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俺の先祖は魔法使いだったらしい  作者: 青羽 真
俺の先祖は魔法使いだったらしい
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I am a Magician!

 俺は紗也をじっと見つめながら、深刻そうに話しをする。

「さっき紗也がやったように、俺も現代語訳が終わったあと、魔法の練習をしたんだ。姉さんは『そんなことありえない』と思うかもしれないが、俺は魔法の存在を信じた」


「はあ」

 と呆れ顔をする姉さん。想像以上に演技が上手くてびっくりだ。


「そうよね! やっぱり期待しちゃうよね! かず兄は分かってる!」

 とはしゃぐ紗也。ごめんな……今から俺たちは君をだますことになる。だが、それは君を魔法少女にする為なんだ!(大真面目)


 俺は話を続ける。

「そういう訳で、俺は昨日、徹夜で魔法の練習をした。何度も何度も失敗した。やっぱり俺達一家が特別なんてことはないのかも。そう思うときもあったが、それでも俺は諦めなかった。いわゆる深夜テンションってやつだ」


「徹夜って。お前は馬鹿か?」と姉さん

「修行は継続が大事。諦めたらお終いって『祈神術』にも書いてあるしね!」と紗也。


「で、その結果。朝日が昇り始めたくらいに。成功したんだ。ちょっとだけだけど。魔法が。発動したんだ!」


「はぁ?」「マジ?」


「ああ。これを見てくれ!」


 そういって俺は水の入ったペットボトル(学校の帰りに自販機で買った)とたらいを取り出した。


~~

~~~


 時は昨日の夕方にさかのぼる。学校から帰ってきた俺を待ち構えていたのは、白衣を着た姉さんだった。


「手洗いうがいを済ませたら、私の研究室に来てくれ」


「え、まさか……。分かったすぐに行く」


 その後、俺は地下室への扉をノックする。中から「入って」と返事が返って来た。扉を開くと、目に飛び込んでくるのはPCモニターなどの電化製品やはんだごてなどの工具類。ここが、我が姉自慢の研究室である。※寝室は別にある


「まずは、これを見てみな」


「これは……なにかの粉?」


「ああ。生石灰という。化学の授業で習ったんじゃないか?」


「……」


「その顔は忘れてる顔だな。正式名称は酸化カルシウムって言って、化学式はCaO」


「へー」


「さて、そこに水を入れたたらいがある。では問題。この粉を水に入れるとどうなるでしょう?」


「溶ける……と見せかけて溶けない!」


「では入れてみてくれ」


「オッケー。それ!」


 粉を水に入れた瞬間、突如として水から気泡が出始めた。ポコポコと泡が出る様子はまるで……


「? 何が起こってるんだ?」


「水を触ってみな。安全だから」


「それ! あつっうー!! まさか沸騰したのか? どうなっているんだ?」

 さっきまで湯気すら出ていなかった液体。それが今は熱湯になっている。これを驚かずにいられようか、いやいられない。


「酸化カルシウムCaOは水と化学反応するんだ。化学式はこんな感じだ」

 そう言って、姉さんはホワイトボードにすらすらと化学式を書いた。


CaO+H2O→Ca(OH)2


「この反応は熱を発生させるんだ。だから、水に入れるとさっきみたいなことになる」


「すげえ! これ、100℃なのか?」


「そこまでは高くないはず。さっきの泡も、沸騰って感じではなかっただろう?」


「確かに。60℃くらいなのかな?」


「ああ。この化学反応を応用したマジックをやってもらおうと思う」


「なるほど。魔法で水をお湯に変えるって訳だな」


「そういう事だ。それじゃあ、早速練習を始めるぞ。まずはこれ。水溶性の膜で覆った生石灰の粉だ」


「確かに粉のままだと隠し持てないしなぁ」


「ああ。これを『サムパーム』と呼ばれる方法で隠してもらう」


「サムパーム? 親指(thumb)と手の平(palm)って意味かな」


「鋭いな。その通りだ。まあ言ってしまえば親指と人差し指の付け根でコインなどを隠す方法だ。マジックではよく使うらしい」


「へー! こんな感じか?」


「そうだな。では次に、ポケットに入れておいたそれを、さり気なくサムパームの位置に持っていく。これをやってもらおうか」


「オーケー。……難しいな」


「練習あるのみだ。私は他にする事があるから、少し練習しててくれ」



「いい感じに出来るようになったぞ」


「ほう! 見せてくれ」


「オーケー。『ここに何の変哲もない水があります』」


「ダメダメ! そんなこと言ったら、マジックだって思われるだろ? 紗也に魔法だって思い込ませるんだ。その為には、『出来て当然。疑う余地もないよね』って雰囲気を出さないと!」


「た、確かに。『これ、さっき買ってきた水なんだけどさ。見てて。……熱せよ! どうだ! 触ってみな!』」


「良い感じじゃないか! それじゃあ、次のマジックだ。といってもさっきとほぼ同じなんだけどな」


「というと?」


「ここに『硝酸アンモニウム』と『尿素』を梱包した物がある。これをさっきと洞様、水に浸けてくれ」


「尿素……」


「決して汚くないぞ? 尿の臭いの原因はアンモニアで、尿素は無臭だぞ」


「そうなのか? まあ分かったよ。それ」


 パックを水に浸けてみる。膜が溶けて、内部の化学物質が水中に放出された。すると……


「冷たい! すげえ、今度は冷たくなったぞ!」


「そんな風に驚いてくれて、私としては大満足だ。これで君は『水の温度を司る魔法使い』だ。あとは紗也をだますだけだ!」


「サンキュー、姉さん!」


