質疑応答と歓迎会
留学生の少女、シャルローゼさんのあいさつの後、質疑応答タイムに入った。まずは、事前に決まっていた質問を消化する事になる。
「それでは、シャルローゼさんに聞きたいことを色々と決めているので、自己紹介がてら答えてくれる?」
「分かりました」
◆
・日本に来たきっかけ
「聞かれるだろうと思っていた質問です。実は、私の曽祖母が日本人なんです。だから、私は子供のころから、日本の話をよく聞いていました。日本の食べ物について、日本の歴史について、日本の伝承について聞きました。それが日本に興味を持ったきっかけです。日本に別荘も持っているので、昨日の晩からはそこで住んでいます」
「ホームステイではないんですね」
「ええ」
・日本でしたいこと
「神社やお寺を見て回りたいなと思っています。また、日本の歴史について、現地で教わりたいなと思っています。あとは、お友達を沢山作りたいです! 私は日本語でSNSをするのに憧れているんです!」
「なるほど。この町にも神社やお寺は沢山ありますので、いつか案内したいと思います。それと、SNSの話が出たので……」
・スマホについて。(SNSについて・機種について)
「SmartPhoneは持っています。SNSも『ライム』『つぶやいたー』『インテレ』のAccountを持っています。是非、Friend Listに登録してください。それと……機種についてですか? 緑のロボットを使っていますよ」
「ぬな! |欠けたリンゴ《BittenApple》ではない……だと?」
と思わず叫んでしまったのはガジェオタの桜田。
「ええ。アストロフロー家の人は全員|欠けたリンゴ《BittenApple》を使ってはいけないことになっているんです。『セキュリティー的に危ない』と父が言っていました」
「失礼ながら、普通逆では? |欠けたリンゴ《BittenApple》の方がセキュリティーがしっかりしているのですよ?」
「そうなんですか? ですが、父が『誰が作ったのか分からないOSのSmartPhoneを使うなど危険だ!』と言ってましたよ? 私も詳しくは無いのですが、|欠けたリンゴ《BittenApple》の中で動いているプログラムは隠されているのでしょう?」
「え? もしかして、アストロフロー家の人が使っているスマホを作ったのって……」
「私の父です。Astrofall OS (powered by GreenRobot)ですね」
「す、すげえ……」
そういえば、姉さんがそんな感じの事を言っていたっけ?GreenRobotの中で動いているプログラムは全て公開されているから、それを書き換えてオリジナルの機種を開発できるのだとか。プログラミングに長けた人だと、GreenRobotの中身を魔改造して、最高のセキュリティーを実現する事が出来るのだろう。シャルローゼさんの父親の技術力の高さがうかがえる。
・食べてみたい物・食べれない物
「日本人が普段食べる食事を体験したいです。日本のconvenience storeの料理は絶品と聞きました。是非、食べてみたいです! 食べれない物は……凄く辛い物や凄く酸っぱい物は無理ですね。先に行っておくと、納豆は食べれます」
「日本食が食べたいという感じではないのですね」
「ええ。お寿司やその他の日本料理にも興味があります。ですが、それは『日本らしさ』ではないと私は思っています。本当に現代日本の文化を知りたければ、食べるべきは『日本人が普段食べる食事』だと私は思っています」
「なるほど。面白い考え方ですね……。ですが、凄く納得しました」
・好きな科目・嫌いな科目
「和歌という物に興味があります。あと、枕のソーシ?とかそういう物に興味があります。数学や科学が苦手です」
「おおー。いいですね。日本の古い言葉についてはあそこに座っている暁君が詳しいですよ」
げ! 注目されたくないのに! 要らんこと言うなよ!
ここで反応しないとかえって目立つだろうし、軽く会釈しておこう。
「へえ、アカツキ君……ですか。覚えておきます」
ふう。多分バレてないと思う。ここで『あ、あなたは!』とか言われたらどうしようかと思ったが、この感じだと気が付いていないのだろう。
その後も色々と質問が続く。中には、質問すべきか否かグレーな質問も
・恋人の有無
「言いたくなければ言わなくてもいいですよ」
「恋人はいません」
「「「ごくり」」」
その返答に、期待を募らせた人物が数名いたのだった。
◆
「それでは、ここから先は、立食パーティーとしましょうか。皆さん、積極的にシャルローゼさんに話しかけてあげてくださいね」
ひとしきり質問タイムが終わった後、立食パーティーが始まった。「立食パーティー」なんて大げさな言い方をしているが、実際はお菓子とジュースが用意されている程度。それでも「本来は授業中の時間に、お菓子を食べたりジュースを飲んだりする」という非日常な空間は、パーティー以上にワクワクする。
「シャルローゼさん、これからよろしくね!」
「はい、よろしくお願いしますね!」
クラスの中でもいわゆる陽キャに属する人たちを中心に、シャルローゼさんを取り囲んでいる。そのまま、クラスに馴染んでくれたらいいなと思う。
さて、俺は深く関わるべきじゃないな。教室の端に移動して、ひっそりと過ごす事としよう……
「あ! そこの……アカツキさん? でしたっけ?」
「は……い?」
呼ばれてしまった。
「日本の古い言葉に詳しいのですよね?」
「ええ、まあ。僕も古文漢文……、つまり古代日本語が好きなもので」
当たり障りない返事をしておく。
「是非、後程詳しくお話したいです。After Schoolにお会いする事は出来ますか?」
「え゛?」
「色々聞きたいことがありますので。駄目ですか?」
気のせいだろうか? 色々に別の意味が含まれているように感じてしまったのは。これは、俺が疑心暗鬼になっているだけか?
「え、ええ。大丈夫ですよ。放課後は時間があります……」
「そうですか! 非常に嬉しいです!」
シャルローゼさんは思わず見ほれそうになるような、美しい笑顔を湛えた。一ノ瀬やその取り巻きが恨めしそうに俺を見てくる。
だが、当の俺はというと、彼女の笑顔の裏に何かが隠れているのではないかと思って、冷や汗を流すのだった。




