嘆き声の真相1
姉さんが、「雑音を取り除く機械」とやらを使って、幽霊の出現時間に関して調べようとし始めた。紗也と俺は待つことしかできない。
「よし、解析開始とするか。二人は音を立てないようにしてくれ」
「「分かった」」
「チューニングして……お! うん? もうちょっと良く聞きたい……。あ、いい感じ。もうちょっともうちょっと……。これでよし! 今の値を記録してっと……! 二人とも、出来たぞ」
「何か分かったのか?」
「ほい、聞いてみて」
そう言って姉さんはイヤホンを俺と紗也に渡してきた。何か聞こえるのだろうか?イヤホンを装着すると……
コ … シ テ ヤ ル
「「ひい!」」
俺と紗也がその場で飛び上がる。人って驚くと本当に飛びあがるんだな。
「ねねね、姉さん?」
「けけけ、慧姉?」
「二人とも落ち着けい!」
そう言いつつ、姉さんが俺達の頭を軽くチョップする。そして、話を続ける。
「これは、今現在、目の前の水田から聞こえてくる音だけを抽出した物。夜にならないと聞こえない声なら、それこそ幽霊とかの可能性を考える必要があったが、今は昼間。昼間でも聞こえるって事は、おそらくこれは……」
「「これは……」」
ごくり、と喉を鳴らす俺達。
「これはだな……音声再生機能があるロボットか何かが埋まってるだけじゃないかな?」
「「へ?」」
「そう考えるのが自然じゃないか? まさか、この時間に幽霊がいると考えるのも変だしさ。それにな。その音声よく聞いてみな。『殺してやる』って言ってるか?」
「「そう言ってるけど……?」」
「いや、『殺してやる』と言ってると思うからそう聞こえるんだ。しっかり聞いて」
コ ワ シ テ ヤ ル
「「こ……わ?」」
「私もそう聞こえた。壊してやる。壊してやるって。一文字違いだから聞き間違えるのも頷けるが、冷静に聞けば二文字目は『ワ』だろ?」
「なんで『壊してやる』って言ってるんだ?」
「だからこそ、ロボットか何かじゃないかって私は思うんだ。例えば、この下に埋まっているのが、ロボット戦艦系アニメのフィギュアだとしたら……」
「なるほど!」
「本当は主人公の声で『壊してやる!』とか言うおもちゃ。それが、水田に沈んだことで、こんな事になったんじゃないかって事ね?」
「私はそう推測した。ただ、どうしても気になるのが、『なんで充電が切れないの?』って所なんだよな……」
「「た、確かに……」」
「可能なら、掘り起こして確認したいが……。他人の土地、しかも現役で米が植えられている水田を掘り起こすのは流石に不味いからなあ……」
「むう……確かに」
「前に見せてくれた地中レーダー的な物で探れないの?」
「前のは地下に空洞があるかどうかを調べる装置だったから、今回は使えないな」
「でもさ。ロボットなら金属で出来てるって事だよな? 金属探知機で調べられない?」
「金属探知機って言っても、そんなに解像度は良くないぞ? 一本の釘でも反応してしまうし……。いや、もしかして……。ちょっと電話してみる。……もしもし?私です。私。私ですけど」
誰かに電話をかけ始めた姉さん。なんだか、詐欺みたいな話し方だな。
「詐欺じゃないですって! えっと? 本当に慧子かどうか確認する為、問題を出す? 分かりました、出してください。……『WinMain関数の第四引数』は整数型でウィンドウの表示のされ方を規定する。……『淋菌の学名』はNeisseria gonorrhoeaeだな。……『ペルム紀に生きた我々の先祖』は哺乳類型爬虫類。やっと私だって認めてくれましたか」
お相手も詐欺かと疑ったようだ。本人かどうかの確認をし始めた。
確かに、オレオレ詐欺を防ぐには相手しか知らないであろう質問をするのが効果的とされているが、これは確認になるのか?
「ああ。聞きたいことがありまして。前に作っていた、高性能金属探知機の研究ってどうなっています? あ、いい感じなんですね! ちょっと地中に埋まってる金属製品について調べたいことがありまして、機械を使わせて頂けないかと思いまして。いいんですか?! ありがとうございます! いつが空いています? 今日の午後? はい、大丈夫です。場所は……」
暫く話し込んだ後、姉さんは電話を切って、俺達の方を向き
「最先端技術で地中を暴いてやろう!」
と言った。
◆
その日の夕方。姉さんが電話で会話していた相手と合流する事になった。事前情報は「女性」で「研究者」だけだ。一体どんな人物なのだろう?
「どんな人なんだろ?」
「きっと、慧姉みたいな感じじゃない?」
「まあ、そうか」
などと言っていると、女性を連れて姉さんが俺達の方へ来た。え?まさかあの人?いやいや、違うよな?
想像していた感じと全く違う感じの女性だったので、関係ない人かと思ったのだが……
「やあやあ! キミがケイの弟と従妹ちゃんだね!」
と俺たちに話しかけてきた。どうやらこの人が姉さんの会話相手で間違いないのだろう。その女性は、髪を真っ赤に染めていて、アクセサリーをじゃらじゃらと身に着けていた。
「ギャル」
真っ先にそんな言葉が頭をかすめた。
今まで出会ったことが無いタイプの人間の登場に、俺は少し身構えるのだった。




