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心霊スポット騒動のエピローグ

「なるほどね……声を出していたのは兵人形だったと。怨念じゃなかったのね! ほんと良かった……」


 紗也に事の顛末を説明すると、彼女は心底安心し、笑顔になった。最近は夜寝るのに苦労していたそうだから、今晩からは怯えることなくぐっすり眠ってほしい。


「霊魂珠は今後研究したいと思っているけど、人形本体は不気味だし歴史資料館に寄贈しようと思ってる。で、寄贈する前に紗也も見ておくか?」


「そうね。せっかくだし見てみようかな?」


 という訳で、再び祖父ちゃんの家へ移動。中庭に放置してある人形を見せる。


「うわ! 思った以上に骸骨ね……。普通に気持ち悪い……」


「だよな。俺が掘り起こした直後はまだ動いていたんだけどさ。目の前でガバ!って動いたもんだから、それはそれは怖かったぞ……」


「それは恐怖以外の何物でもないわね。私だったら、漏らしてるかも」


「実際、俺はちょっと漏らした」


「え? ちょっと近付かないでくれない?」


 紗也がすっと俺から距離を取る。


「冗談だから!」

 と弁明するも、姉さんが

「さっき、紗也の家へ行く前に下着を着替えてたぞ?」

 と言ってしまった。


「姉さん?!」


「いや、不清潔って思われるよりはいいんじゃないか?」


「そうだけれども!」


「あはは。別にそんな事で避けたりしないわよ。冗談だから、落ち込まないで。むしろ、ちょっと漏らしたくらいで済んでよかったじゃない。怪我が無くて本当に良かったわ」


 と言ってくれる紗也。ええ子や……。


「ありがと。怪我せずに済んで本当に良かったよ」



 記念撮影もし終えて、いよいよ要らなくなった人形を持って、俺達は高六丘(たかろくおか)歴史資料館へと向かった。館内に入ると、館長さんに出迎えられた。


「いらっしゃい。やあやあ、暁君。今日はどうかしたのかね?」


「はい。実は見てほしい物がありまして」


「ほう! なんだね、なんだね?」


 興味津々な館長さん。彼は若い頃、考古学者をしていたようで、歴史的な事物に造詣が深い。さて、兵人形は見たことがあるだろうか?


 俺たちは発見の経緯や発掘の様子などを、一部ぼかして説明する。魔法についてや霊魂珠に関しては端折って『心霊スポットになっていた』→『火のない所に噂は立たぬと思って金属探知機を使った』→『見つけた』のような感じで説明した。


「暁君もこの喉仏の所に彫られている文字は読んだかね?」


「はい。『兵人形』という文字と『銘』という文字は読めました」


「そうかそうか。なら話は早い。この人間の骨格標本みたいな人形は『兵人形』と呼ばれていて、安土桃山時代前後の資料に見られるんだ。人形同士を戦わせるという記述から、人形劇の道具として使われていたとされているんだ。実物は今までに300体ほど見つかっているんだけど、どれも状態が悪くてね……。ここまで綺麗な物が見つかったのは本当に稀だよ」


 他にも見つかっているのか! それは気になる。


「どの辺りでよく発見されているかとか分かりますか?」


「ちょっと待ってね……。はい、これが今までの発見場所だよ」


 高六丘町でもう一件見つかっているそうだ。他にも本土の全国各地で発見されていると示されている。


「この資料は頂いても?」


「大丈夫だよ。それにしても、こんなものを発見するとは、流石だねえ! 貴重な資料だし、是非とも大事にしてくれたまえ」


「それなんですが、僕の家では保管しようにも良い設備がありませんし、この資料館に寄贈したいなと思っておりまして。いかがでしょう?」


「え? 本当にいいのかい? 私としては、凄くうれしいが……」


「はい。多くの人に見てもらった方が良いでしょうし」


「そうかそうか。発見者の名前と共に、展示しようかの。あ、そうだ。もう一体見つかったっていう兵人形も見てみるかい? そっちは状態が悪いんだけどね。この兵人形とは別の形態なんだよ」


「見せてください!」


 そして、案内されたのは、資料館の倉庫。館長さんが大きな箱を引っ張り出してきた。


「これだよ。見てもらって分かるように、これは盾を装備していたように見える。まあ、ボロボロに壊れてしまっているから、はっきりとは分からんがね」


 見せてもらった兵人形は確かに壊れていた。一番損傷がひどいのは胸の辺り、ちょうど霊魂珠が埋まっているあたりだ。

 そうか、壊れてしまっているのか……。うーん、もし霊魂珠が壊れていなかったなら、この兵人形は動いているはずだし、壊れているのも当然か。そう考えると、今までに発見された他の兵人形も、すべて胸部が破壊されている物と考えて良いだろう。


 館長さんにお礼を言って、俺達は資料館を後にしたのだった。




 その日の夜、姉さんと俺は心霊スポットへもう一度赴いた。静寂。前回聞こえた「殺してやる」ではなく「壊してやる」という声はもう聞こえなかった。もうこの周辺には他の兵人形は無いのだろう。


 その事を確認した俺と紗也は、夏の肝試し企画に参加したメンバーのグループチャットに兵人形の写真をアップ。「例の心霊スポットにほど近い場所にこんなものが埋まっていました。カラクリ仕掛けで『殺してやる』という声に似た音を発するように出来ていました。これを取り除いた今、あの場所に夜行っても、声は聞こえません。安心して下さい」と説明もした。


「気持ち悪いな……なんでこんなものを作ったんだか」

「昔の人の悪戯かな?」

「もう安心なのか! よかった~」

「ふい~。これで夜しか眠れない生活から脱却だぜ」

「ぐっすり寝とるんかい!」


 クラスメイトから反応が返ってくる。

 あ、早瀬と小鳥遊からも連絡が。「やっとぐっすり寝られるよ~」か。あの二人、当日は顔を真っ青にさせながら帰路に就いてたもんな。今晩からは安心して日常生活を送って貰いたいものだ。



「ただの肝試しが、まさかこんな風になるなんてな」


「そうね。怖かったけど、凄く楽しかったわ!」


「それに、新しい研究材料も手に入ったし。とことんまで調べ尽くしてやる」


「壊さないでよ、姉さん」


「分かってるって」


「これで、心霊スポット騒動のエピローグを迎えたって訳ね! 次はどんな出来事が私たちを待っているのか、楽しみね!」


 そう言って紗也が姉さんと俺を交互に見る。

 俺と姉さんは顔を見合わせて……


「「いや、平和な日常が続いて欲しいよ……」」


 とつぶやくのだった。





紗也「あれえ? 張り切ってるの、私だけ?」


俺&姉さん「炎天下で発掘作業した俺達/私達は、今、筋肉痛に悩まされているのです!」


紗也「あ、あはは……。なんかゴメン……」






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