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クラス会

 乾杯も済み、いよいよ食事が始まった。

 俺と紗也は、前に座る早瀬と小鳥遊の様子を微笑ましく見ていた。二人は両思いのようだが、距離感を掴みかねているようだ。


「あ、あの! 今日はよろしくね……」

「わ、私こそ! な、仲良くしようね!」


 と二人してガチガチに緊張している。二人を隣に座らせたのは時期尚早だっただろうか?でも、程よく緊張するくらいがちょうどいいのかもしれないし……。


「二人とも、取り敢えず、食事を始めましょ! かず兄、何から焼く?」


「取り敢えず、時間のかかる野菜からかな? あ、二人にもトング渡しておくから、二人が食べたい物をそっち側で焼いて。ほい、トングと、菜箸っと。トングは生焼けの肉を掴む用で。菜箸は焼けてきた肉をひっくり返す用。焼きあがった肉は割りばしで掴むように」


「食中毒は危険だからね!!」


「「は、はい!」」


 二人は「何から焼こう?」「向こうみたいに野菜を焼き始めようか」などと緊張しつつも会話を始めた。いいね、いいね。そうやって、仲を深めていけばいいだろう。


「あ、紗也。タレはいつものこれと、塩だけを用意しておけばいいよな?」


「ええ、ありがと。ご飯は……」


「茶碗六分目でいい?」


「ええ、お願い!」


「二人もご飯、食べる? 一緒に取りに行こうか?」


「あ、はい。ご飯も欲しいです」

「じゃあ、僕が行くよ。小鳥遊さん、どのくらいがいいかな?」

「えっと……それじゃあ、紗也ちゃんと同じくらいで」

「分かった」



「暁君と暁さんって本当に仲いいよね」


 ご飯をよそいに行った時、早瀬が話しかけてきた。


「そうかな? でもどうして?」


「以心伝心って感じで、凄いなあって。夫婦みたいだなって」


「まあ、15年以上一緒にいるからなあ。25歳で結婚した夫婦が15年経てばもう40歳。熟年夫婦と言っても問題ない年齢だな。しかも、子供の頃の時間って大人が経験する時間よりも長いって聞くし」


「付き合ってはいないんだよね?」


「違うな。考え無しに付き合ったりしたら、逆に距離が出来そうじゃん?」


「なるほど……」


「そういうお前の方はどうするつもりなんだよ?」


「まだ決めかねているって言うか……。どうしたらいいと思う?」


「俺に聞かれても……。ちなみに、付き合ってからデートしたい派? 付き合う前にデートして関係を深めて、それから告白したい派?」


 前者は小学生~高校生の付き合い方で、後者は高校生~大人の付き合い方って感じだろうか?まあ、人伝(ひとづて)に聞いたイメージに過ぎないけど。


「ええ? そんなの考えた事ないよ……」


「じゃあ、まずはそこからだな。理想の告白シチュって言うと大げさだけど、こうしたいなって言う具体的なイメージを持ってさ。それを目指して行動する。って感じじゃない? って俺も告白なんてしたこともされた事も無いから分からないけど」


「が、頑張ってみるね……」


「おう。応援してる。心配しなくても、大丈夫。お前なら、小鳥遊さんを幸せにできるよ」



 その後は楽しく食事を楽しんだ。未だお互いに恥ずかしがっている早瀬と小鳥遊が会話できるよう、紗也と協力して場を盛り上げるのに苦戦したり。オニオンと焼肉を白ごはんの上に乗せて焼肉丼にアレンジして頂いたり。とても楽しく、美味しい時間を過ごした。


 さて、用意されていた食材が尽き始めた頃、一之瀬が中心に立って声を上げた。


「宴もたけなわですが、そろそろ移動する時間だ。まずは移動前に、噂の内容を再確認したいと思う。この噂の出どころは一個上の先輩方だ。運動部、確かバスケ部だったと思う、の二年生が地区大会優勝の打ち上げの帰りに、四ノ丘付近を歩いていた時。どこからともなく不気味な声が聞こえてきた。『コロス……コロシテヤル……』とその声は言っている。不気味に思った先輩方はその場を走り去ったとのこと。以後、その場所には霊が彷徨っていると言われている」


