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The Tale of Astrofall

 1400年前後、アストロフォールは二人の魔術師によって作られました。これはそんなアストロフォールがどのように出来たかの話です。


 当時、Wheatbagと呼ばれる町がありました。その町の北には大きな川が流れており、そこを中心に広い広い小麦畑がありました。また、大きな川の支流が町の中央を貫くように流れており、飲料水に困る事もありませんでした。



 しかし、“Envy is the companion of honor”、日本語では「出る杭は打たれる」ですかね、と言うように、この町はとある貴族に目を付けられてしまいました。


「我々は近く、大きな戦争に巻き込まれそうなのだ。それに備えて、この町から食料を提供してもらう必要がある。戦争が終わるまで税率を上げさせてもらう」


「なんでですか?! あなた達の戦争と私達とは関係ないじゃないですか」


「我々の領土が攻められれば、当然この町も戦地となってしまう。そうしたら、多くの者が命を落とすだろう。どうにか耐えきったとしても、小麦は踏み荒らされ、町を立て直すのは難しいだろう?」


「う……」


 戦争の下りは全て貴族が吐いた嘘。しかし、農作業に忙しく、町へ情報収集に赴く時間が無かった彼らは、貴族の嘘に気付くことはできませんでした。

 彼らは、重い税を課せられてしまいます。


 すぐには、この町は衰退しませんでした。それだけ、この町の農業は栄えていたのです。


 すると、貴族は「もっと税を上げよう」と思います。徐々に上がる税に、不信感を抱き、声を上げる者もいましたが……


「戦争なんて本当に起きそうなのか?! いい加減終わっただろう? これ以上税を上げる必要などないだろう?!」


「我々の決定に反対するつもりか? 万が一、反抗するようなら、お前たちも敵だとみなして攻撃してよいと言われているのだぞ?」


 貴族の使者は剣を抜きます。後方に控えていた軍隊も剣を抜いて威嚇します。


「分かった従う! だから、命だけは!」


「ふん。分かればいいのだ。次反抗しようものなら、容赦なく切り捨てるからな」



 こうして、徐々にWheatbagの生活は苦しくなっていきました。



 そして、運命の日がやってきました。

 ある夏。大雨が川の上流で発生し、小麦畑に深刻なタメージを与えました。その年は小麦がほとんど収穫する事が出来ませんでした。


「ですので、今年の税は納める事が出来ません……」


「はあ? そんなことが許されるわけなかろう?」


「そう言われましても……!」


「備蓄庫があると聞いたぞ? そこから納めれば良かろう? 来月には徴収しに行くから、そのつもりで」


「困ります! あれは我々の……」


「決定に逆らえば殺すと言ったよな? もう忘れたのか?」


「……」



 困った町の住人達。反乱を起こそうにも、その武力は無いし、かといって従えば彼らは餓死してしまう。


「仕方がない。穀物を持って逃げよう。新天地を探すしか、我々に出来る事は無い」


 一人の青年が言います。


「そんな! この地を捨てるというのですか!」

「他に良い手段がある訳でも無し。そうするしかないのか……」

「そうは言うけど、どこへ行くって言うんだい!」


 青年は町の北西を指して言います。


「ひとまず、森へ逃げ込むのはどうだろう? 下手に逃げて追手に捕まれば、どうなるか分かったものじゃない」


「森は危険だぞ! オオカミに食べられて死ぬつもりか?!」


「それ以外に、道は無いだろう? それに、俺は一度、吟遊詩人から魔法を習った事があるんだ。それで分かったんだが、俺はその素質があるらしい。魔法がどこまで通用するかは分からないが、土壁を作ったり、丸太を加工したりは出来ると思う」


「いつの間に、そんな勉強を……?」


「まだガキの頃にね。最近は使っていなかったけど、まだ使えるはず」


 そう言って青年は近くの岩を触りました。すると、岩が少しずつ形を変えます。


「「「おお!!」」」


「こんな感じだ。ひとまず、岩を加工して武器を作り、木を加工して柵を作ろう。そうやって野生動物の侵入を防ぎつつ、森の奥へと進んでいこう」



 青年を先頭に、町の住人たちは森の中へと逃げ込みました。時には物理的に、時には魔法に頼りながら、森の奥へ奥へと進んでいきます。


 その間、青年は町の住人に魔法を教えました。とはいえ、素質があったのは一人の少女だけでした。


 森の中で採取をしながら細々と暮らしていたある日。青年は流れ星が流れるのを見ました。


「何かの運命かもしれない。あの流れ星が見えた方向に進もう!」


 そうして進むうち、彼らは大きな湖にたどり着くことができました。


「ここを我々の拠点としようではないか!」


 そこからは順調でした。魔法使いの青年と少女を中心に、湖の周囲は村となり、町となり、どんどん成長していきましたとさ。めでたしめでたし。



 なお、青年は魔法使いの少女と結婚しました。程なくして、二人は一人の男の子を授かります。魔法使いの夫婦の間に生まれた男の子は、非常に優秀な魔法使いとなり、無双するのですが、それはまた別のお話。




「とまあこんな感じです。物語としては、ある意味『地味』です。かぼちゃの馬車が登場したりしませんし、王子のキスで眠り姫が目覚める事もありません。ですが、この物語が地味なのは、それがかつて起きた『事実』だから。そう私たちは習っています」


「なるほど。アストロフォールという名前の由来は『流れ星が落ちた町』という意味だったのですね。この物語は、アストロフォールでは有名なのですか?」


「ええ。と言っても、実際にこれが事実だと信じている人は、一般市民にはいないと思います」


「そうなのですか?」


「かつて、ヨーロッパでは『魔女狩り』という物があったのを知っていますか?」


「はい。聞いたことはあります。……なるほど、その時に、『魔法』の下りは『架空』となったのですね」


「そう通りです。魔女狩りという物が横行しているといち早く察知したアストロフォール家は市民に『決して我々が魔法を使えると漏らさないように』という御触れを出したそうです。こうして、我々の先祖が本当の魔法使いだったと知る者はアストロフォール家のみとなったわけです」


「そうだったのですか……」


「アストロフォール家も魔法の継承をしなくなりました。そして、魔法の技術は失われ、私達は魔法を使えなくなってしまいました。だから私は、魔法の使い方に関する文献や、魔法技術を継承している人物を探しているのです。これが私が語れる全てです。そういう訳で、差し支えなければ、あなたの魔法について教えて頂けないでしょうか? もちろん、一族の秘密をそうやすやすと教える訳にもいかないでしょう。対価なら、用意できる限り用意します。どうか考えてはもらえないでしょうか?」







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