~~~

~~


「という訳で、熱の操作が出来るようになった! 今の所、温度変化はもたらす事が出来るみたいだ。と言っても、金属を溶かしたりは出来なかったから、上限があるみたいだが……」


「すごいよかず兄! まさか本当に魔法が使えるなんて!」


「本当かぁ……。おい和也。その水、ちょっと貸してみろ。成分分析にかけさせてくれ」


 と姉さんが言う。何をするつもりだ?姉さんは俺の味方(サクラ)だ。見守る事にしよう。


「この水、私の研究室まで持って来てくれ」


「いいけど、種も仕掛けもないぞ?」


「本当かなあ~。まあ、分析すりゃわかる事だ」



「純水だろ?」


 成分分析をかけている姉さんに対して俺は問う。ちなみに、紗也も姉さんのPCをのぞき込み、結果が出るのを待っている。


「いや、和也の汗とかが含まれているから、純水って事はないと思うぞ。あ、結果が出たな。どれどれ……水に、タンパク質に、塩化ナトリウム。ほぼ純粋で、汗の成分がにじみ出ているだけって感じだなあ……」


 当然嘘であろう。もし本当にさっきの水を分析したら、色々な化学物質が検出されるはずである。


「だから言ったろ?」「やっぱりかず兄は……というか私たちは魔法使いなのね!」


「うーむ。釈然としないが、認めざるを得ないか……? なあ、和也! 嫌じゃなければ、お前の体を調べさせてほしい。今すぐ大学のラボでfMRIを取ろう! 魔法の発動時にどんな脳活動がみられるか調べたい」


「え! 今からか?」


「ああ! 今からだ。文句は言わせないぞ? 魔法が本当に存在するなら、科学のさらなる発展に繋がるかもしれないんだ! 紗也、私達が出て行った後の戸締りをして置いてくれ!」


「え? ええ? ええと?」


「それじゃあ、和也、行くぞ!」



「紗也に余計な追及を許さないために、わざわざこんな事したんだな?」


 姉さんの車でドライブ中の俺はそう問いかける。


「ああ。あまり追及されたら、ボロが出そうだしな。さて、ここから、さらに信ぴょう性を持たせる必要がある」


「そうだな。やっぱり、紗也の前で、他のマジックを披露すればいいかな?」


「いいや、その必要はない。今から、研究室でfMRIを実際に撮って貰おう。そこまでしたら、マジっぽくなるんじゃないか?」


「はあ? え、でもさ。MRIって一回取るのに結構なお金がかかるだろ? いいのか?」


「大丈夫だ。そもそも、MRIは設置費に莫大なお金がかかるが、撮影にはそれ程コストがかからないんだ。だから、私が頼めばたぶん無料で撮影してくれる」


 そう言って、姉さんは俺を大学構内へ引きずり込んでいった。




 最後に一言。1時間、MRI内で動かないのは、とてつもなく暇でした。




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