配役について
使えそうな古典文学をいくつかピックアップして提出すると、萩原が良い感じに製本してくれて、「どれをしたいか考えて、投票してください」と議論を進めてくれた。流石萩原、仕事が速い。
なんやかんやあって、
・コメディー×2
・ホラー×2
・ミステリー(長め)×1
の合計5個を演じる流れになった。
ちなみに、古典の先生が「へえ! 全部授業で取り扱った事のない作品だな! せっかくの機会だし、今日はこの5つの作品を読もうか!」と解説してくれた。俺がピックアップした作品は、いずれも難易度が高めの文章で、大学入試レベルと言っても問題ない難しさだ。特に重要な古文単語も多く含まれている。この機会に頭に叩き込んでもらいたい。
さて、演目が決まったら、次は台本へ直す作業である。福原やその他の演劇部メンバーに、落語研究会のメンバーも加わって、台本を完成させた。
真っ先に俺が査読をすることになったのだが、非常に良かった! 物語の趣旨は抑えつつも、より分かりやすく、より面白く、そしてより怖く改変されており、楽しんでみて頂ける内容に仕上がっていた。流石としか言いようがない。
最後に英語への翻訳作業である。シャルローゼさんが訳してくれる手筈になっているが、さらに萩原と早瀬(英語が得意な面子)が「この構文を盛り込んでほしい」とお願いする。これによって、俺達の台本はネイティブ監修の重要構文集と化したのだった。
「うんうん。満足、満足」
「どうした、萩原? お前らしくない、だらしない顔をして」
「そんなに変な顔をしていたか? まあいいや。これを見てくれ!」
「あ、台本だな! お疲れ様。良い感じに仕上がったのか?」
「ああ! この台本の中に、大学受験レベルで求められる文法を全て使っているんだ!」
「すげー! お疲れ様」
「後はフリーソフトを使って、音声ファイルに変換し、それをみんなに配るつもり。そして、各自暇なときに聞けば、このクラスの成績アップは確実だ!」
流石、定期テスト1位の男。勉強熱心である。
◆
「という訳で、今日は配役を決めようと思う。セリフのある登場人物が21人、黒衣が5人、音響担当が2人、照明担当が2人、合計30人に役目がある。さて、どう決めるのが良いかな……? 取りあえず、立候補制にしようか。被ったらじゃんけんとかで決めよう。さあ、どうぞ!」
「はい! 私、鬼の役をしたいわ!」
「杉原が鬼ね。他にいなかったら杉原に任せるよ」
「俺、陰陽師役をしたい!」
「一ノ瀬が? 別にいいけど、『主役ってかっこいい!』ってだけの考えで立候補するのは辞めてくれよ? 特に、陰陽師役は覚えるべきセリフが多いし、キツイと思うぞ? 絶対に途中で投げ出さないと誓えるか?」
「うぐ……。いや、やってやる! 俺の辞書に不可能などない!」
「おう、その心意気よし! 頑張れよ。とはいっても、他の人が立候補しても、争わないように」
「ホラー1の商人役、やってもいいかしら? ここは、セリフの言い方や演技力が求められるから、是非とも私がしたいの」
「それで、俺がホラー2の殿様役をしたいと思っている。理由は演技力を発揮したいからだ」
「分かった。立候補ありがとう」
「お姫様役は、リアルお姫様のシャルローゼさんがすべきと思うのだけど、駄目かな?」
「え、私がですか? でも、せっかくの大役ですよ? 私以外がするべきでは?」
「そんなことないよ! シャルローゼさんもこのクラスの一員じゃん!」
「でも……」
「あ、嫌だったならごめんね」
「いえ、そんな事ないです。むしろ、推薦してくれて嬉しいです。萩原君、もしよろしければ、私がお姫様役を演じてもいいですか?」
「もちろん、大歓迎だよ。立候補ありがとう」
こうして、次々と役が決まっていく。
◆
そして、役を巡っての争いも起こることなく、全ての役が埋まった。
その様子を見つつ、ふと、小学校の学習発表会の事を思い出した。あの時は「俺が主役だ!」「俺が!」「いや、俺が!」と醜い争いがあったものだ。
なお、俺は役に就かなかった。英語の暗唱は嫌いではないが、演者をするのは少し自信が無いからだ。そして、紗也は小鳥遊と共に音響を受け持つことにしたようだ。劇に合わせて効果音を鳴らしたりする役目だな。
「みんな、立候補をありがとう。特に、第一希望を譲ってくれた人もいると思う。協力、感謝する。それじゃあ、劇に必要な小道具の一覧を考え……」
――キーン、コーン、カーン、コーン……
「る時間は無さそうだな。先生! 終礼、お願いします」
「はい。凄くいい感じに議論が進んで、良かったと思います。萩原君も言ってくれましたが、こうしてスムーズに議論が進んだのは、陰ながら譲歩してくれた人が沢山いたからだと思います。そして、第一希望に就けた人は、そうやって譲歩してくれた人に感謝して、彼らの分まで真剣に取り組んでほしいと思います。えーと、今日の連絡事項は……。特にないです。それじゃあ、終礼終わり! 号令!」




