文化祭のノリって難しい
シャルローゼさんに魔法を教えてから数日が経った。姉さんが「新しいサンプルが取れそうだ」と言って、シャルローゼさんの脳のfMRIを取ったそうだが、その後、解析結果を聞いていないという事は、大した発見は無かったという事なのだろう。
さて、その日の朝は家族全員で朝食を食べていた。両親、姉さん、俺の四人家族なので、四角いテーブルの各辺に一人が座る事になる。そういえば、五人家族だと、どんなふうに座るのだろうか?それはともかく。
「そういや和也。そろそろ文化祭の準備が始まるよな?」
と姉さんが尋ねてきた。
「そういえばそうね。去年は三人とも受験で、文化祭は不参加だったけど、今年は見に行けるわね!」
と母さんがはしゃぐ。
俺の通っていた中学では、三年生は文化祭が任意参加だった。そして、今通っている高校(つまり、姉さんが昨年まで通っていた高校)も同じ制度を取っている。
それ故、毎年我が子の文化祭を見に来る母さんとしては、一年のブランクがあったわけだ。
「そういやそうだな。はあ……どうしようかな……」
「あら? 和也は文化祭は嫌い? せっかくの青春なんだし、思い出は作らないと!」
「いや、嫌いって訳ではないんだ。だから、本気で心配した目で息子を見ないで! 俺が言いたいのは……そのさ。文化祭のノリって難しくない?」
少なくとも俺にとって、文化祭のノリは難しい物である。思いっきり楽しむのは、俺のキャラじゃない。だからといって学園行事を楽しまず、一人むすっとしているのも俺のキャラでは無い。
「そうかしら?」
と母さんは首を傾げている。あれ?もしかして、この感覚を理解してくれる人っていない?
「分かる! 分かるぞ、和也! 高校時代の文化祭って難しいよな!! 大学になったら、その点は楽になるぞ~。自分の研究結果をプレゼンしてればオッケーだからな!」
姉さんが共感してくれた。いいよな、大学。自分の興味がある分野の発表をする。実に楽しそうだ。俺もやってみたい。
「そうは言いつつ、二人ともなんやかんや楽しそうにしてたじゃないか?」
と言ったのは父さん。文化祭は金曜日と土曜日の二日間。父さんも二日目は見に来れるのだ。
「まあ、学校全体が浮足立つから、それにつられてって言うか……」
「そうそう。そんな感じ」
「それでいいんじゃないか? 文化祭みたいな学校行事って本気で楽しめてる人なんてクラスの1/4もいないんじゃないか? 例えば、二年前、慧子のクラスって劇をしてたよな?」
「そうね」
「その時、本気で出し物を楽しんでいたのって、主役やその他大役を任された5、6人だったと思うぞ? 他の人は『取り敢えず、ワイワイ出来るし、授業よりは楽しいかな』みたいな感じだったんじゃないか? あくまで個人の感想だがな」
「うーん? そうなのかなあ……?」
「むしろ、お前たちは楽しんでいる方だったと思うぞ?」
そうなのかなあ……?
「ともかく、何をしたいか考えて提出する必要があってさ。今日中に。そんなアイデア無いんだよな……」
「うっわ……。それはきついなあ……。劇! 食べ物屋さん! とかそういう曖昧なのじゃダメなんだろ?」
「そうなんだよ……。姉さん、何かアイデア無い?」
「ないなあ……。私は、科学史について調べて発表するのはどうかって提案したけど、却下されたよ」
「それは姉さんが悪いな」
「何だと?! じゃあ、和也はどうなんだよ? 何かアイデアあるのか?」
「……。今の所、『面白い古典文学を今風にアレンジして劇にする』って考えている」
「お前も大概ひどいじゃないか! ……とも言えないな。普通に面白そうじゃん、それ」
「そうかなあ……。まあ、『宇治拾遺物語』とか面白いんだけどな」
◆
「って感じの会話があったんだけど、紗也は何か思いついた?」
登校中、紗也に聞いてみる。
「かず兄らしいアイデアね……。悪くはないんじゃない? 私たちのクラス、文系だし。真面目な子も多いし。私は、小物を作って売るって書いたわ」
「露店系か。小物ねえ……。俺はレジンくらいしかしたことないけど、刺繍とか編み物とかにも興味あるんだよな」
「ネットサーフィンしてたら、すっごく可愛いお花の刺繍が施されたハンカチを見つけてね! それを作ってみたいって思ったの!」
「ほう。紗也にはそういう可愛い物が似合いそうだな。作ろうか?」
図面さえあれば、たぶん作れる。中学の頃の家庭家の成績満点だったし。
「本当?! いや、やっぱり遠慮して置くわ。かず兄に作って貰うのは、なんか負けた気になるから」
「そう?」
確かに、ハンカチに施された装飾を、兄に作って貰ったとなれば、友達に自慢出来ないよな。そういうのは自分で作るべきだよな。
「Hey! アカツキ兄妹ではないですか。おはようございます」
「あ、シャルローゼさん。おはよう~」
「おはよう、シャルローゼさん!」
「何のお話をされていたんですか? あ、もしかして邪魔しちゃいました?」
「いや、大丈夫。文化祭の希望調査の件を話していたんだ。シャルローゼさんは何て書いた?」
最初の頃は敬語で受け答えしていたが、今はタメ口にしている。他のクラスメイトもタメ口で話しかけていたしね。
「文化祭という物がアストロフォールの学校には無いので、イメージが全く湧かなくって……。結局なにも書けていないです」
「そうなの? 学校行事が無いってこと?」
「しいて言えば、クリスマスパーティーやダンスパーティーでしょうか?」
「うーん。なるほど。日本の文化祭にはちょっと合わないかなあ……」
「ですよね……。あ、でも『お化け屋敷』とか面白そうだと思いました! 日本に伝わるお化けや幽霊の伝説は面白いですからね!」
「へえ! そういうの、興味あるんだ」
「ええ! それを陰陽師が退治するのってかっこいいですよね!」
「ああ、なるほど」
オカルトに興味があるんじゃなくて、陰陽師の歴史に興味がある感じか。
いや、陰陽師ってオカルトの一種か。
あれ、そうなると、俺達ってオカルト的な存在?
うん?
一瞬、思考がストップしてしまったのだった。




