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名探偵シャルローゼ

 放課後になった。シャルローゼさんに呼ばれているので、俺は彼女の所へ。


「アカツキさんですね。わざわざありがとうございます」


「いえ、日本の文化に興味を持っていただけて、日本人としてすごくうれしいです」


 ちらと視線を横に向けると、一ノ瀬がそれはもう恨めしそうに俺の方を見ていた。ちょっと怖い。

 その視線に気づいたのか、シャルローゼさんも周囲を一瞥し、そして俺に向き直った。


「場所を変えましょうか」


「いえ、別に教室でも問題ないですよ」


「そうですか? でも、教室だと落ち着いて話せないでしょう? 移動しましょう」


 一ノ瀬に限らず、クラスメイト達に注目されながら、俺達はその場を去った。



 シャルローゼさんが向かったのは、学校の応接室。この学校で半年ほど過ごしている俺も、この部屋に入るのは初めてだ。

 中には、メイドのような人が一人、待機していた。メイドと言っても、喫茶店にいるような「Japaneseメイド」ではなく、名家に仕えている「メイド」だ。


「こんにちは、シャルローゼ様。それでは、そちらの男性が?」


「ええ、おそらく。早速ですが、アカツキさん。この写真に写っている人物、あなたですよね?」


 そう言って彼女は自分の鞄からタブレット端末を取り出し、俺に見せる。そこには、氷で攻撃しようとしている俺の姿がばっちり写っていた。……なにこれ?!どうしてこんなものが?どこかに監視カメラでも設置してあったのだろうか?

 驚く気持ちを抑え込みつつ、俺は……。


「僕じゃないと思いますが……」


 と答えた。我ながら、上手くポーカーフェイスを作れていると思う。



「そうですか、違いますか……」


 じっと俺を見てくるシャルローゼさん


「……」


 怖気ずに見つめ返す俺。



「私は日本語を沢山勉強して、かなりリューチョーに話せるようになったと思います。細かいニュアンスもある程度分かるようになっているのです」


「は、はあ。確かに、凄くお上手ですよね」


 突然話が変わったぞ?どういうことだ?


「だからこそ、私には分かります。『この写真に写っている人物、あなたですよね?』と聞かれて、あなたは『違うと思う』と否定されました。その解答は確実におかしいと私は思います」


「そ、そう言われても……。俺じゃない物は俺じゃないというか……」


「ねえ、あなたはどう思う?」

 と言ってメイドに視線を向けるシャルローゼさん。


「えっと……。彼の発言に違和感は無かったかと思いますが……」

 と返答するメイド。


「そうですかね? 私がその質問をされたとしたら、私ならこう答えます。『この写真はどこで撮ったものですか?』と」


「!!」

「そうですね。確かに言われてみれば……」


「そこの使用人は日本で生まれ育った方です。彼女も納得してくれたようですし、私の考えは間違っていないという事でしょう」


 そう呟いた後、彼女は俺へと向き直り


「アカツキさん。あなたは『この写真が撮られた場所、撮られた状況、そして写っている人物が自分である』と一目見て分かったのでしょう? そうじゃないなら、『違うと思う』なんて回答をするはずが無いのです」


「……」

 シャルローゼさん、ヤバい。この女の子、俺の想像以上に頭の回転が速い。名探偵シャルローゼ。そんな表現が頭をよぎる。それとも、俺がバカなだけか?


「沈黙、と言う事は肯定と言う事ですかね」


「い、いえ! そうじゃなくて!」


「ところで、この映像は、私の家の前に設置されていた暗視カメラの映像の一部なんです。つまり、動画として撮られています。この時の状況が写っているVideoをメディアに取り上げてもらって『この人物を探してほしい』と呼びかける事も出来ます。それは、あなたも困るのでは?」


「……」


「助けてもらったのに、恩をアナで返すような事はしたくないです。むしろ、私達はお礼をしたいのです」

「あ、シャルローゼ様。『恩をアナで返す』ではなく『恩を(あだ)で返す』が正しいですよ」

「ワタシ、ニホンゴワカリマセーン。冗談はさておき。アカツキさん、私はあなたをAutopsyしようなんて思っていませんので、安心してください」


「Autopsy?」


「剖検、解剖という意味ですよ」


「あ、ありがとうございます」


 メイドが翻訳してくれた。この人、凄いな。



 これが、名探偵に追い詰められた犯人の気持ちか……。証拠を揃えられ、しかも、逃げ道も潰され。大人しくお縄に着くしかないと理解させられる。


「ええ。そうです……。確かにその映像に写っているのは、僕だと思います……」


「やはりそうでしたか。まさか、日本に来たその日に魔法使い、日本では陰陽師と言うんでしたっけ、に出会えるなんて思ってなかったので、私、感動しているのです。そして、その人と同じクラスになれるなんて!」


「? まるで魔法使いを探しに日本へ来たような言い方ですね」


「実を言うと、そうなのですよ。もちろん、純粋に日本に留学したい気持ちもありましたよ。ただ、私の一番の目標は調べたかったのです、東洋の魔法使いについて。かつては存在した魔法の技術。その名残やそれ受け継ぐ人物に関して調べる事も私の留学の目的です」


「えっと?」


「あなたについて詳しく聞く前に、私の方の話をしますね。どうぞ、座ってください。あなた、お茶を用意してくれる?」

「かしこまりました」

「ありがとう」


 俺は彼女に促されるまま、席に着く。彼女とは向かい合う形になった。


 お茶を受け取り、一息ついた後。彼女は話を始めた。


「それは、今では伝説となっている物語。しかし、一部の人間は、それが伝説ではなく歴史上の出来事だと知っています……」






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