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占い

◆Side 紗也


「一緒に見て回らない?」


 文化祭の開会式の後。視線を感じてかず兄の方を見ると、目が合った。そして、その直後に言われた言葉がこれだ。


 私は混乱する。まさか誘われるとは思っていなかったからだ。しかも、彼の口調からは気恥ずかしさが微塵も出ておらず、まるで「当然のこと」のように誘って来たのだ。


 思えばまだ私たちが小学校低学年の頃、私達はいつも一緒に遊んでいた。休み時間はいつも一緒に遊んだ記憶がある。放課後になれば当然のようにどちらかの家で集まって遊んでいた。なお、放課後は慧姉も混ざって三人で遊ぶことも多かったが。


 それがいつしか距離が開いて行った。特に何かがあったわけでは無いのに。強いて言えば、周囲に私たちの仲を揶揄(からか)われたりしたことだろうか? 少なくとも私の友達にはそんな事で揶揄う子はいなかったけれども、かず兄の男子友達はやんちゃな人が多かったから……。

 中学校に上がっても、距離は開いたままだった。決して仲が悪いわけではない物の、仲睦まじい訳でもない。この頃になって、私からも異性であるかず兄との距離を置き始めた。


 状況が変わったのは中学三年生の頃。少なくとも私はそう感じている。当時、勉強に邁進するようになっていたものの、どうしても一人ではやる気が出なかった。学校の自習室も肌に合わない。だから、同じく受験に向けて勉強している慧姉の家で一緒に勉強するようにしたのだ。

 そして、かず兄も同様の考えに至ったようで。自然と私たち三人は一緒に勉強するようになっていた。ありがたいことに、理数科目で分からない所があれば慧姉に教えてもらう事が出来たので(勿論、受験勉強の妨げにはならないようにしていた)、勉強が捗ったのを覚えている。そして、文系科目で分からない所があればかず兄に聞いた。そして、彼は丁寧に教えてくれた。二人の先生に教えてもらい、私の成績は高六丘高校に入学できるレベルにまで上がった。

 こうして勉強会をする事で、私達の距離はグンと縮まった。縮まった距離は、受験に合格した後に離れる事は無く、仲睦まじい兄妹になったのだった。

 思えば、この時、かず兄と慧姉の距離も縮まったように思う。受験勉強は家族が仲良くなるきっかけになったと言える。


 彼の誘いの言葉がきっかけとなり、ふと過去を思い出してしまった。いつも一緒に遊んでいたあの頃のように、私を誘ってくれたのだ。当然、私の返事は決まっている。


「ええ。もちろんいいわよ!」



 やってきたのは、『未来視の館』。二年生が主催しているだけあって、結構のこだわりっぷりだ。教室の外には占星術の図とその歴史についての資料、骨卜(動物の骨を焼いて、その割れ方を見て占う方法)の歴史についての資料などが飾られていた。今更だが、この学校の文化祭って、みんな真面目過ぎないだろうか?

 教室の中に入ると、香の臭いが鼻腔をくすぐった。何とも不思議なにおいだ。化学合成されたお香とは違う……気がする。これで、「いや、これデパートで売っていたよ」と言われたらショックだ。


「凄い良い香りね」


「だな。ここまで本格的だとは思ってなかった。ほら、あそこ見てよ」


 かず兄が指さす方を見ると、煙がモクモクと出ている焼き物が目に入る。


「うわあ。あれって……。なんて名前かしらないけど、本格的ね!」


「あはは。正式名称は『香炉』かな。ほら、修学旅行で京都に行った時に、俺がお土産で買ってたの、覚えて……無いか」


「そういえば、そんな事もあったような……」


「でも、大丈夫なのか? 料理系以外は、火気厳禁だよな?」


「ああ。電気ヒーター使ってるんで、大丈夫なんですよ」

 かず兄の質問に答えたのは、近くにいた二年生、もといスタッフの人だ。


「なるほど。まあ、仕方がないですよね」


「ええ。文明の利器に感謝ね。どうぞ、二人とも。占いに来たんでしょ?」


「「お願いします」」



 教室内にある、占いスペースにいたのはフードを被った女性。手首や首に色々なアクセサリーをつけていて、凄く様になっている。


「いっひっひ。それじゃあ、名前を書いておくれ」


 しゃべり方もそれっぽかった。

 私たちは名前を書いて、占い師の方に手渡す。


「はいはい。暁和也君と、暁紗也さんね。二人はご夫婦で?」


「「いや、従妹です」」


「なるほど、そうだったかい。そりゃ失礼。というか、この国では結婚は18歳からだったかのう。儂の国とは勝手が違うんじゃったのぅ。それじゃあ、占わせてもらうよ」


 私たちの名前の漢字の画数を調べ、その上で分厚い本を手に取って調べ始める。そして、何やらメモをさらさらと取って……。


「まずは、男性。和也君の方から」


「はい」


「おぬしは素晴らしい慧眼を持っているようじゃ。目の前にある事実から、直接は読み取る事の出来ない真実を見抜く力があるようじゃ。この先も、その力を十全に発揮することじゃろう」


「ありがとうございます」


「それから、研究者体質でもあるようじゃな。知識を吸収するのが好きなようで。それが慧眼を持つ事が出来た理由かの。これから先も、知識を吸収する気持ちを忘れんように」


「なるほど」


「運勢の方じゃが、10歳ごろから運気が落ちておる。が、15歳頃から回復を始め、20歳がピーク。その後は、ずっと幸運のようじゃ。ここまで運気が良いのは珍しいの」


 かず兄の性格を見事に当てている! この占いは結構信用できるものかもしれない!


「次に女性。紗也さん」


「はい!」


「おぬしは『不安』の気持ちが強いようじゃ。チャレンジするよりも、今のままでありたいという気持ちが強いようじゃ。それは、危機管理能力が高いという意味では良い性格じゃが、逆にチャンスを逃してしまう恐れもある」


「は、はい」


「このようなタイプの人間は、おそらく今まで周囲の状況に流されてきて、それでも十分幸せだった人に多い。自分から何かしらの行動を起こす必要が無かったというべきかの。ただ、いつまでもそうは言ってられん。自分で状況を前に進めるべき時が近いうちに来る。その時行動できれば、おぬしは幸せになれるじゃろう」


「な、なるほど」


「運勢の方は、22歳がピーク。その後も良い運気に恵まれるようじゃ。なかなかいい方じゃよ。和也君には劣るようじゃが」


「そ、そうなんですか」


「最後に。二人の相性じゃが……」


「「え?」」


 占い師の一言に、驚きの声を上げてしまうかず兄と私。


「びっくりするぐらい相性がいいの。流石は従妹というだけあるの。以上で儂の占いは終わりじゃ! 達者での!」



「私達……。相性良いのかな?」


 占いの部屋から出た後、ついそんな事を言ってしまった。言わなきゃよかったかも、と思ったけどかず兄は気にすることなく。


「どうせ、それっぽいことを言ってるだけだろ。でも、相性に関しては良いと思うぞ? 少なくとも、俺は紗也と一緒にいると楽しいし」


「え? そ、そうね。私も一緒にいて楽しいよ」


「それなら良かった。次はどこ行く? 俺的には、この『マジックショー』とか見てみたいんだけど」


「良いわね! 行きましょ!」


 文化祭はまだまだ始まったばかりだ。






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