 一ノ瀬は、声を落としながら、怪談話をする。なかなか様になってるな。


「この霊の出どころについては、幾つかの説があるが、有名なのは『この付近で起こった戦争の戦死者の霊』という説だ。その戦争とは……」


 ここからは、以前萩原から聞いた内容だった。


「怖い……。大丈夫だよね……?呪われたりしないよね……?」


 震える小鳥遊さん。その様子を見た早瀬は「大丈夫、僕が守るから!」と言う。いいね!全身をブルブルと震わせずに、堂々としていればなお良かったと思うが、彼にしてはよくやったほうだと思う。


 さて、皆が緊張で固唾を呑む中、一ノ瀬は堂々と宣言する。


「まあ、心配するな! 幽霊が現れたときに備えて、ちょっと訳アリの塩を用意してある。俺の側にいたら、絶対安心だ!」


 そんなセリフに、男子の誰かが苦笑しながら

「そんなこと言って、一ノ瀬が一番ビビったりして!」

 と茶化した。


「俺、こういうの全然怖くないから。なんだなんだ? 君たちはそういうの苦手なのかな? 情けないなあ!」

 と一ノ瀬は対抗する。


 へえ。下心の有無はともかく、一ノ瀬って怖いの平気なタイプなんだ……。あれ? でも、かなり前に「ホラーは苦手」って言っていたような気もする。どういうことだ?疑問に思った俺は、一ノ瀬に問いかける。


「なあ、一ノ瀬? 五月頃にホラーの話した時、めちゃくちゃビビってなかった? 下手に強がって、後からビビったら余計カッコ悪いと思うぞ?」


「そ、そんなことあったっけ? 俺、ホラーとか全く怖くねーし?」


「ほんとか~。さては、自作自演しようとしてるな? スマホ見せてみろ!」


 そう。俺がこんなことを言ったのは、ちょっとした冗談だった。きっと「はあ? そんな訳ないだろ?」と答えてくれると思っていた。なのに……


「な、何のことかな? スマホに音声なんて保存してないぞ!」と一ノ瀬は言った。


「一ノ瀬~? それはどういう事かしら?」

 と近くにいた杉原が問い詰める。


「はあ? なんだよ! 俺は悪くない! 悪いのは暁だ!」


「暁君は悪くないでしょうに。さあ、スマホを出しなさい!」


「いや、プライバシーという物があって……」


「そりゃ!」


「あ、俺のスマホ!」


「1、1、1、1っと」


「どうして俺の暗証番号を!」


「こんな単純な暗証番号、チラッと見たら暗記できるわよ。さあ、調べさせてもらおうかしら……」


 杉原はさささっとスマホを操作する。しかめ面をした後、彼女はおもむろにスマホをタップ。


『コロス……コロシテヤル……』


 スマホから音声が再生された。一ノ瀬の声、そのままの音声。正直、全く怖くない。


「「「一ノ瀬ーー!」」」


「すみませんでしたーー!!」



 椅子の上で正座する一ノ瀬を杉原が問い詰める。


「これを現地で流そうとしていたのね」


「はい、そうです」


「みんなを、というか女の子をびっくりさせようと企んでいたのね」


「はい。びっくりして、自分に抱き着いてくれたりしないかと思っておりました」


「サイテーね」


「返す言葉もございません」


「はあ……。開いた口が塞がらないとはまさにこの事だわ。しかも、この音声。加工の一つも加えていないって所がまた、情けなさを強調してるよね……。絶対に音声を再生しない事。いいわね? 他の男子もいい? 万が一、変なことをしようものなら、私が直々に鉄拳制裁を喰わらせるから」


「「「ひえぇぇぇぇ」」」



 そんなトラブルがあったものの、最終的には、無事会計を済ませて店を出る事が出来た。

 なお、支払いは一人当たり3510円と微妙な値段だったのだが、端数の10円×人数分は(罰の一環として)一ノ瀬が支払う事になり、会計がスムーズになった。そう言う意味で、自作自演を企んだ一ノ瀬に感謝である。






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