嘆き声の真相3
嘆き声、ではなく「壊してやる」という声が聞こえてくる水田に埋まっていたのは、人骨だった……。これは大問題なのでは?普通に警察沙汰だぞ?
「か、かず兄……」
完全に怯えてしまった沙也が俺にしがみついてくる。俺も恐怖心から、姉さんに抱き着く。そして、先頭の姉さんはそんなに怖がっていないようだ。
「これは……警察沙汰だよな?」
冷静に姉さんがスマホを取り出す。
「待って」
しかし、姉さんの先輩はそれを制止した。そして、話す。
「万が一、これが人の骨だったら、金属探知機には映らないわ。」
「「「確かに!」」」
「となると、何が埋まってるんだろ? 骨格標本? でも、普通、骨格標本ってプラスチック製よね?」
「謎が深まったな……。この土地の所有者が誰か調べて、掘り起こしたいって交渉するしかないか……」
これ以上の議論は無意味だろう。解析結果の3Dモデルを姉さんのPCに移してから、俺達は解散となった。
◆
普通、不動産が誰の持ち物なのか調べるには「法務局」へ行く必要がある。ただ、そんな事をする前に、顔の広い人に聞いてみるのが手っ取り早いという事で、祖父ちゃんに相談する事に。
「あの辺りに土地を持っとる知り合いとなると、一条さんくらいだなあ。聞いてみるからちょっと待ってな」
そう言って、祖父ちゃんは電話をし……
「一条さんの土地かもしれないとの事だ。会って話すか?」
と俺達に問いかけてきた。
「「「お願い!」」」
「分かった」
こうして、俺達は、その土地の所有者である一条さんと話をする機会を得たのだった。
◆
「やあやあ。暁んとこの孫たちだね? 久しぶりだの~。私の事、覚えとるかい?」
一条さんのお宅へと向かった俺たちは、おばあさんに迎えられた。えっと、確かこの人は……
「はい、覚えています。確か、昔よくブドウを届けてくれた方ですよね? それから、ブドウ狩りに伺った事もありましたっけ?」
祖父ちゃんの知り合いという事は、俺達もあった事がある。最近はお会いしていなかったので、正直ほとんど忘れていたが、顔を見て朧気ながら記憶が戻ってきた次第だ。
「おお! よく覚えとるね! そうそう。確かに、私がブドウを届けていた人だよ。最近は、果樹園の方は手入れしていないけどねえ……。それで、私の田んぼから、変な声が聞こえるって話だったよね?」
「はい。『壊してやる』って声が聞こえてきて、金属探知機で調べた結果、地中に何かある事が分かりまして」
「そうか……。実は、私もその声を聴いたことがあっての。あれは一年ほど前だったかの? 新調した草刈り機を使っていたんじゃが、日も暮れて帰ろうとしたら聞こえてきたんじゃ。壊してやるって。買い替えたばかりじゃったから、『誰じゃ?!』って辺りを見渡したんじゃが、誰の姿も見つけられず……。そんなことがあっての」
「「「一年前……?」」」
変だ。仮に一年前にも声が聞こえていたとなると、その機械は一年以上動き続けている事になる。そんなの、明らかに不自然。それじゃあ、あの場に埋まっているのは一体何……?
「そうじゃ。不気味に思ってその日は逃げ帰ったんじゃが、次の日に行っても、特に声は聞こえなくての。まあ良いかと思って放置しておったんじゃ。そしたら、その半年後くらいに『私たちの畑が心霊スポットになっている』って孫から教えてもらっての。深夜に向かうと、また『壊してやる』って声が聞こえたんじゃ……! 不気味に思ってはいたんじゃが、儂らの身に不幸が降りかかる訳でもないし、放置しておったんじゃ。でも、せっかくの機会じゃし、調べてみたい気もするの。という訳で、是非頼む」
「いいんですか?! でも、今まさにあの土地でお米を育ててらっしゃいますよね……?」
「掘り起こすとして、どれくらい広い範囲なんじゃ? 確かに、田んぼの半分以上となると困るのう」
「いえ、事前に場所は調べてありますので、狭い範囲で十分です」
「なら問題ない。あ。じゃが、作業は来週の方が良いと思う。今は水を張っておるが、今から水を抜くんじゃ」
「「え?」」
「水田に水を張り続けたら、稲の根っこが成長せんのじゃ。一度、水を抜く事で、稲は水を求めて根を地中深くまで伸ばす。そしたら、風が吹いても倒れにくい、強い稲が出来るんじゃ」
「「なるほど」」
「そういう訳じゃから、田んぼが渇いた来週以降、好きに作業してくれ」
「「「分かりました。ありがとうございます。」」」
「こちらこそ、ありがとうね」
◆
そして次の週。姉さんと俺は例の水田へとやってきた。いや、水を抜いて乾いているから「水田」ではないか。
紗也は、「怖いから、家で待っていてもいい?」とのことだ。正直、俺も待っていたかったが、姉さんに「お前は来い」と連れてこられた。はあ。
「それじゃあ、掘っていきますか!」
「ああ。怖いなあ……。本当に、ただの金属製品なんだよな? 忘れてたけど、ここって精霊濃度が異常に高かったじゃないか。理科室の骨格標本に魂が宿って叫んでいる……とかないよな?」
「万が一にも、私達人間に悪影響を及ぼそうものなら、破壊するしかない」
「そうは言っても、どう対抗するのさ?」
「前に和也が作っていたじゃないか? なんだっけ? 『浄化』だとか『障壁』だとか言っていた魔法」
「なるほど! 目には目を、歯には歯を、魔法には魔法でって事だな!」
「その使い方はおかしいのでは?」
「なんでもいいじゃん。とにかく、魔法で怨念を無力化すればいいんだな!」
そういえば、俺達は魔法を手に入れてから、バトル的な事を一度もしていない。せいぜい、三人で魔法の撃ち合いをして遊んだくらいだ。今回の事は、魔法を活かす良い機会かもしれない。
「とりあえず、掘るぞ。出来るだけ、稲を傷つけないようにな」
かなりの深さまで掘り進めた。50センチ、1メートル。そして、1メートル50センチほどまで掘り進め……
壊してやる……壊してやる……
「な、なんか声が大きくなってきてるような……」
そう。例の声がはっきりと聞こえ始めたのだ。恐怖以外の何物でもない。
「そりゃあ、音源に近づいているのだからな。もう少しだ。掘り進めるぞ」
「ごめん、姉さん。ほんとにもう無理……。冗談抜きで漏らしそう」
「漏れそうなら、先にトイレに行って全部出して来い。ついて行こうか?」
「……トイレの外で待ってて」
「いいぞ」
そして、さらに掘り進めると、腐った木片のようなものが出土した。木片じゃない。これは……元は木箱だった物?
「姉さん、これって……」
「もしかしたら、機械は元々木箱の中に入れられていたのかもな。もう少しで目的の物だ。掘り進めるぞ」
「ええ……ちょっと、本気で怖いんだけど……」
そう言いつつも、木箱の上に乗っていた大きな石をどける。と、その瞬間。
木箱がボゴ!という音と共に盛り上がった。その様子はまるで、地中に眠っていた吸血鬼が、封印から解放された時のようで……
「ぎゃあああああああぁぁぁぁーーーー!」
一番近くにいた俺は、絶叫。咄嗟に、例の「魔術攻撃無効」の魔法を行使する。
壊してやる……壊し……て……や……
地中から解放されようとした金属で出来た何かは、まるで電池がなくなったかの如く、その場に倒れ伏した。




