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当日の朝

 朝。いつしか意識が現実に来ていることに気が付いた俺は、むくりと起き上がって伸びをした。いよいよ、文化祭当日である。


「昨日見た天気予報では晴れのはずだが……」


 文化祭は雨天決行だ。しかし、雨が降れば露店は全て教室での開催となってしまい、必然的に規模も縮小される。なによりテンションが下がるので、晴れてほしい。


 カーテンを開けて、外の様子をうかがう。すると、日の光が俺の寝起きの目に飛び込んできた。


「まぶし!」


 細目で外を見ると、雲一つない青空へ向けて、朝日が(まさ)に登らむとしているところだった。よかった、天気予報が的中したようだ。



 階下に降りると、そこには父さんと母さんがいた。姉さんももう少ししたら起きてくるだろう。


「おはよーー」


「「おはよう、和也」」


「母さんは、今日も見に来るんだっけ?」


 今日は金曜日なので、二人とも仕事があるはず。だが、母さんは我々の文化祭(やその他のイベント時)には有休を取っているから、今日も、そして勿論明日も、学校に姿を現すはずだ。


「ええ、そうよ。何? もしかして、『母さんには見に来ないでほしいな』ってやつ? これが、思春期男子……!」


「あー。まあ、それもあるけど。それより、仕事の方は大丈夫なの?」


「だいじょーぶ、だいじょーぶ。部下に『全部任せた!』って言っておいたから!」


「あはは。部下の人に嫌われないようにね」


「へーきへーき。何か差し入れもっていこうか?」


「あー。ありがたいけど、俺もみんな屋台とかで沢山食べてるだろうから……」


「そっか、それなら持って行ったらかえって邪魔になっちゃうわね。分かったわ。公演は確か午後からよね? ママ、ちゃんと見に行くからね! ばっちり録画しておくわ!」


「……俺も紗也も出演しないんだが?」


 俺は役無し、紗也は音響(裏方)である。強いて言えば、俺は大道具の移動を手伝うかもしれないが。


「それでも、あなたのクラスの出し物には変わらないじゃない! それに、10年後、『自分のクラスの出し物、見直したいな』って思うかもしれないわよ?」


「それは確かに」


「スマホの充電、確認して置かなくっちゃ! 途中で充電が切れたら最悪だからね!」


 確かに。スマホの充電って肝心な時に切れたりするよな。特に物語の中だと。それはともかく、モバイルバッテリーを持っていけば全て解決するのではないか、と提案してみると……。


「モバイルバッテリーの充電も出来てないの!」


 と言われた。これぞ、宝の持ち腐れだな。もしかしたら、100年後には「豚に真珠」「猫に小判」「馬の耳に念仏」といったことわざに「充電されてないモバイルバッテリー」が追加されているかもしれないな、なんてね。



 当たり前だが、文化祭の日は、授業は全部中止になる。だから、学生カバンの中身はほぼ空である。筆記具とメモ帳、財布、それと細々した小物くらいだな。


「軽! そっか、中身が入っていないと、こんなにも軽いのか……」


 普段、カバンを持ち上げる時の力加減で、持ち上げようとして、その軽さにビックリする。そっか、教科書って本当に重いんだなあ……。なお、あまりに重い時は重力軽減魔法に頼る事もあるが、基本的には普通に持つようにしている。普段運動しない分、こういう所で楽はしないようにしているのだ。


 置き勉したら、楽になるとは聞いているし、実際、予習復習使わない教科書はロッカーに放り込んでいる。そんな風に工夫しても、荷物が重いのは、やはり高校の教科書は分厚いという事なのだろうな。まあ、大学の教科書はもっと分厚いみたいだけど。姉さんの持ってる教科書って、1000ページあるもんな。


 なんて思いながら、俺は家を出発する。



 教室に入ると、クラスメイトの半分ほどが既に登校していた。机を後ろに下げて、簡易の舞台を作っている。


「最後の確認よ! コメディー1の担当者は前に!」


「「了解!」」


 凄いな、朝から最後の練習をしていたのか。


「おはよう、かず兄」


「おはよう、紗也。今日はいないと思ったら、先に来ていたのか」


「ええ、そうなの。あ、一番を鳴らしてっと」


 紗也と小鳥遊さんが効果音やBGMを操作するのを後ろから眺める俺。台本を見ながら、テキパキと行動する彼女の姿を見て、彼女が劇の一部を担っているのだと再確認する。



「いいな。俺も、もう少し積極的になるべきだったかな……」


「どうした、暁。遠い目をして?」


「うん? ああ、萩原、おはよう。いやね。今更ながら、俺も劇に携わってみたかったな、なんて思ってさ。せっかくの高校生活、学校行事にもっと積極的になるべきだったかなって」


「いや、お前は結構携わっただろ? そもそも、古典を引用しようと言い出したのはお前だし、この演目をピックアップしたのもお前だし」


「そう……かな?」


 そう言われてみれば、そうかもしれない。


「それでも、心残りがあるなら、来年の文化祭に活かせばいいじゃないか。いや、来年まで待たなくても、まだまだ学校行事はあるだろ?」


「そうだな。ありがとさん」


「いえいえ。寂しそうなクラスメイトを励ますのも、委員長の役目だから。てか、そろそろ生徒会の方に顔を出さないとな。このリハーサルが終わったら、抜けないと」


「そっか。お疲れ様だぜ。頑張って来いよ!」


「サンキュー!」









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