海底の石碑
「それにしても、タコなんてよく見つけたわね。どうやってみつけたの?」
紗也がタコを捌きながら俺の方を見る。
「ああ。余裕があったから、結構深い所を捜索しに行ったんだ。そしたら、巨大な石があってさ。そこの下に居たんだ」
「なるほどね。って、あんまり深くまで行ったら危ないじゃない!」
「あ……あはは。確かに、足とか攣ったら大変だっただろうな……。いや、魔法があればなんとかなるか?」
「それでも、危ないのはダメよ! 今度からは、私か慧姉と一緒に行く事!」
「そうするよ。あ、そういえば、その巨石なんだけど、変だったんだよね」
「変?」
「ああ。凍らせたタコを取り出そうと岩と海底の隙間に手を入れたんだけどさ。その時に、岩の下に手を擦っちゃってさ」
「なるほど。怪我してない?」
「ああ、大丈夫。というのも、岩がスベスベだったんだ。まるで研磨された宝玉みたいに」
「なるほど? つまり、その岩は人の手が加わっていると?」
「分からない。もしかしたら、岩にくっついていたナマコを触ってしまっただけかもしれないし」
「ふーむ。それは気になるわね。『この下に財宝を隠す』とか書いてあったら、嬉しいわね!!」
「それは確かに嬉しいな! ご飯食べたら、一緒に調査に行こうよ!」
「ええ!」
午後の予定が出来て、俺達は、昼食の準備を進めることにした。
◆
「なるほど。海に沈む巨石か。確かに、気になるな」
「だろ?」「でしょ!」
「取り敢えず、見てみないと分からないな。それにしても、がっちょの唐揚げ、美味いな。今度、魚屋で売ってたら買いたい」
「「いいね」」
なお、大人組にも唐揚げを振舞った。みんなも「これは美味い!」と喜んでくれたので、万々歳である。
さて、食事が終わったら、早速調査だ。筏と共に、俺達は巨石の合った場所へ赴く。
「確かこの辺りだったと思うんだけどなあ」
「三人で手分けしないか?」
「それは危ないわ。万が一事故が起こったら、悔やんでも悔やみきれないわ。防げる事故は未然に防ぐべきよ!」
「「そ、そうだな」」
…
……
………
「見つけたぞ! たぶん、あの石だったと思う」
「「それどれ……。おお! 確かに大きいわね」」
「だろ? さて、どうやってひっくり返そうか?」
「三人で協力して『この岩をひっくり返す』とイメージしたら、普通にひっくり返るんじゃない?」
「やってみるか。どっち向きに倒そうか?」
「岩の沖側を持ち上げて、こう……浜に向かって転がす感じでどう?」
「「オーケー!」」
俺たちは海流を操作して、グン!と海底へ向かう。ジェスチャーで意思疎通しながら、岩の東に姉さん、西に紗也、そして沖側に俺が待機する。
(3、2、1、今だ!)
指を折り、タイミングを合わせる。岩がひっくり返るようにイメージする。
すると、岩が少しずつ、持ち上がった!三人の人間が巨石を持ち上げる様は傍から見たら異様だろう。おっと、集中しなくては!
徐々に、徐々に岩が持ち上がり、最初の状態から90度以上回転した。後は力を抜いても……
<<<<<<ドシン!!!!>>>>>>
倒れた衝撃で砂が舞う。二人とも、無事か?
幸い、岩を倒す時には全員が退避していたようで、目に砂が入ったり、岩に足を挟んでしまった人は居なかった。安心である。
「「「ぷはあ!」」」
「倒せたわね!」
「ああ!」
「浮力が助けてくれたとはいえ、魔法の力には驚かされるよ」
「さて、わざわざひっくり返したわけだけど……人工物だったのかな?」
「たぶん。底面を見た感じだと、何か文字が書かれていた」
「「マジ?!」」
「ああ。できれば写真に収めて地上で観察したいな。姉さん、水中カメラとか用意してる?」
「今から取ってくる!」
「任せた!」
…
……
………
「これは何? 宇宙人の書いた文字かしら?」
「読める気がしないな……和也、何かわかるか?」
戻ってきた姉さんは、カメラで色々な角度から石碑を撮影。その後、ラップトップでサクサクッと画像処理を施した。
すると、無数の画像は、一つの3Dモデルとなった。すごい技術だな!!画面上に映し出される3Dモデルをじっくり観察すると、確かに文字が書かれているのが分かる。
紗也は宇宙人の文字などというファンタジーな発想をしているが、残念ながらこれは日本語だ。崩し字なので、一見日本語には見えないが。
「これは崩し字。れっきとした日本語だぞ。ちょっと時間はかかるけど、ちゃんと読めるはず」
「さすが、かず兄! 頼りになる!」
「それじゃあ、解読よろしく!」
「ああ、任せろ。といっても、解読は夜にして、今は遊びたいな」
今晩は徹夜かなあ……。明日に響かないように、出来るだけ早く解読したいな。
◆
(うん? あれは……)
特に何かをするわけでもなく、3人でのんびりと泳いでいた時。不意に海底にピンク色の貝殻を見つけた。
「お! 綺麗だな!」
「なになに? あ、桜貝じゃん! 綺麗ね!」
「ほう! 保存状態もいいな!」
「後でアクセサリーに加工しようかな? ネックレスがいいかな?それとも、ブレスレット? うーん……。紗也、どんなアクセサリーが欲しい?」
「え、私?」
「いや、俺には似合わないだろうし……」
「そ、そう? じゃ、じゃあ……」
いきなり欲しいアクセサリーを聞かれても答えられないのか、困り顔をする紗也。そこに姉さんが助言をくれた。
「和也。女の子にプレゼントする時は、指輪がおススメだぞ」
「そうなのか?」
ちらと紗也に目をやり、意見を求める。
「指輪かあ……指輪もいいわね」
「でも、指輪ってちょっと大げさじゃないか?」
「「大げさ?」」
「ほら、指輪って言うと、結婚指輪を想起させるし……」
「け、けけ、結婚?!」
ワザとかって思うくらいあわあわと慌てる紗也。そんな反応をしないでくれ!俺も恥ずかしくなるだろう?!
「だからいいんじゃないか。変な虫が寄り付かないよう、牽制する意味でもさ」
「なるほど。それなら納得だ。うまい事加工するか」
工作が好きなので、UVレジンなどを使ってアクセサリーを作った事もある。得意という訳ではないが、下手ではない……と思う。
その後は、特に大きな発見も無く、のんびりと海を満喫した。




