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四ノ丘の嘆き声

 四つの丘にあるトンネルを目指して歩く。トンネルを抜けて少し歩いた場所が今回目指す場所である。


 俺たちの住む地域は、徐々に都市化しているとは言え、田舎に分類される。人が少ない分、治安も良いので、高校生の俺達が真夜中に歩いていても、さほど危険はない。それこそ、幽霊にでも出くわさない限りは。


 20分ほど歩き、トンネルに到着。夏の夜の程よい涼しさを肌に感じながらの散歩は想像以上に楽しかった。


 さて、トンネルの上を通過する遊歩道を使って、トンネルの反対側へと向かう。この遊歩道の両脇には小さなアスレチックが建っており、小学生の頃は毎週末、遊びに来ていた記憶がある。体が軽かった当時は、ボルダリングもひょいひょいと登れたが、今の俺は無理だろうな……。


「懐かしいわね、この公園」


「だな。あ、あそこの登り棒覚えてる? 2メートルくらい登った場所から紗也が落下して……」


「それで、かず兄に着地したのよね……。その節はすみませんでした」


「大きなけがにならなくてよかったよな~」



 とその時だった。近くの茂みがガサガサガサ!と音を立てた。


「「「ひぃ!」」」


 一瞬、驚きで身体が硬直する。隣を歩く紗也がずいっと俺の方へ寄る。いくら『大丈夫。いざとなれば魔法があるし』と思っていても、突然の音というのは、人間の恐怖心を掻き立てる。


 当然、その音にビックリしたのは俺達だけではない。暗闇で良く見えないが、前夫でぶるぶる震えている男女は早瀬と小鳥遊だと思う。斜め前では、杉原を友人らが囲んでいる。

 この肝試しの言い出しっぺでもある一ノ瀬はというと、腰を抜かして地面に座り込んでいた。スマホに録音してた音声が露見しなかったとしても、彼の計画は失敗していたのではなかろうか?


「な、なに今の音……?」

「ど、どうせ野良猫とかじゃない?」

「野良兎かもよ?」

「いや、大久野島じゃあるまいし」

「びっくりしたあ……」

「最近はイノシシの出没事件も無いし、心配はないと思うけど……怖いな」


 結局、音の正体は分からなかったが、おかげでスリルを味わう事が出来た。目的地まであと100メートルも無い。



「ピーポー、ピーポー、ピーポー」

 どこかからサイレンの音が聞こえてくる。夜ってすごい音が響くよな……。


 俺たちは歩みを進める。


「パーポー、パーポー、パーポー」

 あ、音が変わった。



「これぞ、ドッペルゲンガーだな」

 一ノ瀬が独り言にしては大きな声で言う。


「それを言うなら、ドップラー効果だろ?!」

 すかさずツッコミを入れる。


「あ、あれー? そうだっけー-?」


 頭を掻く一ノ瀬。こいつは、何がしたかったんだ?

 とその様子を見ていた、瑞乃さん(杉原の友達で、同じく女子バスケ部に所属している)が一ノ瀬に淡々と

「ただでさえ心霊現象に脳内リソースを割いている時に、無理に博識アピールするのは逆効果だと思うわ。というか、ドップラー効果って博識アピールと言えるか微妙だし」

 と告げる。

 一ノ瀬にそんな意図があったのか。


「あ、あははー-。ほら、怖い空気を和らげようと思っただけさ!」


 偶然か必然か、一ノ瀬の言い訳にツッコミを入れる者はいなかった。呆れているのか、はたまた会話が面倒になったか。

 こういう瞬間って、教室でもあるよな。何かを話し終わった瞬間、偶然、場に静寂が訪れて「あれ、まずいこと言っちゃった?」みたいになる瞬間。



「コ…………シ…………ヤ…………」


 そして、その静寂は、(かす)かな音を俺達の耳に届ける役割を果たした。虫の音に混じって、明らかに異質な音が混ざっていた。


「え? 今の声、だれ? 一ノ瀬君のスマホ?」

「一ノ瀬ー-!! さっき『反省した』って言っていたのは嘘なのかしら?」


 当然、疑いの矛先は一ノ瀬である。


「俺じゃねーよ! 誰だよ?!」


 一ノ瀬は自分の無罪を主張し、真犯人を捜そうとする。しかし、「ごめん、俺です」と言う人物はおらず、再び場を静寂が支配する。



「コ…………シ……テ………………」



「………………テ……ヤ……ル……」



「コ………………テ……ヤ……ル……」



「コ…………シ……テ……ヤ……ル……」




「「「ホントに出たーー-!!!」」」



 皆が息を潜めて初めて聞き取れる程度の小さな音声。されど、その声は、俺達が恐怖するには十分過ぎる音量だった。


 反射的に「魔術攻撃無効」の魔法を発動。紗也も印を結ぶ動作をしている。「魔術攻撃無効」を発動する際、そうする方がイメージしやすいとアニメ『人魚冒険者』に登場する方法で魔法を発動するようだ。


 俺たち以外にも、幽霊に対抗しようとする勇気ある人はいた。萩原は声のする方へ懐中電灯を向け、何かいるのか確かめようとしている。杉原はファイティングポーズを取って、友達を守ろうとしている。


 しかし、幽霊の出現に恐れおののく人物が大半だった。男子は男子、女子は女子でグッと身を寄せ合っている。あ、よく見ると、一ノ瀬だけは腰を抜かして座り込んで……いや、気絶したのか仰向けになっている。



「かず兄……。どうしよう……?」


 魔術攻撃無効を張ってはいるものの、不安はぬぐい切れないのだろう。紗也の声にも緊張や恐怖の感情が乗っている。


「分からない。ただ、幽霊ではない可能性も残っているし、仮に声の主が幽霊だったとしても、現時点まで犠牲者が出ていない以上、俺達を呪う力は無いと思う。もちろん、長居して得があるかと問われたら断じて否だが……」


「少なくとも、現状で出来る事は、この場を去る事くらい……ってことよね」


「待てよ。最後にしておきたいことがある。……。オッケー。『冷却』」




 こうして俺達は、「噂は本当だった」と知った。俺たち一行は、明るい場所まで這う這うの体で逃げ帰ったのだった。



「かず兄……。やっぱり怖い……。今日は慧姉と一緒に寝るかも」


「ああ」


「? かず兄、どうかした? 心ここにあらずって感じだけど……?」


「あ、悪い、紗也。ちょっと考え事を」


「もしかして、かず兄も慧姉と一緒に寝ようか悩んでいた?」


「いや、流石に俺は一人で寝れる……と思う。それより、これを見てくれ」


WAGDヴァージッド? あ! 精霊濃度計! そんなものを持ってきていたの?」


「ああ。さっき、幽霊(仮)がいた所で精霊濃度を計測した結果がこれなんだ」


「7.9E+6……。これって……」


「俺たちの家や祖父ちゃんの家に比べたら遥かに低い値だけど、龍脈上の平均値よりは確かに大きな値」


「!! それって……」


「ああ。あの場所には何かあるのかもしれない。取り敢えず今日は早く帰ろう。それで明日以降、姉さんに相談して、今後の方針は決めよう」



 軽い気持ちで参加した肝試し。それが、こんな事になるとは……。まったく。何事も一筋縄ではいかないな。



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