WAGD(ヴァージッド)
「ヴァージッド?」
姉さんが作成したという『精霊』の量を測る機械は、スマホサイズの電子機器だった。ラノベ脳な俺からすると、水晶玉とか魔方陣的な物が出てくると予想していたので、ちょっと残念に思った。まあ、それはともかく。
「正式名称を『思念減衰率測定式精霊濃度計』という。英訳して“Will Attenuation rate measuring Genie Densitometer”で、その頭文字を取ってWAGD。ヴァージッドだ」
「長い長い。なんて言ったんだ?」
「思念が減衰していく割合を測定する事で精霊の濃度を計測する機械だから、『思念減衰率測定式精霊濃度計』だ。オーケー?」
「分かったけど、それがどういう物なのかはよく分からなかったよ。取り敢えず、どうやって使う物なんだ?」
「そうだな。まずは実際に使って貰わないとだな! まずはその機械を手に持って、それからここのボタンを押す」
「分かった」
姉さんが指示した場所を押すと、液晶画面が立ち上がり、Setting Up... Please Wait...と表示された。
「どれくらい待たないといけない?」
「精々十数秒だ。あ、もう大丈夫だ」
液晶に目を向けると、Readyと表示されている。
「次にどうすれば?」
「その機械、横に金属部分があるだろ?」
「ここ?」
「そうそこ。その金属を魔法で冷やしてみてくれ」
精霊濃度計は薄い直方体型なのだが、一つの側面だけ金属製で他の面はプラスチック製となっている。ここを冷やせばいいみたいだな。
「『冷却』」
魔法で金属を冷やすようイメージする。成功したな。
すると、液晶画面に数字が表示された。温度だろうか?
「この数字は?」
「カウントダウンだ。ゼロになると同時に魔法の行使を辞めるんだ」
「分かった」
5
4
3
2
1
「ゼロ!」
ゼロが表示されると同時に魔法の行使を辞める。すると、液晶画面に変化が現れた。Now calculating...。計算中って意味だな。あ、終わったみたい。
「3.2E+10って表示されたぞ」
「え? プラス10? おかしいな。プラス3前後になると思うのだが……」
「そうなのか? 使う人によって違う値になるとかじゃないの? 若しくは、早くも故障?」
「使用者によって違う値にはならないはずなんだけどなあ。となると故障か……? ちょっとそっちの機械で測ってみてくれ。私はそれで測ってみる」
『+10』というのは桁数だそうで、例えば3.2E+10は3.2×10000000000を意味するようだ。普段、その値は○○E+2~○○E+3だったとのことなので、その差はかなり大きいという事が分かる。
そう言う訳で、三つの機械を使って俺と姉さんが順番に測定器を使用した。しかし……
「やっぱりE+10前後の値だな」
「変だなあ。この場所がおかしいのか? ちょっと他の場所でも測定してみよう」
「近くの公園にでも行く?」
「そうだな。」
◆
さて。近所の公園にやってきた。幼稚園の頃、紗也と二人で延々と砂遊びをした記憶がある。懐かしいなあ。
さて、公園に着くや否や、姉さんは精霊濃度計を立ち上げ、計測を開始した。
「どう、姉さん?」
「あ。通常値を示してるな。7.5E+2だ」
「念のために聞くけど、それって精霊の濃度なんだよな?」
「そうだな。魔法の行使を代行する存在がその場にどれくらいいるのかを計測しているはずだ」
「つまり、俺の部屋は精霊がいっぱいいるって事か? 普通、神社みたいな神聖な場所に精霊が多い印象なんだけど」
もしくは何か『曰く付き』な場所だろうか。そう言った『何かいそう』な場所で精霊濃度が高いなら納得なのだが……どうして俺の部屋だけ濃度が高いの?!
「お前の部屋、何かに取り憑かれてるんじゃないのか?」
「辞めてよ、そういうこと言うの! 怖いじゃないか!」
「あはは。でも、計測しているのは『霊』ではなく、あくまで魔法に関与する粒子の存在だ。今は『精霊』って呼んでいるけど、素粒子の一種だと考えればいいんじゃないのか? 前に和也が言ってたじゃないか。『俺の部屋は魔力スポットだーー』的なこと? そうイメージしたら、悪い事ではないかと」
「なるほど! 俺の部屋には未知のエネルギーに満ち溢れていると。確かにそれは興奮するな!」
「未知のエネルギーに満ち溢れている……。あ、もしかしてダジャレのつもりだった?」
「違う、偶然だ。ところで、他に精霊濃度が高い場所、知らないの?」
「そうだなあ……。あ! そういえば、私の研究室も若干濃度が高かったんだよな。6.5E+4だったんだ」
「研究室で精霊濃度が高いって……。もはや、『神聖な場所』とは正反対の場所じゃないか。何か共通項はあるかな? 俺の部屋と姉さんの研究所に」
「うーむ。あ、もしかして、『術者がいる場所に精霊が集まりやすい』とか? 和也の部屋。私の研究室。どちらも『術者が良くいる場所』だ!」
「なるほど! となると、紗也の部屋も濃度が高いはず!」
「行ってみよう!」




