水着を選ぼう2
姉さんと俺の分の水着を購入した。
紗也は、別の店の物も確認したいそうで、とあるファッション雑貨店の水着コーナーへ向かうことになった。移動中に本屋さんがあったのだが、姉さんはそこで待つことになった。研究の参考になりそうな本を探すそうだ。
「かず兄も本屋さんで待ったら? 私の買い物、結構時間かかるよ?」
「紗也を一人にするのはちょっと……。変な輩に絡まれないか心配だし」
「もう高校生だし平気だよ~。……でもちょっと心配だから一緒にいてくれると心強いわ」
「おう。それに、紗也の試着姿も見たいし」
「その一言が無かったら、いいお兄ちゃんだったのに……」
「ちょっとした冗談だよ。だから、そんなに引かないでくれ」
「ほんとかなあ? まあそれはともかく、早く行きましょ。慧姉をあんまり長く待たせる訳にはいかないし」
「だな」
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「やっぱりこっちの方が、種類が多くていいわね! さあ、良い物に出会えるといいな!」
「ちなみに、『こういうのがいい』って決まってるの?」
「うーん。はっきりとは決まってないかな。あんまり派手なのは嫌かなってくらい。あ、これとかいいかも」
紗也が手に取ったのは水色と白色のチェック柄のビキニ。なお、下はスカート型である。
「その柄なら、さっきの店にもあったのでは?」
紗也が手に取っていた水着の中に、こんな柄があって気がしたので、尋ねてみると。
「向こうで私が見てたやつの事? あっちの方が色が濃かったの。こっちの方がより明るい色で、私好みの色なの」
「なるほど。紗也は淡い水色が好きと」
「うん。あ、フリル付きのもあるんだねーー!」
「そういえばさ。フリルとレースって何が違うの? どっちも『衣服をお洒落にする為にくっつけた物』だよな?」
「え゛? フリルっていうのは、布を波打たせて、こんな風にフリフリさせたものでしょ」
と言いながら、紗也は水着についた布をぺらぺらとはじく。
「レースって言うのは、編み物の一つで、透かし模様が付いた布の事。ほか、こういう風に。穴が開いていて、向こう側が透けてるの」
と言いながら、紗也は自分の服についたレースをぺらぺらと俺に見せてくる。
「なるほど。じゃあ、向こうにあるのは、フリル付きになるの? それとも、レース付き?」
「どれどれ? わあ! 可愛いわね、これ! これは……レースで作ったフリルって言う事になるんじゃない?」
「なるほど、やっと理解した。 『レース』は布の名称で、『フリル』は布をどう使うかの名称って事なのか」
「まあ、そんな感じの理解でいいんじゃない? こっちのピンクのも可愛いかな!!」
紗也はパパッと自分に似合いそうな水着を5着ほど見繕って、鏡の前に移動。自分の体に当てて、あーでもない、こーでもないと唸っている。
「かず兄、ちょっといい?」
「なんだ?」
「この中だと、どれが一番私に似合うかな?」
「へ?」
な!なんだと。まさか、『どれが私に似合うかな?』という、超難問にこんな場面で出くわすとは! いや、一緒に行動してるわけだし、アドバイスを求められるのも当然か? そうだなあ……
いや待てよ。先週、一ノ瀬(男友達の一人。モテたい気持ちが先走って、女子からは引かれている)がこんな事を言っていたな。
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「『どれが私に似合うかな?』の正しい対処法。知ってるか?」
「「「うーん。なんとなく答える?」」」
「ちっちっち。恋愛経験0ならそんな風に思ってしまっても当然か。だが、この質問。下手に応えると女の子の機嫌を損ないかねないひじょーーにデリケートな質問なんだ」
お前も恋愛経験0だろ! と誰もツッコまないのは、俺達のやさしさが故か、それとも呆れが故か……。ともかく、一ノ瀬は話を続ける。
「実は、この質問をするとき。もう相手の中では答えが決まってるんだ。それを確認したくて、俺達に意見を求めてくるのさ!」
「「「はあ」」」
「つまり、正しい解答は『どれでも着こなせると思うけど、君はどれが一番好みなの?』と聞いて、相手の中で決まってる答えを聞き出して、それをヒントに『確かに、この色って君の雰囲気にぴったりだね!』とか言えば、相手の機嫌を損なうことなく、コミュニケーションを図れるのさ!」
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一ノ瀬のいう事も一理あるかもしれない。確かに、『Aって言って欲しいな』と思いながら敢えて『AとB、どっちを選ぶべきだろう』と聞く事は十分あり得る話だろう。俺だってそういう経験、あるしな。
別に、紗也の機嫌を損ねても問題ない。だけど、将来彼女が出来た時に備えての予行練習だと思って、対応してみるのは良いかもしれない。よし。
「どれでも着こなせると思うけど、紗也はどれが一番好みなの?」
「いや、決めきれてないから聞いてる訳で」
あっれえーー!なんか失敗したんですけど?やばい、どうしよう?全く想定外だぞ?これが、本番じゃなくて良かった。今はあくまで予行練習。間違えても問題ない。むしろ沢山間違えてそれを経験にする事が重要である。
「う、うーん。正直全く分からない……。どれがいいんだ……」
「そんなに悩む事?」
「ハズレの選択肢を選ぶわけにはいかないだろ?」
「ハズレ……? ああ! 心配しなくても、五着とも私が『これがいいかも』って物を選んでるわよ。ダミーが混ざってて『ふ! それを選んでしまうとは……。 こんな奴と親戚だなんて、自分が情けないよ』なんてこと言ったりしないから」
「そ、そうなのか?」
「そうよ。最初から、かず兄にファッションセンスなんて求めてないわよ」
「うぐ!」
「純粋に、どれを着た私を見たいか教えて頂戴」
そんなこと言われたら、余計に難しくなるんだが……?
悩みぬいた末に、俺が選んだのは……
「う、うーむ。この、水色の背景に白色の水玉模様。レースのフリルがついたやつかな」
「これね。分かった、じゃあこれにするわ。サイズだけ確認する為に試着するわね。あ、今日は見ちゃ駄目。旅行当日まで楽しみにしてて!」
「え?」
「さあ! かず兄は出て行った出て行った! 店の前のベンチで待ってて! すぐに終わるから!」
「わわわ! 押すな押すな! 分かった出ていくから……!」
結局、俺は、ベンチで寂しく待つことになった。できれば試着姿を見たかったな……、なんて思ってしまう俺は、紗也に恋心を抱いているのだろうか?だけど、紗也はずっと隣にいる存在。今から恋人に発展するイメージが湧かない。
でも、紗也が他の男子と仲良くするのを想像すると、むしゃくしゃする。やはり俺は……。いや、これは独占欲で合って、恋心ではないか。
店から出てきた紗也の「会計終わったわよー」という声が聞こえるまで、俺は自問自答を繰り返すのだった。




