合コン?No!クラス会!
「皆様、飲み物は行き届いた? 大丈夫そうだな。それじゃあ、カンパーイ!」
「「「カンパーイ!!」」」
クラスのみんなとの食事。どちらかというと陰キャに属する俺にとって、こういうノリはあまり慣れていないが、楽しい事に違いはない。
乾杯にたどり着くまでに一悶着あったものの、無事スケジュール通りに食事を開始できてよかった。
◆
時間は少し遡る。俺たち一行は、店に入り団体用の部屋に通された。
女子は女子、男子は男子で固まって座ろうとするも、そこで一ノ瀬が異を唱えた。
「ちょっと待ってくれ。一つのテーブルには男女二人ずつで座ろう。こっち側の列に男子、向こう側に女子って感じで!」
※こんな感じ。1つのテーブルに4人が座る形式だ。
男男 男男 ……
□□ □□ ……
女女 女女 ……
「「「いや、合コンかよ!」」」
男女が向かい合うように座ろうと提案する一ノ瀬。合コンならともかく、これはあくまでクラス会。その座り方はおかしいと思う。
「なんだよ。みんなは反対なのか? せっかくの高校時代だぞ? 青春を楽しまないと! 気になる人と会話を楽しんだりするのもいいだろ?」
「反対って言うか……」
「そう言うのは違うって言うか……」
明確に「嫌」と言う人はいないか? このまま合コンが始まってしまうか?そう思われたものの、反対する声も上がった。
「確かに、男子は男子、女子は女子で固まるよりも、男女混合の席にするのはアリだと思うわ。だからと言って、合コンのように無理に男女混合にするのは良くないと私は思う。合コンは『出会いを求める』場で、互いの事を詳しく知らない人同士が仲良くなるきっかけ。そういう場では、無理にでも男女混合にするのが効率的だと思うわ。だけど、クラス会は既に互いの事を良く知った人同士が楽しく喋る場。合コンと同じ形式は合わないんじゃないかしら?」
杉原の意見は、女子の共感を得たようだ。多くが頷いている。
「むむ。それじゃあ、出来るだけ男女混合にしよう。けど無理強いはしない。そう言う事だな」
「私はその方が良いと思う」
こうして、男女混合(ただし無理強いはしない)で席に着く事になった。
クラス内での恋愛には興味がない人は、男子同士、女子同士でグループを作り始める。
それはまあいいとして、『あの子とお近づきになりたい』という思惑がある人にとっては、緊張の時間である。直接的に「一緒の席になって欲しい」と言える勇気や地震があるなら何も問題ないのだろうが、そうでない人の方が多数派である。思惑と思惑がどろどろと絡み合う。
俺の隣に立っている早瀬和泉もまた、気になる女子と同席したいようだ。早瀬はおとなしい男の娘……ではなく男の子。小鳥遊若愛と共に、このクラスのマスコット的存在と言われている。
そんな早瀬が俺にこっそりと話しかけてきた。
「あの……ちょっといい?」
「どうした?」
「僕……、その……。誰にも言わないでほしいんだけど、小鳥遊さんのことが気になってて……」
「ほう! いいじゃん、お似合いだと思うよ」
「でも、僕から声をかけて、嫌がられるのは怖いんだ……。手伝ってくれない?」
「いいけど、なんで俺?」
「ほら、小鳥遊さんの方を見て」
「あーー。なるほど。」
小鳥遊は紗也の親友の一人である。今も小鳥遊は紗也とこそこそしゃべっている。その時、ちらっと紗也の視線が俺の方を向き、なにやらアイコンタクトをしてくる。
なるほど、そういう事か。
「よし、俺に任せろ。さあ、行くぞ」
「ありがと! ってわわわ! 引っ張らないで!」
ビクビクしている早瀬。大丈夫だって。きっと上手くいくから!
俺は早瀬と共に、紗也たちの元へと向かう。
「紗也。早瀬と俺、小鳥遊で組まない?」
「ええ、良いわよ。ほら、若愛ちゃん」
「う、うん。早瀬君、暁君、よろしくね」
小鳥遊と早瀬を同じグループにする事に成功した。すうっと紗也の隣に移動し、こっそり尋ねる。
「二人は両片想いって事で良き?」
「ええ。アイコンタクトで伝わって良かったわ」
「こういう時って、向かい合って座って貰うべきなのかな? それとも隣に座って貰うべきなのかな?」
「うーん。今回は焼き肉だし、隣の方が良いかも。『あ、これ焼きあがったよ』『ありがと』みたいな会話を楽しめるだろうし」
「なるほど。ナイスアイデア」
「どうかしたの、二人とも?」
「いや、なんでもない」
「うんん、気にしないで。それよりも、メンバーが決まったし、席に着きましょ」
こうして、俺達四人は席に着いたのだった。
◆Side萩原
「四人グループが出来たら座っていってーー」
俺は現在、混沌とした場を納めている。最初はただのクラス会の予定だった。なのに、一ノ瀬が合コンみたいに座ろうと言い出した。それに反対した杉原は「好きにグループを組む方が良いのでは」と意見した。
その結果がこれだ。席が全然決まらない。人気の女子を狙う男子は互いを牽制するし、女子も女子で、はっきりと「この男子と組みたい」とは言わず、流れに身を任せている。
もちろん、そのような争奪戦に参加せず、男子四人or女子四人のグループもある。そう言ったグループは先に座ってもらおうと思ったのだ。
「はあ。一応、この集まりの幹事をすべきは一ノ瀬じゃないか?」
ため息を吐くも、一ノ瀬は「やっぱりねらい目は佐々木さんかな。小鳥遊さんもいいよな」とか言っており、戦力にはならなさそうである。
「萩原、お疲れ様。そこの席、俺達が座っていい?」
見ると、暁兄妹+マスコット二人の四人グループが出来ていた。どういった流れでこの四人が固まる事になったのだろう? それはともかく。
「おう。大丈夫だぜ。席が決まったなら、暁も手伝ってくれないか? 収拾がつかなくて」
「分かった」
助かった。何が良かったって、小鳥遊のグループが決まった事だろう。一ノ瀬が言っていたように、小鳥遊は男子から人気がある。そんな彼女と同席になろうと企み、席を決めていなかった男子が諦め始めた。早く諦めて席についてくれ。
あ、早瀬狙いの女子も諦め始めて、席に着き始めた。助かる。
「そういえば、どうしてあの四人で座る事に?」
「ああ。広めないでくれよ。実は、早瀬と小鳥遊って両片思いのようで。俺達が二人を引き合わせたんだ。両片思いなんだったら、早く付き合えば良いのにって思うよ」
なるほど、そんな事情があったのか。納得だ。
そっか、早瀬と小鳥遊が……。二人は雰囲気も似ているし、お似合いだと思う。この機会に仲良くなって、関係が進むことを願っておこう。
あと、「両片思いなんだったら、早く付き合えば良いのにって思うよ」って言葉。お前が言うなよって言ってやりたい。
その後、5分ほどで全員が席に着いた。ちなみに、一ノ瀬は俺と共に男子四人グループに割り振られた。どんまい、一ノ瀬。
「一ノ瀬、乾杯の音頭を」
「どうして……どうして俺の下には女子が一人も来ない……」
「こりゃ駄目だな。代わりに俺が音頭を取るか」
溜息を吐きつつ、少し大きめの声を上げる。
「皆様、飲み物は行き届いた? 大丈夫そうだな。それじゃあ、カンパーイ!」




