旅行三日目
旅行二日目の午後は『がっちょ』を三人で捕まえた。
色合いが海底と同化していて、なかなか見つける事が出来ず、六匹しか捕まえる事が出来なかった。
小麦粉を調達し、唐揚げにして三人で試食し……
「めっちゃおいしい!」
「え、ナニコレ。すっごく美味しいんだけど!」
「想像以上に美味しいな。是非、みんなにも分けたいな」
大変満足した。
◆
そう言う訳で、三日目は『がっちょ』獲りに専念することにした。こういう遊び方が出来るのも海の醍醐味と言えるだろう。
「お昼までの五時間で、誰が一番多く捕まえられるか勝負といこう! 最下位の人は罰ゲームな!」
「おう、どうな罰ゲーム?」「倫理的にオッケーな範囲にしてよね」
姉さんは、しばし考え、ポンと手を打った。
「そうだ!! 『全力でハシビロコウの真似をする』とかどう?」
「うわあ。ビミョーに嫌なラインだなあ」
「よくそんなアイデアが出たわね……。 勝者はその様子を撮影?」
「勿論だな。だが、SNSに挙げるのは無しで」
「「オーケー!」」
それじゃあ、ハシビロコウの物真似をしなくていいように、頑張ろう!
三時間が経過した。「泳いで、魚を見つけて、凍らせる」という非常に単調な作業ではあるが、「今日の昼飯を捕まえている」と思うと、非常にモチベーションが湧く。やはり、おいしいは正義だと思う。
さて、現在のスコアは
俺:12匹
紗也:6匹
姉さん:5匹
であり、俺がかなり優勢である。これは憶測にすぎないが、俺が三人の中で最も肺活量が高いのだと思う。よって、より長時間水中に滞在する事ができ、より沢山の魚を見つける事が出来ているというわけだ。
ここまで順調だと、少し冒険してみたくなるな。よし、もう少し深い所を探してみようかな!
(おう。でっかい岩があるじゃん。ああいう岩の下って魚がいるイメージだよな?)
深い所は、浅瀬ほど人の手が加わっていないのだろう。巨大な岩が鎮座していた。岩陰と言えば、魚が隠れているイメージがある。早速俺は岩に近づく。
(タコ? あれはタコなのでは?!)
ビンゴ! 岩陰をのぞき込むと八本脚の生き物と目が合った。墨を吐いて威嚇するが、俺の魔法は遠距離攻撃。
(『凍てつけ』! よっしゃ、美味そうなタコを捕まえたぞ!!)
ガッツポーズ。これは二人に自慢したい。って息が苦しくなってきた。急いで息継ぎをしよう。
(うん?)
岩の隙間から、凍ったタコを引きずり出す時、岩の裏面に手があたった。そこは、想像以上にツルツルで岩肌とは思えなかった。
(ナマコでも触ってしまったか? ……何もいない? まあいいや、ひとまず息継ぎを……!)
なお、二人に巨大なタコを見せると、たいそう喜んでくれた。おっと、紗也が7匹、姉さんが8匹になっている。俺も負けてられないな!
◆
俺:21匹+タコ
紗也:13匹
姉さん:15匹
「わ、私が最下位……。負けちゃった……」
「紗也がハシビロコウの物まねな」
「和也、カメラをありったけ用意するぞ。ありとあらゆるアングルから記録するのだ」
「いいね! あとで、可愛く編集して俺に頂戴」
「勿論さ。さあ、撮影会を始めるよーー!」
「ちょっと? ほんとに罰ゲーム、するの? って、何、その大量のカメラ?!」
「大人勢から借りてきた。全部で8台のスマホと姉さんの持ってるドローン二台。合計10台のカメラで撮影するよ。大丈夫、可愛いアングルで撮影するから」
「は、恥ずかしい……私が恥ずかしがってるところを見てそんなに楽しい?」
「「もちろん!」」
「二人のイジワルーー! まあ、そう言う約束だったしするけどさあ……。で、ハシビロコウの物まねってどうやるの?」
「そうだなあ。まず、むすっとした顔でのしのし歩く。フラミンゴみたいに足が長いから、それを意識した歩き方をするように。そして、そのままむすっとした顔で突っ立つ。5秒ほど待機。その後、眼下に魚がいると思って、ぐわ!と捕まえる真似をする。丸呑みし、満足げな顔をカメラに向ける。こんな感じかな」
姉さんが色々と指示を出す。うわあ。紗也が可愛そうになってきた。まあ、助けはしないけどな!俺だって楽しみだし。
「ちゅ、注文が多い……分かった、やってみるね」
「それじゃあ、行きまーす。3、2、1、アクション!」
アヒル口の紗也が、ノシノシと歩き、ステージの中央へ赴く。
中央で、しばし待機した紗也は、下にいる魚を捕まえる真似をする。なびいた髪が色っぽく見える。なお、今は水着の上に上着を着ている。是非、水着でして欲しかった。
魚を丸呑みする真似をした紗也は、最後にカメラに向けてドヤ顔を決める。お!いいね、そのどや顔。
「カット! めっちゃ可愛かった! な、姉さん」
「ああ。凄い面白かった! 可愛く編集するから、私はコテージに戻るぞ」
「うう……恥ずかしかった……」
「……紗也も編集した動画いる?」
「……せっかくなんで貰う。ああーー! またしても私は黒歴史を作ってしまったーー! くっ、殺せ……」
「黒歴史でもないだろ? 罰ゲームの動画なんて、いい思い出の一つだよ。それに比べて俺の黒歴史は……はあ」
「そういえば、かず兄、中学生の頃、詩を書くのにはまってたよね?」
「そうなんだよなーー。しかもさ! ちょっと聞いてよ! あの頃の詩は、全部捨てたと思ってたのに、いつの間にか姉さんがスキャンしてたみたいでさ……。わざわざ、『和也の詩~My School Days~』って詩集にして俺に見せてきたんだよ……。しかも、無駄にお洒落な表紙までつけてさ。はあああ……」
「あの、ひまわり畑の表紙ね」
「え?」
「あ、しまった!」
「おい、紗也。まさか、あの詩集見たのか? 姉さんから取り上げて、データも消させたんだぞ!!」
「きゃ! 急に腕を掴まないでよ! エッチなんだからーー! プンプン!」
「可愛く怒って誤魔化せると思うなよ? 白状しな。どうしてあの詩集を紗也が知ってるんだ?」
「……慧姉から貰ったの。厳重保管用と保存用と鑑賞用の三冊」
「な!!」
「この際だから白状するけど、私だけじゃなくて、私達の家族はみんな持ってるよ?」
「NOーーーーー!!!」
俺の黒歴史は、家族にも知られているようだった……。




