到着
「この砂浜として整地されている区間が、プライベートビーチの範囲みたいだな。想像以上に広いな」
爺ちゃんはパンフレット片手に俺たちに説明を始める。ざっと100mくらいの範囲。想像以上に広いな!十分楽しめる予感がする。
「綺麗な浜辺ね……。寝るのは、あそこにあるコテージ?」
母さんが指さした先には一階建ての家が三つ横に並んだような建物がある。なかなかお洒落だな!
「多分。預かっている鍵で開ける事が出来たら、正解な訳だが……。うん、開いたぞ!」
「「「おおーー!」」」
予想の10倍綺麗な内装に驚く。木で出来た長椅子。木で出来たテーブル。木で出来た大黒柱。大きな窓からは水平線まで海が見えている。将来は、こんな家に住んでみたいな。
「今儂らがおる中央棟はリビングで、向こうにある東館がシャワールームと風呂。西館が寝室のようだな。三人部屋しかないようだが、どう分ける? 新幹線の時みたいにするか? ……まあ、後で決める事にしようか。取り敢えず、荷物を置いたら昼飯だ! バーベキューだ! 肉を食うぞーー!!」
爺ちゃんは保冷ボックスの中から食材を取り出す。持ってきてたのかよ!
「大丈夫なんだろうな、それ? 長旅の間に菌が増殖してたりしない?」
「慧子が大丈夫と言っておったぞ」
「そうなの?」
「ちょっと高級な保冷ボックスだからね。中身は0℃に保たれてるわ。移動中に菌が増殖していることは無いわ。とは言え、生焼けで食べるのはお勧めしないわ」
「それは当然だな」
「さて、炭を準備している間に他の食材の買い出しに行かなくてはならん。野菜やら米やらを調達してきてほしいのじゃが……」
「私達大人組が行ってくるわ。子供達は遊びたいでしょうし」
「「「いいの?!」」」
「ええ。正直、買い物を三人に任せるのは心配で……」
「俺達も荷物運び位なら出来るぞ?」
「いいっていいって。遊んできなさい!」
「それじゃあ、お言葉に甘えるよ。それじゃあ、早速遊ぼうか?」
「「ええ!」」
さあ。存分に楽しもうではないか!
◆
「それじゃあ、水着になってからここに集合ね」
「オッケー」
と言っても、姉さんと俺は着てきたので、来ている服を脱いだら着替え完了である。俺達が止まる部屋を出て、西館の入り口で紗也を待つ。
程なくして、紗也も水着姿で現れた。前に買った水色に白色の水玉模様の水着である。
「お待たせ! 二人とも着替えるの早いね!」
「私たちは着てきたからな」
おお!紗也の水着姿!!スゲー可愛い!めっちゃいい!
まずい、語彙力が低下しているな。少し落ち着かなくては。
俺は呼吸を整えてから、紗也を見て言う。
「水着、似合ってるな。スゲー魅力的で可愛いと思う! この水着を選んでよかったって思うよ」
「か、かず兄も凄くカッコいいと思うよ! 筋肉質で、男の子って感じ……」
改まって異性に褒められ、そして異性を褒めたことで、紗也は顔を赤くしてちょっと気まずそうな顔をしている。きっと俺もあんな顔をしていると思う。
「……私、ここにいない方が良い気がしてきたよ。私は退散するよ。二人で仲良く楽しんできて」
「「そんなんじゃない!」」
「息もぴったりだな。まあ、二人をからかうのはこれくらいにして。取り敢えず、準備しようよ!」
という訳で、次に俺たちは筏を膨らませる事にした。ぺしゃんこだったビニールの塊が瞬く間に筏になる様子に少し感動する。
この筏、一部には屋根も付いており、寝転ぶには最高である。ただし、本当に寝るならは、流されないように注意が必要だ。
「という訳で、このコンクリートブロックと筏をロープでつないでっと」
「うわ! かず兄、そんなもの用意してたの?」
「まあな。よし。錨の完成だな」
「念のため、GPSを利用した警報装置を作っておいた。それも活用しよう」
「うわあ。この姉弟有能すぎでしょ。私、全く役に立ってない……」
「これで準備は完了! 早速海に入るぞ!」
「「いえーい!!」」
澄んだ水に飛び込む俺達。ずいずいと筏を海に推し進める。
水深が俺のへそあたりになった段階で、錨を下ろすことにした。あんまり深くまで行くと、帰るのが面倒だしな。
「それじゃあ、早速乗ってみましょ! ……どうやって乗るの、これ?」
「……肩車しようか?」
「危ないわよ」
「這い上がればいいんじゃないか? よいしょっと」
姉さんが筏の上に乗ろうと奮闘する。何とか這い上がった姉さんだったが、そのタイミングで強い風が吹いた。
「きゃあああ!」
バランスを崩した姉さんは、筏の上で滑ってしまい、俺達の方へと倒れてきた!!
「アクアクッション!」
咄嗟に紗也が魔法を発動した。海水がぶわっと持ち上がり、姉さんを『空中で着水』させた。海水は、まるで意志を持っているかのように姉さんを持ち上げ、筏の上に乗せた。
「いやあ、助かったよ。魔法ってすごいなあ。いつか魔法を科学に応用させたいよ!」
姉さん苦笑する。未だに姉さんは超常現象に苦手意識を持っているようだ。
「ああ! それがあるじゃん!」
「「え? ……あ」」
魔法を使って海水を持ち上げ、俺も筏に乗り込む。それを見た紗也も真似して筏に乗った。
「わわわ! 結構揺れるわね。立つのは難しいかしら?」
「もともと横になる目的で買ったんだろ? なら、本来の目的で楽しもう」
「それもそうね。それじゃあ、失礼して」
俺たちは筏に寝そべる。三人が横になっても大丈夫なサイズを購入したつもりだったが、バランスの悪さから必然的に中央に集まることになる。もう少し大きなサイズを購入した方が良かったかもしれない。
しかも、乗った順番は姉さん→俺→紗也である。寝転んだ時、中央にいるのは俺な訳で。
「ね、姉さん……」
腕に胸が当ってる……。恥ずかしく思い、ちらりと横を見ると、姉さんの顔が目の前にあった。びっくりしてびくっと体を震わせる。
「なんだ? もしかして私にドギマギしてる? ならもっとくっついてやろう。そりゃ!」
姉さんが俺にしがみついてきた。
「きゃあ! ちょっと慧姉! あんまり揺らさないで!」
突然の揺れに、今度は紗也が俺にくっついてきた。
……前言撤回。このサイズを購入して良かった。
こうして俺たちは、波に揺られながらのんびりとした時間を過ごすのだった。
◆
和也「うう……。船酔いした……」
慧子・紗也「え゛」
和也「スマンが下ろしてくれ……」
幸福な時間は直ぐに終わるのだった。




