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俺の先祖は魔法使いだったらしい  作者: 青羽 真
俺の先祖は魔法使いだったらしい
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リケジョ vs 中二病

「俺たちの先祖は、本当に陰陽師だったのかなあ? それじゃあ、もしかしたら俺も陰陽術……言いにくいから魔法でいいか……を使えるのかなあ?!」


 自分の家の蔵から、陰陽師についての本が出てきたのだ。中二病じゃない人すら()つワクワクする、(いわ)んや俺をや。

※漢文の重要な句形。【Aすら且つB、況やCをや】=「AですらBなのだ。ましてやCならなおさらだ。」


 しかし、根っからの科学者基質の姉さんは、苦笑しながら


「まあ、それはないでしょ。現に、私がいくら祈ったって、魔法は使えない。加えて言うなら、仮に魔法が存在するなら、もうとっくに研究が進んでいるはずよ」

 と言ってのけた。夢が無い……。



 だが、俺は負けない!確かに、姉さんの言っていることは的を射ている。しかし、その理論には欠陥があるのだ!


「よく見てよ、姉さん。術の発動条件を」


「と言うと?」


「『自分は陰陽術を発動できないだろうという疑いの心があれば、絶対に成功しないのだ』って書かれているじゃないか。魔法が発動しないのはこのせいなのだよ」


「そう言われるとまあ……。じゃあ、和也がやればいいじゃないか。魔法の存在を信じているお前が実践して、それでも魔法が使えなかったら、魔法が存在しない証明になるだろ?」


「俺も無理さ。確かに俺はこの内容を信じたい。だが、『信じたい』というのと『心の底から信じている』とは別だろ? 生まれた時から今まで10年以上経つが、俺は一度たりとも魔法を見たことが無い。どう足掻いても、俺の頭の中には『魔法は存在しない』という価値観がこびり付いているんだ」


「なるほど。『科学が蔓延したこの世の中において、術の存在を心から信じる事ができ、そして実際に術を発動させる事が出来る人はいない』、そう君は言いたいのだな?」


「ああ。全く持ってその通り。魔法の不在証明は出来ないのだ」


 言ってからどや顔する俺。夢をぶち壊す事は、いくら天才科学者であっても、してはいけない事なのだ!



 と、ここで姉さんはにやりと笑みを浮かべた。何かを思いついたときの顔である。

 うわ、絶対ろくでもないことを考えてやがる。そう思ったけれども、下手に逃げようとすると、逆に(ろく)でもないことになると経験が語っている。


「ふふふ。なあ、和也~」


「なんだよ、姉さん」


「私は考えた。二)の条件を満たせる人を生み出せば(・・・・・)いいのではないかと。それで実験を行えば、魔法の不在証明が出来る」


「ほう? どういうことだ?」


「今から天才発明家の私は、マジックの小道具を作る。それを使って君は『俺達一家は魔法が使えるのだ』と紗也に伝えるんだ」


「……なるほど! そうしたら紗也は魔法が存在すると信じてしまう!」


「そういうことだ。もしも伝承が本当なら、紗也は魔法を使えるようになるという訳だ。逆に、紗也が魔法を使えるようにならなかったら、魔法は存在しないという事になる」


「そうだな……。よし、乗った! 紗也を見事魔法少女に仕立て上げようではないか!」


 俺達はお互いの顔を見つめ、にやりと笑った。こうして、紗也は姉弟のモルモット(実験動物)となってしまったのだ……。



 古文書『祈神術』の解読から三日が経った水曜日の夜。俺は紗也に切り出した。


「そういえば、前に見せた古文書の解読が終わったぞ」


「凄い! どんな内容だったの?」


「それなんだが……。後で爺ちゃんの家で――いや、俺ん家で詳しく話そうと思う。できれば姉さんを含めた三人きりで話したい」


「わ、分かった。なんだか深刻そうね」


「まあ、な。それじゃあまた後で」


 いかにも深刻そうな表情で話す俺。当然、実験に先立って演技しているだけである。だが、ポーカーフェイスには定評がある俺にとって、今から悪戯を仕掛けると悟らせないことは容易い。だって俺、感情が無いから(←中二病発動中)


 その日の放課後。我が家のリビングに紗也と姉さんを呼び、現代語訳した物を見せる。


「これが、訳した『祈神術』だ。まずは内容を確認してほしい」


 姉さんと紗也にそれぞれ訳本を渡す。紗也は「良くもまあ、あれを訳したわねえ」なんて言いながら内容を確認し始めた。



 さて、今回二人に渡した『祈神術』だが、日記部分の内容は第一版のそれと同じである。だが、最後のページの訳を少しだけ変えてある。こんな具合に


本当の訳【

 術者の生来の素質は威力に大きな影響を与える。例えば、我々陰陽術の血を継ぐ者は、比較的術が発動しやすい。だが、家系とは関係なく、突然素質を発揮する者もいるし、逆に突然素質が途絶える事もあり得る。

 つまり、以下の事を実践しても、必ずしも強力な能力を使える訳ではない。それを踏まえて続きを読んで頂きたい。

↓↓↓

偽の訳【

 術者の生来の素質が大きく威力に影響を与える。例えば、我々陰陽術の血を継ぐ者は、ほぼ確実に術を発動出来るようになる。だが、家系とは関係なく突然素質を発揮する者もいることにはいる。


本当の訳【

 ここで、自分の望みは現実化するはずだと強く信じる事が出来ないと、決して陰陽術は発動しない。「自分は陰陽術を発動できないだろう」という疑いの心があれば、絶対に成功しないのだ。

↓↓↓

偽の訳【

 ここで、自分の能力に対して、疑念を抱いてはいけない。最初の内は失敗が続くだろう。しかし、必ずいつか成功する。失敗が続いても、決して諦めてなならない。


 このように、紗也により強く「自分は魔法を使えるのだ」と信じ込ませるために一部内容を書き換えたのだ。


「ほう。なかなかに面白い内容だな。まるで実際の話のようだ」

 と姉さんが言う。本当に初めて読んだかのような演技を見事に行ってくれた。


「へえー! こんなのが私たちの家の蔵に……。『ファイヤボール』! 『クリスタルランス』! 『アクアボム』! 『セイクリッドフィールド』! 『アカシックレコード』!……どれも発動しないわね」

 と遅れて読み終わった紗也が言う。聞いていて分かるように、我が従妹も中二病気質である。



 さて、ここからが本番だ。三日の間に姉さんが作り上げたマジック道具を片手に、紗也に向かって話しかけた。






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