嘆き声の真相2
姉さんが助っ人として連れてきた女性は、一見研究者という雰囲気では無い女性だった。人を見た目で判断するのは良くないと思うが、少なくとも姉さんのように研究に没頭している感じには見えないのだ。むしろ、「大学生活は遊ぶ時間だ! ウエーイ!」って感じに見える(失礼極まりない)。こんな人が、姉さんと親しくしているのか……?にわかには信じがたい。
と、こんな事を考えている場合じゃない。姉さんが電話越しに敬語だったという事は、この人は姉さんの先輩なのだろう。ちゃんと挨拶しないと。
「は、初めまして。暁和也と申します。姉がお世話になっています」
「暁紗也です。今日はわざわざありがとうございます」
「いいのいいのーー! アタシがケンキューしてる機械を使う機会だしね! あ、今のはギャグとかじゃなくて偶然だよ~!」
紗也が俺の方へ目線を向けてくる。「なに、この人」って感じの目線。俺も全くもって同感である。
「なんだなんだ?! 今のアイコンタクトは? ヒミツのメッセージか? 以心伝心ってやつだね! わーお、青春してんじゃん! ケイも見習わないとー!」
「そりゃあ、気の合う人がいたら、恋愛とかしてみたいとは思いますけど……」
「あっらー! ケイったらロマンチスト! 運命が来るまで待っているのね! プロミスがリゾルブするまでアウェイトって、なんだかジェーエスみたいじゃん!」
後半、何を言っているのか分からなかった……!もしかして、これがギャル語と言うやつなのか……!
「先輩の例えって理解に苦しむ物ばかりですよね」
「ええーー?! 我ながら、良い事言ったと思ったのに! 弟君もそう思うよね!」
俺に振らないでください!全く理解できなかったんです!
「すみません。一言も分かりませんでした……」
「そ、そんな……!」
「あーー先輩。和也はプログラミングが出来ないので、Promiseがresolveするまでawaitって所の意味が全く理解できてないと思います」
「な……なんだと……。それって全部わかってないという事じゃないか!」
大げさに頭を抱える先輩。
「姉さん。解説プリーズ」
「ああ。先輩って話し方は馬鹿そう……じゃなくて気さくだが、普通に賢い部類に入るからな。さっきのセリフも恋愛をJavaScriptってプログラミング言語に例えていたんだ」
「「へーー」」
「バカそうとは何だ! バカそうとは!」
姉さんの頭をグリグリする先輩。
「痛い痛い! すみませんでした。でも、先輩を初めてみたら、ちょっとギャルっぽく見えますし……」
「? ああ、アタシのファッションがって事? そんなにちゃらちゃらして見えるかな?」
と紗也の方へ視線を向けてくる。視線を向けられた紗也は、一瞬びくっとし、おずおずと「髪の毛の色とか派手だなって……」と言った。
「この赤色か? かっこいいだろ? アタシのカレシとおそろいなんだぞ! ちょーイカしてるカレシなんだぞ!」
なんと。この先輩には恋人がいるようだ。そして、その彼氏さんもチャラチャラしてる感じの人と。
「そういうファッションは、その彼氏さんに勧められて始めたのですか?」
と聞いてみる。
「そうそう! ラボの共同研究の時に会ったんだけどね。スッゲー面白くてイカしてるんだ! それで、メロメロになった私は、アタックして、無事付き合う事になったってワケ! いいだろ~? これぞ運命!」
凄く嬉しそうに語る先輩。よっぽど彼氏さんのことが好きなのだろう。
「この赤い髪もさ。カレがタンパク質の実験やってる最中に思いついたそうなんだ! タンパク質の中には光る物があるのは知ってる? ほら、ぺかぺかーって光るクラゲとかテレビで見た事ない?」
「はい、あります。綺麗ですよね」
「そうそう。そのタンパク質を使って、蛍光タンパク質って呼ばれる物を合成できるの! 紫外線を当てる事で光る、特殊なタンパク質がね! それを使ってヘアカラーを作ったのが私のカレシ! 蛍光タンパクで染めてるから、私の髪の毛は暗闇でも光るんだぜ!」
「「は……い?」」
「その発想がイカしてると思うだろ? このブレスレットも、ペアルックなんだけど、凄いんだぜ! 内部にシアノバクテリアっていうアーキアを埋め込んでいるから、光合成するんだ! まさに生きたブレスレット。面白いだろ?」
熱弁する先輩には聞こえないように紗也が俺に話しかけてきた。
「ねえ、かず兄」
「なんだ、紗也よ」
「この人の彼氏さんって、イカしてるって言うよりも、イカ……」
「駄目だぞ、紗也。それ以上は言っちゃ駄目だ」
「……そうね。もしかしたら、30年後には普通のファッションになってるかもしれないし」
暗闇で光る髪が流行る未来……。気になるような、不安なような。
◆
さて。現場へと向かう道中、先輩に状況を説明した。
「なるほど。ユーレイかと思ったら、ただ機械が埋まっているだけと。私もその可能性に一票かな! それで、調べるために私を呼んだと。任せなさいー!」
そして、現場へと到着したら、先輩はなにやら大掛かりな装置を車から取り出した。
「これを運んでほしいから、手伝って!」
「「はい!」」
台車に載せた装置を運び出し、俺たち一行は件の水田前へと到着した。
「ここね? よし、早速やってみよう! みんなはこの場所から離れて。特に、電化製品は離しておかないと、壊れちゃうよー」
サササッと距離を取る俺達。そんな俺達の様子を確認した先輩は、機械のスイッチを入れた。
…
……
………
その後、30分ほどかけて、計測が完了した。ノイズの少ないデータを得るために、同じところを何度もスキャンしてその平均を算出しているとかなんとか。実際には平均ではないそうだが、よく分からなかったので割愛。
「可視化しちゃおうか! 私のノーパソで見るよ~!」
先輩に手招きされた俺たちは、その小さな画面をのぞき込む。
「金属の反応は確かにあったわ。今はその3Dモデルを算出してる。30秒ほどで計算は終了するからちょっと待ってね……。出たわ!」
「「「え?」」」
可視化された3Dモデルは、明らかにロボットという雰囲気ではなかった。これは……
「「「じ、人骨……?!」」」
むしろ、人の骨格に類似していた。




