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俺の先祖は魔法使いだったらしい  作者: 青羽 真
俺の先祖は魔法使いだったらしい
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書物の内容は?

 俺と姉さんが蔵の片づけをしている最中に見つけた本は、いわゆる漢文で書かれていた。姉さんと紗也は本の中にひしめき合う漢字をみてゾッとしている。姉さんは確かに天才だがバリバリ理系であり、漢文に造詣がある訳ではない。紗也はというと、一応文系ではあるが、特別漢文が得意というわけではない。むしろ嫌っている。

 一方、俺は古文漢文が嫌いでは無かった。むしろ、先祖が書いた書物は読む価値あるものと思っている。だから、漢文に関する知識もそこそこ有している。


「俺、読んでみるよ。二人は……」


「私は無理だ。漢字を見ただけで寒気が走る。和也の好きにしてくれ」

「私も漢文は嫌いー! かず兄の好きにしてちょーだい」


 という事で、解読は俺に一任された。



訓点(くんてん)が振られていないのはやっぱりきついなあ。これって『AをしてBせ使()む』の構文でいいのか?」


 俺は暇さえあれば、自室に籠って解読に勤しんでいた。いくら古文漢文が得意と言っても、実際に古文書をスラスラ読めるという訳ではない。虫食いがある箇所は推察して空欄を埋める必要があるし、無数に登場する見たことが無いような漢字については調べる必要もある。

 自分で言うのもなんだが、これらの作業を苦とせず続けられるのは俺の長所と言えるだろう。慧子(天才発明家)の弟なだけあって、集中力は凄まじいのだ。


「こ、ここまでが前書きかよ……。で、本編はここからだってか? ひえぇ……」

 必死で読み進める。月曜日までに終わるだろうか?



※漢文とは?

 漢文とはかつての日本で使われていた文章の表記法である。例えば、「近くに人が居ないよう(にわがままに振舞う)」を古語では「(かたわ)らに人無きが(ごと)し」と言うのだが、これを「傍若無人」と表記する。逆に、「傍若無人」を現代誤訳しようと思うと、以下のようなプロセスが必要である。

1) 「傍若無人」

(並び替え+送り仮名を振る)

2) 「(かたわ)らに人無きが(ごと)し」

(現代語訳)

3) 「近くに人が居ないよう(に遠慮がない)」

 このようにいくつものステップを踏まないといけないので、ただの古文よりハードルが上がる。

 ここで、1→2のステップがあまりにも難しいため、大学入試などで扱われる物にはヒントが記されていることが多い。このヒントの事を訓点という。訓点はあくまでヒントなので、古文書にはそんなもの書かれていない(場合がほとんどだ)。だから、俺は解読に苦労しているのだ。

 付け加えると、この表記法はあくまで日本で生まれた物なので、中国語の文法とは異なったものである。よって、通訳ソフトを使った翻訳も出来ない。



「くうーー! やっと終わった!」


 日曜日の夜中。俺は自室のパソコンの前で伸びをしながら、達成感に浸っていた。ご飯とトイレとお風呂以外の時間を全て現代語訳に費やした甲斐あって、なんとか月曜日が始まる前に古文書の訳を終わらせたのだ。

 これだけ早く訳が終わったのは、図解や絵が併せて乗せられていたからだ。それが解読の難易度をグッと引き下げてくれた。ご先祖様に感謝である。


 ワープロに書き起こした訳を印刷した俺は速足で姉さんの部屋へ向かう。早く自分の業績を自慢したいのだ。


「お! 現代語訳が終わったのか、和也?」


「ああ! なかなか面白い内容だったぞ。はい、これが現代語訳」


「ほう。それじゃあ、読ませてもらおうかな。どれどれ……」



 この古文書『祈神術』の序盤では作者の生い立ちが述べられる。陰陽師の家系に生まれた彼は、その技術を使って様々な術を身に着けた。土を操作して墾田する術。風を纏って鎧とする術。水を高速で打ち出す術。修行の末、彼は村人からも豪族からも一目置かれる存在となった。


 日記の中盤では、作者が師範となり、弟子を鍛え育てる様子が描かれる。教え方が上手く、次々と一人前の弟子を生み出した。


 ここまでは、作者のサクセスストーリーである。しかし、終盤で流れがガラッと変わる。


 作者の老いと共に、やる気の無い門下生が増えていったのだ。やる気は直接術の威力につながる。やる気が無い弟子は、術を使う事が出来ず、結局道場を去っていく。彼の開いた道場はどんどん小さくなる。そればかりか、陰陽術を使う者を嫌う者まで出始める始末。


 最終的に、『門下生のやる気の低下、そして陰陽術が嫌悪されるようになったことは、どちらも化け物のせいである』と作者は結論付けた。『人から術を奪い、その上で人の世を滅ぼそうとしているのだ』と考えたようだ。来たる化け物の侵攻時に陰陽術を使える人が一人もいなくなっていた、という最悪の事態が起こる事を防ぐため、作者は陰陽術を後世に残そうと考えた。


 そして、出来たのがこの『祈神術』である。だから、本の後半は日記ではなく、陰陽術の使い方が詳しく乗っていた。「祈神術」を現代語訳すると「神に祈る(すべ)」である。そして、その名の通りこの本は「神に祈る事で奇跡を起こす方法」が記載された書物――言わば魔導書だったのだ。



「なかなかに面白い内容だったな。こんな感じのラノベがあってもおかしくないな」

 と評する姉さん。


「だろ? 日記の形式をとったローファンタジーって所だな。しかも、これが我が家の蔵から出てきたのは嬉しいな。『俺たちの先祖は陰陽師だったかもしれない』って思ったよ。中二病魂を掻き立てる内容だったぜ!」

 と俺はノリノリで語る。周囲に、自分が中二病を患っていることを隠している俺だが、自分の姉(と紗也)には隠していないのだ。


「で、この『陰陽術』の内容がこれか。意外とシンプルなんだな」


 俺達は最後のページとその訳を見る。



『祈神術』訳:暁和也

陰陽術の使い方は以下の通りである


 術者の生来の素質は威力に大きな影響を与える。例えば、我々陰陽術の血を継ぐ者は、比較的術が発動しやすい。だが、家系とは関係なく、突然素質を発揮する者もいるし、逆に突然素質が途絶える事もあり得る。

 つまり、以下の事を実践しても、必ずしも強力な能力を使える訳ではない。それを踏まえて続きを読んで頂きたい。


 陰陽術の基本は自分の望みを現実化する事である。強く心に願ったことが現実にも影響を与えるということだ。

 その望みは、曖昧ではいけない。例えば、田畑を耕したいと望んでもその願いは叶わないだろう。その望みを叶えたければ、もっと具体的に「目の前にある土砂を空中に持ち上げ、空気を含ませたい」のように祈る必要があるのだ。


 ここで、自分の望みは現実化するはずだと強く信じる事が出来ないと、決して陰陽術は発動しない。「自分は陰陽術を発動できないだろう」という疑いの心があれば、絶対に成功しないのだ。


「長々と書かれているけど、まとめるとこんな感じになるかな」


陰陽術を使える条件

・陰陽師の家系である

・自分が陰陽術の使い手であると強く信じている

陰陽術を使う方法

・起きてほしい効果を強く思い浮かべる




 「生き血を捧げて……」的なゾッとするような内容を期待していたのか、姉さんは残念がっていた。俺的には、こういうシンプルさが好きなのだが……。まあ、感性の差だろうな。







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