疲れ様。すごくよかったじゃないか! 入部したての頃からは考えられないほどの実力になったね!」


「ありがとうございます!」


 憧れの先輩に褒められ、ルンルン気分になった。けど、まだ文化祭は終わっていない。「勝って兜の緒を締めよ」よね。残りも失敗せずに頑張るぞーー!







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