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留学生の少女

「って事が昨日あってさ」


 登校中。紗也に昨日の夜に見た誘拐未遂事件の事を話す。


「ええ?! 大丈夫だったの、それ? 怪我してない?」


「ああ、大丈夫だったよ。拳銃で撃たれた時は焦ったけど、物理結界で守れた。マジで拳銃を防げるとは、魔法って恐ろしいな」


「結構危なかったじゃない! ほんと、無茶はしないでよね! かず兄に万が一のことがあったらと思うと……。もう! 自分の身を大事にして!」


「うん、自分でも反省してる。だけど、何もしないのは人として、陰陽師の家系としてどうかと思って……」


「むー。そんなこと言って、カッコつけたかっただけじゃないのー?」


「バレた?」

 正直、異能で誰かを守るシチュに憧れていたことは否めない。


「もう! いい? 今後、そういう危ない事には首を突っ込まないように!」


「はい。約束します」


「よろしい。それにしても、女性と執事が誘拐ねえ……。執事付きって事は、やっぱり大金持ちのご令嬢とか?」


「だと思う。だからこそ、狙われたんだろうし……」


「世も末ね……」


「だな……。魔法を使えるようになっておいて正解だったかもな」


「確かに。いざって時に自分を守れるのは安心よね」



 さて、教室に到着する。教室の後ろには『日本へようこそ』と書かれた掛け軸がかかっている。そうか。今日、留学生の女の子が来るんだったな。


「おはよう、暁。 今日は爽やかでいい天気だね」


「おっは、一ノ瀬。なんだ、その変な口調は?」


「何がだい? 俺はいつもこんな感じだろう?」


「?」



 首を傾げていると、ちょんちょんと萩原に肩を叩かれる。そして、説明される。


「金髪美少女なお嬢様の登場に備えて、クールになってるんだって」


「クール……か? 確かに、いつもの馬鹿な一ノ瀬に比べたらマシだけど……」


「本人曰く、『輝け!金のラブレター!!』で予習して来たとか」


「何それ?」


「ギャルゲーらしいよ」


「ふーん。というか、来る子は本当に金髪で美少女なのか?」


「いや。そこも一ノ瀬の妄想だ」


「おい!」


 まあ、一ノ瀬はやりすぎとは言え、明らかにクラス全体も浮足立っている。色々とデコレーションした教室にいるだけでもテンションが上がるという物だ。ましてや、新たなクラスメイトの登場が控えているのだ。かくいう俺も楽しみだ。



 しかし、こんな俺達の期待とは裏腹に、朝礼で悲しいお知らせがあった。


「えー。諸事情により、留学生の子は午後から来る事になりました」


「「「ええーー!」」」


「という訳で、午後からあった授業を午前中に持ってきました。皆さん、お昼までは授業をしっかり受けましょう!」


「「「そんなあああーー!」」」


 この雰囲気の中で、授業か……。集中できるかな?家族がクリスマスやお正月を祝っている時に、自分だけ受験勉強している時と同じくらい、集中できない気がする。


◆英語の時間にて


「はい、それじゃあ予習チェックだ。(1)の並び替え問題を……一ノ瀬。解いてみろ」


「はい。『(He) (is) (no) (more) (intelligent) (than) (a) (baby) (is).』です。訳は『赤ちゃんが知的でないのと同様に、彼は知的ではない』です。意訳して『彼を知的と言うのは、赤ちゃんを知的と言うようなものだ』となります」


「完璧じゃないか! まさか本当に解けるとは思ってなかったぞ……。やっとお前も、予習の大切さに気が付いたのか!」


「はあ。金髪美少女にかっこいい所を見せる予定だったのに……予習が無駄になった……」


「……明日以降もしっかり予習すればいいだろ?」


「嫌です!」


「あっそ」



 色々と予定は狂ったものの、なんとか午前中の授業は終わり、午後になった。待ちに待った、留学生の登場である。


「それでは、遅くなってしまいましたが、今年この学校に通うことになった留学生を紹介します。シャルローゼさん、どうぞ」


「失礼します」


「「「おお……!」」」


 現れたのは、長く美しい金髪を携えた美少女だった。彼女の瞳はラピスラズリのような美しさがあり、見る人に程良い緊張を与える。男子に限らず、女子もその美しさに感嘆を漏らした。

 まあ、可愛さで言うと、紗也と姉さんの方が何百倍も上と思うけどな!!


「皆様こんにちは。ホンジツ(本日)より、この学校に通うことになりました、『ソフィリア・シャルローゼ・フォン・アストロフォール』とモーシ(申し)ます」


 ペコリと上品にお辞儀すると、彼女の長い金髪がふわりと揺れる。彼女のあいさつに対し、俺達は拍手する事を忘れ見入ってしまった。



 そういえば、彼女の事をどこかで見た気がする。えっと確か……。そうだ!暗くて良く見えなかったけど、彼女の背丈や長い金髪が、昨日の夜見た少女にそっくりなんだ。


(え゛? えええええーー! 昨日誘拐されそうになってた子じゃね?!)


 驚きを声に出さなかった俺を褒めてほしい。


(バレたら不味い、バレたら不味い、バレたら不味いーー!)


 俺は昨日、誘拐犯に(さら)われそうになっていた彼女を助けた。だから、普通はバレても全く問題ない。むしろ「あ! あの時の!」的な感じでラブコメが始まってもおかしくない状況だ。

 そう。「普通は」である。

 俺は彼女らを助けるのに、魔法を使った。夜中で顔も見えないだろうし、なにより緊急だったので、人前で魔法を使った。使ってしまったのだ。


 バレたらどうなる? 魔法について根掘り葉掘り聞かれたりする? いやそんなだったらまだマシ。お金持ちらしいし、権力に物を言わせて、俺の身柄を確保して、解剖されるかも……?



(でも。そもそも暗闇だったし、俺の顔を視認できていないかも。仮に覚えていたとしても、俺の顔って『ザ・日本人』みたいな特徴のない顔だ。俺だと気づく事も無いか?)


 そんな楽観的な考えが頭をよぎる。



 そこまで考えた時。クラス中から拍手が鳴り響いた。そういえば、彼女が自己紹介している途中だったんだ。

 若干俯き加減で、俺も新たなクラスメイトを拍手で迎えるのだった。








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