Goto ビーチ!
夏休みが始まるも、家族旅行までの数日は特別な用事は無い。夏休みの宿題を急ピッチで終わらせることに全力を注ぐ。
夏休みの宿題と言えば、先に終わらせる派、毎日コツコツ進める派、最後に慌てて終わらせる派の大きく三通りに分かれる。このように分けるならば、紗也はコツコツ進める派で、俺は先に終わらせる派と言える。姉さんは理数系科目の宿題は夏休みが始まる前に終わらせ、文系科目は最後に慌てて終わらせるという進め方だった。
そういえば、昔は良く、姉さんの宿題を手伝わされたっけ?懐かしい思い出である。
課題が大方終わった段階で、いよいよ出発の日となった。
ビーチのある静岡までは新幹線での移動となる。新幹線は2人掛けの席と3人掛けの席があり、「俺・姉さん」「母さん・父さん」「紗也・紗也の母・紗也の父」「爺ちゃん・ばあちゃん」という組み合わせで座る。
「姉さん、俺、窓側でもいいか?」
「和也は、遠くを見てないと酔うもんな。どうぞどうぞ」
「サンキュー。まあ、最近は乗り物酔いしなくなってきたんだけど、念のためね」
年を重ねる毎に、乗り物酔いの体質が収まってきたのだが、何故なのだろうか?慣れかな?
「私は論文読んだり、データ解析したりするが、何かあれば遠慮なく声をかけてくれ」
「ああ。……姉さんってなんやかんや優しいし思いやりがあるよな」
「急にどうした? は! これがいわゆるツンデレか!」
「俺がいつツンツンしてたって言うんだよ」
「確かに。なら、デレデレだな」
「それはちょっと違うくない?」
「確かに。自分で言ってても『それは変だな』って思った」
…
……
………
「うーむ。さっぱりわからん! あ、ごめん」
作業がひと段落したのか、姉さんが伸びをする。そして、その手が俺の顔に直撃した。ちょっと痛かった
「ああ。ちなみに、何を解析してるんだ? それは誰かの脳?」
姉さんのノートパソコンには脳の3D画像がクルクルと回っていた。前に俺の脳をスキャンした時に使っていたソフトとはちょっと違う。何をしているのだろうか?
「これは神経線維の走行を可視化するソフトなんだ。拡散強調MRIって呼ばれる物を撮影するんだ」
「カクサン? Nucleic Acidの『核酸』?」
「いや、Diffusionの方の『拡散』だ」
「Diffusionを強調するMRI画像?」
「ああ。神経線維の走行に沿って、水分子は移動するのだが、それを観測する事で神経線維の走行を調べる事が出来るんだ。こんな風に」
姉さんが画面を操作する。確かに、画面には半透明の脳とその内部に走る神経線維の3Dモデルが見える。
「自分たちが魔法を使う際によく使用する部位、そしてそこと強い関係がある神経回路を調べてるんだけど……。なんにも分からないんだよね!」
「超常現象を科学で解決するのは如何なものかと」
「それでもやっぱり気になるのが科学者ってもんだよ」
「なるほどねえ。まあ、ちょっと休んだら? なんだか姉さん、凄く疲れて見えるぞ。昨日はしっかり寝た?」
「実はあんまり……。どうしても進めたい作業があったもので……」
「おいおい。旅行前にそれは無いだろ。今の間にしっかり寝て!」
「そうするよ。お休み……」
◆
「もうすぐだから。降りる準備してーー」
「了解。姉さん、姉さん。起きて」
「うみゃあ? めっちゃよく寝た……。うん? これは一体どういう状況で?」
「姉さんが倒れてきて、起こすのもどうかと思って……」
現在、姉さんの頭は俺の膝の上に乗っている。いわゆる膝枕である。
「それはすまんかった。うう……。姉としての立場が……」
「あはは。正直、俺も『逆だろ?!』って思ってた。」
ちなみに、トイレに向かう紗也が俺達の方を二度見、いや三度見して、最終的に首を捻りながら去っていくという事件が起きた。なお、トイレから帰ってきた紗也は「慧姉ってこんなに甘えたがりだっけ? それはそれで可愛いと思うけど、慧姉らしくないっていうか……」と聞いてきたので「いや、寝落ちしたらこうなっただけ」と教えた。姉さんの威厳は保たれた……のか?
一度昼寝をすると、眠気も去ったのか姉さんの顔色は良くなっていた。
さて、ここからは怒涛の乗り換えラッシュである。これに乗って、あれに乗って、普通車に乗り換えて……。
とはいえ、旅行はこれから。アドレナリンが血管を巡っている俺たちにとって、多少の面倒など気にならない。
「まず着いたら何する? 私は……正直移動に疲れたから休憩したいかな。でも、遊びたい気持ちもあるし……」
「確かに。休憩もかねて、ひとまずオーソドックスな遊びがしたいな。波打ち際で遊んだりさ。和也はどう思う?」
「筏の上でのんびりするってのはどうだ? 海を満喫しつつのんびりできるぞ」
「「それいいわね」」
「膨らませるのが面倒だよな。電動の空気入れの充電は大丈夫だよな?」
「大丈夫なはずよ。私、出る前に確認して来たから」
「いざとなったらこのモバイルバッテリーを使おう。研究室の物なんだが、めちゃくちゃ性能が良いんだ」
「慧姉、研究室の物を私事に使っていいの……?」
「大丈夫大丈夫。いざとなったら新品を買えば問題ない」
電車に揺られながら、俺達は目的地へと近付いていく……
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