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夏と言えば肝試し

 精霊濃度が高い場所について調べ、他と比べて精霊濃度が高いエリアが存在する事が分かったものの、それより多くの情報は得られなかった。また、精霊濃度が著しく高い祖父ちゃんの家の地下を調べるため、発掘作業をしてみたいと思ったものの、その危険性から断念した。

 実を言うと、断念しきれなかった紗也と俺は、姉さんに頼んで地中レーダー的な物を使って軽く調べて貰った。しかし、少なくとも浅い部分には何もないことが分かっただけだった。


 その後は、特に魔法に関して進歩は無かった。

 紗也の買い物に荷物持ちとして駆り出されたり、姉さんのゲームのデバック(テストプレイとも言う)をしたりと、何気ない日常が続いたのだった。


 そんなある日、俺のスマートフォンに電話がかかってきた。相手は……萩原のようだ。


「もしもし?」


「おう、暁! 突然悪い。今平気か?」


「おう、大丈夫。どうかしたか?」


「それがさ。一ノ瀬が『肝試しをしたい』って言い出してさ」


「なんでまた急に」


「一ノ瀬曰く『夏の定番だろ! 肝試し!』とのことだ」


「へえ……。一ノ瀬が言うと、裏があるような気がするのは何故だろう」


 一ノ瀬は「女子にモテたい」気持ちが先走って、女子から呆れと憐みの視線を向けられているような奴だ。何か裏があるのではないかと疑ってしまう。


「たぶん裏はあるな。『怖がる女子に『俺の手を握っときな』って言う、これで好感度アップだぜ!』とか言ってたからな」


「うわあ……。確かに言う人によってはアリかもだけど、普通の男子がそれを言ったら引かれるぞ、絶対」


 いわゆる『ただしイケメンに限る』ってやつだな。


「俺もそう思う。まあ、それはともかく、だ。最近、生徒の間で話題になってる『四ノ丘の嘆き声』ってあるんだが、知ってるか?」


「夏休み入ってからはあんまり友達と関わって無いから知らないや。なにそれ?」


「夏休みの間も活動してる運動部の人たちが言い始めた噂話だ。その内容は……」


~~

~~~


 戦国時代。それは、島国の日本では珍しい群雄割拠(ぐんゆうかっきょ)の時代だ。各地で自分が覇者になろうと企む将軍が争った恐ろしい時代である。


 当時、近隣を治めていた『畠沢』らは、隣接する場所を納めていた『大羽』らを警戒していた。忍びの者から大羽らが戦の準備をしているとの情報が入ったからだ。


「大羽らの狙いは儂らか、それとも津賀田らか。いずれにせよ、何か対策をせねば、儂らの命が危ういの」


 畠沢らは、極秘で対策会議を行う事にした。敵の侵入にいち早く気付き、先制攻撃するにはどうすればよいか。

 頭を捻らせた結果、四ノ丘を利用する事が決定した。ここ、四ノ丘は起伏が激しく、潜伏するにはちょうどいい場所だったのだ。


 畠沢らはここに伏兵を潜ませることにした。彼らは一見農夫に見える格好で、四ノ丘で生活を始める。


 3年ほど経ったある日。伏兵の一人が大羽らの領地から軍が迫ってくるのを確認した。直ぐに伏兵らは戦の準備を始めた。同時に、畠沢の本軍にも連絡が入った。


 まず、畠沢らは、本軍を敢えて堂々と動かした。まもなく、大羽らの軍と衝突。互いに戦闘の意志が確認され、戦争が始まった次の瞬間。


「さあ、行くぞ! 大羽らの食料を全て焼き尽くせ!!」


 畠沢の伏兵が、大羽らの食料部隊に攻撃を仕掛けた。「兵を倒す」のではなく「食料を燃やす」ことに特化した炎による攻撃。大羽らの対応が遅れたのは言うまでもない。

 この戦、畠沢の情報収集能力が一枚上手だったという事だ。



 その後、大羽の兵士の大半は戦死ではなく餓死という形でこの世を去った。そんな中、大羽軍の一部の兵士が寝返るという形で戦は終わった。


 この後、畠沢らは別の戦に向けて進軍を始めたので、四ノ丘付近で亡くなった大羽の兵士らは弔われることなく土に還った。

 その兵士らの恨みは長い年月を経て、集まって一つの『怨念』となった。『怨念』は夜な夜な嘆き声を上げているという……。


~~~

~~


「って感じだ。四ノ丘のトンネル分かる? あそこを抜けた先にある広場あるじゃん? 夜にあの辺りへ行くと、嘆き声が聞こえるんだってさ」


「嘆き声はともかく、いくさの下りは完全にでっち上げだろうな……。 俺、この辺りの歴史にはかなり詳しいが、四ノ丘付近で大きな戦争があったという記録は見たことが無いぞ?」


「暁がそう言うんなら、出鱈目なんだろうな。まあ、誰かがでっち上げたストーリーにしては、良い方じゃないか?」


「正直、もうちょっと怖いストーリーでもいいと思うけど……」


「確かに、ありきたり過ぎて、ちょっとつまらないよな。まあ、それはいいとして、肝試し、暁も参加しないか? せっかくの機会だし、クラスのみんなで集まるのも面白いと思うし」


「おう、集まるのは楽しいと思う! 是非参加したいな。女子も集まるのか? だったら紗也も誘おうと思うけど」


「女子にも声をかけてる最中だ。『一ノ瀬主催なのは気に食わないけど、集まるのには賛成』って雰囲気だぞ」


「分かったーー。また、詳細決まったら教えてくれーー」


「おう。それじゃあ、グループトークに招待するな」


「サンキュー!」



 こうして、夏休みに新たな予定が出来たのだった。







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