昼間の心霊スポット
「姉さん、ただいまー-。まだ起きていたのか?」
「おかえりー。いやあ、ゲーム開発が楽しくってさ。和也が帰ってくるまでは作業しようかなって。クラス会はどうだった?」
「それが……」
俺は心霊スポットで、「殺してやる」という声を聴いたという事、そしてその周辺の精霊濃度が比較的高かったことを説明する。
「なるほどな。『幽霊なんている訳ない』が通用しない日が来るとはな」
「あはは。でも、精霊濃度として検出できるって点は、ある意味助かるけど。完全に正体不明って訳じゃないって事だろ?」
「確かにな。そういえば、紗也は大丈夫だったのか?」
「ああ……。クラスメイトといる時は『魔術攻撃無効』で身を守ることで、心の平穏を保っていたが、二人になった時に『怖かった』って弱音を吐いていた。今晩、姉さんと一緒に寝るかもって言っていたぞ」
「そうか。なら、紗也にメッセージ送っておくか。『まだ起きてるから、いつでも私の部屋に来ていいぞ』っと」
「じゃあ、俺は風呂入ったら寝るよ。紗也が来たら、フォローしてやってくれ」
「任された」
◆
次の日の朝は、いつもより就寝が遅かった分、起床時間も遅らせた。夏休み中も生活リズムを崩さないように気を付けている俺だが、前日の夜に用事があった日はどうにもならない。
親は仕事へ行ってしまったので、朝ごはんの用意は俺か姉さんの役目。姉さんが先に起きていたら作ってくれているだろうし、俺の方が早かったら、俺が作らねば。
「おはよー! 返事が無い。朝飯は俺が作るか」
そして、支度を始めた頃。がちゃりと姉さんの部屋の扉が開いた。
「「あ、和也(かず兄)。おはよー-」」
「おはよう、姉さん。それに紗也も。結局、姉さんと寝たんだ」
「うん……。お母さんたちは今日もお仕事だし、『トイレ、着いてきて』って起こすのは申し訳ないじゃん?」
「なるほど。紗也の分もすぐに用意するよ」
「ありがと。何か手伝う?」
「あー。飲み物だけ用意してくれる?」
「分かったわ」
◆
「それで、精霊濃度が高かったってのはどの辺りなんだ?」
姉さんが地図アプリを開いて聞いてくる。
「俺が調べたのは遊歩道を抜けたあたりだから……この辺り」
「うーむ。四ノ丘周辺は、前回計測してなかったから、分からないなあ。取り敢えず、まずは、四ノ丘周辺の精霊濃度を計測してみようか」
「「賛成」」
朝ごはんを食べ終わり、着替えるために一度解散した後、姉さんの車に乗って四つの丘へ向けて出発した。
◆
「それじゃあ、この間みたいに、別々に計測するか。では、2時間後にここに集まろう! 解散!」
姉さん作の例のアプリを起動し、俺達は解散。次の集合時間までその辺りを散歩しながら計測することになる。
姉さんが西へ向かって歩き出したので、俺は東へ向かおうとして……立ち止まった。紗也がおたおたしているのが見えたからだ。
「どうかしたか、紗也?」
「昨日の今日だし、一人で歩くの怖いなあって……。あはは」
「それじゃあ、一緒に行動しようか」
「……そうする。ご迷惑おかけします」
「迷惑なんかじゃないさ」
こうして、二人でこの周囲を練り歩くことになった。
「4.1E+3」
「分かったわ。記録するわね」
「2.9E+2」
「オッケー」
二人で行動も悪くない。このように計測担当と記録担当に分かれて行動できるのでストレスフリーに計測して周る事が出来る。
集合時間までの間ただひたすら計測して周ったが、今の所、普通な感じの値しか得られていない。早く姉さんの方の結果と照らし合わせて、解析したいな。
◆
「それじゃあ、データを抽出するわね。二人とも、スマホを出してくれる?」
「あ、私とかず兄は一緒に行動したから」
「そうなの? うーん? この辺りってデートスポットあったっけ?」
「そんなんじゃない! 昨日の今日で、ちょっと一人で行動が怖かったから……」
「あら、そうなの。残念。ま、冗談はさておき、早速可視化してみるか……。えい!」
「「おお!」」
前回同様、龍脈らしき線が現れた。やはり、こういうのを見るとワクワクするなあ!
「それで、トンネルの場所は……ここね。全く龍脈からはずれているわ」
「つまり、あの辺りは局所的に精霊濃度が高くなっていると?」
「そう言う事になるわね。トンネルの辺りをもう一度細かく計測しましょ。もしかしたら、見落としがあるかもしれないし」
それで、トンネル付近に限定して細かく精霊濃度を計測して周った結果、「前回計測した地点から50メートルほど離れた水田が精霊濃度のピーク(5.6E+7.5)で、その周囲も精霊濃度が高いといった具合だった。
「つまり、声はここから聞こえてきたのかしら?」
紗也が俺の腕にしがみついてくる。正直、俺も恐怖心を覚えているので、紗也のぬくもりが心地よい。
「次に調べるのは、『何時から声が聞こえるのか』かな。早速計測を開始しよう」
姉さんはそう言うと、リュックサックから色々な機材を取り出し始めた。まさに研究者って感じ。
「その機材は?」
「雑音の中から欲しい音声だけを取り出すって研究をしたときに使った機材だ。すぐに支度が整うから、暫く待っていてくれ」
そういえば、高校生の頃に、姉さんがそんな研究していたっけ?懐かしい。姉さんが機材とノートパソコンをケーブルで繋ぎ、計測機器のLEDが赤く光った。
測定の開始だ。幽霊も、まさかこんな風に計測されるとは思ってもいないだろう。




