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旅行二日目

 旅行は二日目に差し掛かった。今日も晴天。海で遊ぶには絶好の天気である。

 大人勢がビーチバレーを楽しむのを横目に、俺達はサップを持って海へ向かう。お試しという事で一つしか買わなかったので、三人で使い回すことになる。

 まず挑戦するのは俺だ。出来ればかっこいい所を見せたいが、果たして。


「和也、ガンバ!」

「良い感じじゃん!!」


「く! ヤバい、想像以上に難しい……。うわ!」


「「危ない!」」


「うわぁああー!」 ザッバーン!


「情っけないな、和也よ。二人の女の子に応援されてその様とは如何(いかが)なものか」

「慧姉が『女の子』……?」

「何か言ったか?」

「いいえ! 何も!」


 うむ、難しいな。一回目で成功するとは思ってなかったが、まさか10秒も乗れなかったとは……。醜態をさらしてしまった。悔しいな。


「じゃあ、次は姉さんな。弟と従妹(いもうと)が応援するんだから、きっと完璧に乗りこなせるだろ?」


「ぐは! 煽り文句が自分に帰ってきた! いいざよ、やってやるわ! 見てなさい、二人とも! きゃああー!」 ドボン!


「「乗る事すら出来てない……」」


「もう一回だ! 今のはノーカウントだ! さっきのは波の悪戯で……。うみゃあーー!」 ザバン


「はーい、交代交代! 次私ねー!」


「くぅ! (かたき)を取ってくれ、紗也」


「ええ!」


 紗也が板の上に立つ。足をビクビクさせながらそおっと立ち上がる様は、生まれたての鹿の赤ちゃんのようで、ちょっと面白い。


「た、立てたわよ……。それじゃあ、これで漕げばいいのよね? よいしょ!」


「「おお!」」


「よいしょ」


「「おお! ……あ」」


「きゃああー!」 ザッバーン!


「惜しかったな。でも、かなり良い感じだったんじゃないか?」

「むう。この中じゃ私が一番下手なのか……。まあ、私の長所は頭脳戦だし?」


「ありがと。結構、難しいわね。でも、何回か練習したら、乗りこなせそうね」


「だな。次、俺が乗ってもいい?」


「ええ。頑張ってね!」



「慣れれば意外と乗れるもんだな」


 波で揺れる板の上でバランスを取る。最初は転んでばかりだったが、10分もすれば乗れるようになってきた。


「かず兄は体幹がしっかりしてるからね……私はまだ心もとないわ」


 その後、転んだ紗也が俺の方に倒れてきたり、転んだ姉さんの水着が取れたりしたが、大きな事故無く三人とも乗れるようになった。そうなると、困るのが交代のタイミングである。


「そろそろ交代してよ」


「え。私、ついさっき乗ったばかりなんだが?」


「いやいや、紗也、さっきから、結構独占してるよ?」


「そう? じゃあ、交代するね」


「どうも!」


「「「……三つ買えばよかったな」」」



「いっそ、氷で作るとかどう? 流氷の上のホッキョクグマをリスペクトして」


「足が凍るよ……」


「確かに!」


「じゃあ、サンダルを履いて乗ったらいいんじゃないか?」


「そうね。私、三人分取ってくるよ」


「サンキュー、紗也」「ありがとね!」



 しばらくすると、氷に乗った紗也が現れた。俺達の前に着くと、四つん這いになって


「がおー! ホッキョクグマだぞーー! 食べちゃうぞーー!」


 と威嚇(?)してきた。凄く可愛い。百億回いいねを押したい。

 だが、水着を着た女性が前かがみになっているのは、思春期の男子には刺激が強い……。それを自覚していない紗也。指摘すべきか……?


「おお! 男を惑わせるポーズだな! 和也も喜んでるぞ!」


 俺が指摘すべきか悩んでいると、姉さんがツッコミを入れてくれた。助かった……。いや、要らんことをしてくれた?


「……?」


 そして、指摘されても気が付かない紗也。純粋でいい子……なのか?問題になる前に、サップから降りる。


「姉さん、交代しよ。俺はちょっと泳いでくるよ」


「別にいいが……どうして?」


「罪悪感が……」


「律儀だなあ。まあ、それじゃあ、私と紗也で遊んでおくとしよう」


「ああ」


 昨日習得した水流操作による高速泳法を使って、海中を爆速で泳ぎ、その場を去ったのだった。



 なんとなく海底を見ていた時だった。何かが動いたような気がした。


(なんか変な魚……ハゼかな?)


 海底にお腹をベターと付けた、平べったい魚と目が合った(ような気がした)。砂のような色合いの肌を持つそれを見つける事が出来たのは本当に偶然だ。それが俺の接近に驚いて体を動かさなかったら俺は見つける事が出来なかっただろう。


(せっかくだし、捕まえてみるか……)


 そーっと近づく。もう少し、もう少し……今だ!


(『()てつけ!』)


 網で捕まえるのは困難を極めるだろう。ましてや素手で捕まえるなど不可能に近い。だったら、いっそ周りの海水ごと凍らせてしまえばいいのでは?そう思ったおれは魚の周囲が凍るようにイメージする。

 成功だ。魚は氷の中に閉じ込められた。ふふふ。今日の晩飯だな!……そもそも食べられるのかな?


 姉さん達がいる方向を確認し、そちらに泳ぐ。手に持った氷が冷たくて、運ぶのが大変だった。


「姉さん! 変な魚を捕まえた! これなんだろ?」


「うわぁ……。氷漬けになってるじゃん。ちゃんと食べないと、失礼だぞ?」


「ああ。だから、食べられるのかな……って思って聞きにきた」


「これは、ネズミゴチかその仲間だな」


「ハゼじゃないのか」


「違うと思う。私も詳しくは無いから憶測になるが、確かカサゴの仲間だったはずだ。大阪の南の方出身の友人が『がっちょ』って呼んでいたよ」


「なにその……変な名前」


「方言を『変』とか言うと失礼だぞ? 友人曰く、唐揚げにすると美味いそうだ。後でみんなで捕まえてもいいかもな」


「だな。紗也も見る? ……どうした、紗也?」


 紗也は若干不機嫌そうに俺の方をにらむ。何も言わない紗也に変わって、姉さんが

「先ほどの自分の行動を恥じているだけさ」

 と説明してくれた。




 ……そんな所が、可愛んだよなあ。





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