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兵人形

「な、な、な……」


 俺は恐怖に腰を抜かしていた。嘆き声の主が、まるで俺たちに襲い掛からんとするかのように動き始めたからだ。しかし、俺が咄嗟に使った「魔術攻撃無効」の影響か、奴の動きは止まった。


 さて。目の前にある物を一言で表すなら「金属で出来た骸骨」である。骨盤、肋骨、背骨。全て理科室に合った骨格標本と類似している。

 ただし、改めて見て気が付いたことだが、頭蓋骨に当たる部分は作られていないようだった。頭に当たる部分には、朽ちた木の塊が付いていた。かつては日本人形のような精巧な彫刻が彫られていたのだろうか?朽ちてしまった今となっては分からないが、仮に日本人形の頭が付いていたら、恐ろしさは倍以上だったと言えよう。


「なあ、和也。さっきこいつ、動いたよな?」


「お、俺にはそう見えた」


「からくり人形か何かなのか……?」


 姉さんは動かなくなった人形をひょいと持ち上げ、ジロジロと観察を始めた。物怖じせず、金属骸骨を触れる姉さんは、肝が据わっていると思う。


「とりあえず、まずは穴から脱出しよう」


「そうだな。明るい所でじっくり観察したい」



 人形をビニールシートで覆って、車に詰め込み、祖父ちゃんの家へと向かう俺達。湧水の水を利用して洗浄する為だ。

 傷つけないように丁寧に洗う姉さんと俺。とその時、不意に姉さんが俺を呼んだ。


「なあ、和也。ここに文字が掘られてるよな? 読めるか?」


 上半身に当たる部品を洗っていた姉さんが、文字が掘られている部品を発見した。えっと、何々……?


「かすれていて読めないなあ……うん? これって……」


 (かす)れており、さらに崩し字であるので読みにくい事この上ない。実際、何かの古文書を解読する際は、辞書を片手に作業しないといけないのだ。しかし、一度見たことがある文字列ならば話は別。『我』のような、よく登場する文字の形は流石に覚えている。

 そして今回。金属に掘られた文字の内、とある三文字に俺は見覚えがあった。


「何かわかったか?」


「ここの三文字。崩してて読みにくいけど、『兵人形』って書いてない?」


「どれどれ? 言われてみれば……。それって確か、海で見た石碑に書いてあったことだよな?」


「そうそう。他の部分は読みにくいけど……。あ、ここにあるのは『銘』って文字。おそらく作った人物の名前かと」


 もう一字、判別可能な文字があった。『銘』。出土品によく見られる文字なので、読む事が出来た。


「『銘』ってあれだよな? あの……刀の製作者の名前とかそう言うやつ」


「正確には金属製の器具全般に刻まれた製作者の名前だな」


「ふーむ。これって、例の石碑の『兵人形』って考えていいよな?」


「文字の性質から見て、同年代と考えていいと思う。ってことは、つまりあの石碑の内容って『兵人形同士の戦い』は『人形劇』ではなく……」


「「本当に戦っていたという事か?」」


 俺たちは顔を見合わせる。「兵人形供養碑」の内容は、「兵人形を作り人形同士を戦わせた。戦いが終わり、人形は残骸になってしまった。人形たちには成仏してほしい」というような内容だった。

 これを読んだ俺達は「人形劇で使う、兵士役の人形を供養した時に建てた石碑」ではないかと考察していた。

 今でこそ、人形を動かす技術(=ロボットの技術)が発展しており、ロボット同士を戦わせる大会もあるが、古代日本にそんな技術があったとは思えない。

 まるで人形同士の戦いがあったかのように描いているも、実際には人形劇の一幕であったと考察した方が自然だ。そう考えていた。


 しかし、先ほどこの人形は動いた。声も出していた。そんなものを見せられては「古代日本にそんな技術があったとは思えない」という前提がひっくり返る。


「もし人形供養碑の内容を信じるならば、強い願いを込めた霊魂珠(れいこんじゅ)って物があるはずだよな?」


「頭部にあるのか? いや、もしかして、これか?」


 姉さんが指さしたのは、心臓に当たる部分に取り付けられていた、直径2センチメートルほどの透明な球体。一見、ただのビー玉のように見えるが、果たして。


「そこに強い願いを込めてみてよ」


「そう言われてもなあ。それ!」


 姉さんが球体に触れる。すると……


「「うわ!」」


 球体から水があふれ始めた。


「姉さん? 何をしたの?」


「水蒸気を凝縮させる魔法を使うようにイメージしてみた。そしたら、こうなった」


「それって、つまり。この霊魂珠は魔法の効果を保存できるという事?」


「そう言う事……なんだろうな。という事は、この人形が動いていたのも」


「『戦え』『敵の人形を壊せ』という『魔法』が込められていたから、動いていたという事……?」


 そのような複雑な魔法が存在し得るのかどうかはともかく、少なくとも、金属が動いたり声を発していたりした動力源は魔法だったと考えてよいだろう。実際、この人形には電池なんて使われていない。


「そういうことだと思う。あのあたりの精霊濃度は異常に高かったよな?」


「そうだな」


 そう。精霊濃度が高かった事が「幽霊は本物かもしれない」と考えるに至った原因である。


「精鋭濃度は龍脈上で高い値を示すが、それ以上に『魔法の術者がいる付近』でも高い値を示す。私達の家や紗也の家で高い値を示していたよな」


「そっか。霊魂珠という『術者』がいたから、その付近の精霊濃度が高い値を示していたのか!! 霊魂珠を術者と呼称するのが適切かどうかはともかく」


「そういう事になると思う」


 こうして、嘆き声の真相が明らかになったのだった。兵人形に関する情報が世間に知られていない訳や、霊魂珠の由来といった、新たな謎を俺たちに残して。



「そういえば、俺の『魔術攻撃無効』に呼応して人形の動作が止まったよな。あの事も、兵人形の動力源が魔法だってことの証明になるよな」


「それだけではないと思うぞ。完全に推測の域を出ないが、お前の『魔法的な効果を止めろ』という強い思いによって、元々霊魂珠に込められていた魔法が上書きされたのではないか?」


「なるほど。人間の強い意志は、込められた魔法を上書きできるもんな」


「一連の出来事を紗也に報告しようか」


「そうしよう」








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