リハーサル
一か月ほどかけて、販売用の小物や、その他の道具の製作に取り組んだ。文化祭準備に設けられた時間の他、朝礼前や放課後も用事が無い人は作業を進めたので、想像以上の速さで準備が整っていった。
小道具が整えば、後はリハーサルである。役者は正しい抑揚でセリフを言う必要がある。照明担当は、誰にスポットライトを当てるべきかの操作をする練習。そして、音源担当は効果音を適切なタイミングで鳴らす必要がある。また、そういう決まった役目が無い人は、場面から場面へ移行する際の背景や大道具の入れ替えに着手するので、テキパキと行動できるように練習して置かなくてはならない。
「そこは、もう少し驚いた感じでセリフを言って欲しいな。体全体で驚きをアピールしないと。こんな感じで」
英語のセリフを言いながら演じるのは困難を極めるようで、演劇部からの指導が多々入る。
「なるほど……。分かった、次はそうしてみる」
「頑張ってね。次の演目に移ろうか。あ、これは私も出演者ね。準備しまーす」
しかし、演劇部の人たちはというと、セリフが英語とか関係なく、それはもう真に迫った演技を見せてくれた。
「「「おお……」」」パチパチパチパチ
演技の終わりには、自然と拍手が起こる。それ程、凄い演技だったのだ。
「どうだったかしら?」
「お前は完璧だったな。俺からも言う事は無いよ。で、萩原の演技については……」
彼女の演技は、演劇部員の人が見ても完璧だったようだ。そして、他の役者の指導が始まった。
「あと、音響に関しては、もう少し不気味さを出したいな……。ノイズを入れる事って出来ないか? ザザッーって感じの」
「えっと、今すぐは無理かな。明日までに作ってくるね」
「頼む」
音源担当の紗也が応じる。紗也自身にはそのスキルは無いから、たぶん、姉さんに頼むんだろうな。姉さんなら、音源の編集なんかもこなす事が出来るはず。
また、以外?だったのは一ノ瀬だ。かなり長いセリフを暗唱できるようになっていたし、要所要所のアクションもしっかりこなせている。
「どうだったかな、福原?」
「いやあ、良い感じよ! まさかあんたがここまで出来るようになるとは……」
「ふふん。どうだ、惚れたか?」
「そのセリフとドヤ顔さえなければ、完璧だったのに」
「ままならないな、この世は」
「まあ、何はともあれ、劇の方は完璧に近いわ。後は、本番でセリフを度忘れしないように、しっかり慣れる事ね」
「ラジャー!」
◆
「ポスターに使う絵、いくつか案を描いたから、どれがいいか投票で決めてくれる? 一人三票ずつ投票してくれる? 獲得票数に応じて印刷する枚数を考えるわ」
美術部のエース、桜田が黒板にポスターを五枚張った。いずれも繊細で美しい絵であり、見る人に興味を抱かせると思われる。(文化部に対してエースって表現は変か? まあ、美術部の中でも特に才能に秀でているって意味だ)
一枚目は影絵だ。白黒な分、他の物よりも細かく描かれている。
二枚目は浮世絵調の大きな絵がドンと書かれている。
三枚目も浮世絵調だが、こちらは登場人物を模したちびキャラ(SDキャラ)が沢山描かれている。
四枚目はアニメ調の大きなイラスト、五枚目はアニメ調のちびキャラだ。
「劇の内容は古文だし、浮世絵調の物がいいんじゃない?」
「でも、英語の劇だぞ? 俺は影絵を推すかな」
「見に来るのは俺達と同世代だぞ? やっぱり、アニメ調が良いんじゃないかと俺は思うな」
「私は、デフォルメキャラがいっぱい描かれた物の方が、可愛らしくて好きね。うーん、五枚目に三票!」
「デフォルメキャラが可愛いのには賛成ね! でも、私は浮世絵調が気に入ったから三枚目に二票入れようかな! あと、二枚目に一票入れようかな」
そんな感じで一人三票ずつ投票し、貼りだされたポスターの下に正の字が並ぶことになった。
「もうみんな入れてくれた? ……入れてくれたみたいね。それじゃあ、獲得票数×1.5枚ずつ印刷してもらうねーー。先生、お願いできますか?」
「はーい。校長先生に掲示許可も取ってくるねーー」
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
「いえいえ~」
◆
放課後も準備を手伝い、最終下校時刻になってから帰路に就く。空にはダークブルーからオレンジのグラデーションがかかっている。綺麗だな。
「まさに、『天高く馬肥ゆる秋』って感じだな。雲一つない空って本当にきれいだな」
「そうね。秋って良いよね~」
「天高く……?」
隣を歩いていた紗也がコクコクと頷き、前を歩くシャルローゼさんが首を傾げる。なお、シャルローゼさんとは途中まで変える方向が同じなので、こうして一緒にしゃべりながら帰っている。
「ことわざ……ともちょっと違うか。日本で秋を表現するのに使われる言葉なんだ。雲が無い分天がすごく高く見え、良い気候に恵まれ食欲が増すって意味だよ」
「なるほど、初めて聞きました……。なぜ『馬が肥える』なんでしょう?」
「すまない、全く知らないよ……」
「そうでしたか。後で調べないと……」
「ちなみに、アストロフォールにも、季節についての表現ってあるの?」
「そうですね……。10月はオリオン座流星群とかおうし座北流星群が見られるので、“Squall of Astrofall”とか言ったりしますね」
「squall?」
「スコール。日本語では豪雨という意味でしょうか?」
「ああ、その『スコール』か。なるほど。allで韻を踏んでいるって事ね!」
こうして、文化交流しながら、俺達は家へと帰るのだった。




