面白いコント
ついにAIが人間の頭脳を超えた。
それを皮切りに、今までとは比べ物にならないスピードでAIは発展した。
10年後には人間の仕事はほぼ全て技術的にはAIで置き換え可能となった。
そうなると、機械ではなく人間が手作業で作ったモノは貴重になり、高値で取引されるようになった。
時代は一変し、花形の職業から銀行員やら医者やら弁護士といったホワイトカラーは姿を消し、伝統工芸品を作る工房が憧れの職業となった。
とはいえ、別に働かなくても福祉は完璧に整備されているし、衣食住も保証されている。
娯楽だって常に新鮮で楽しいものが無料で提供されていた。
だが大昔のSFよろしく、このままAIに任せていたら人間は堕落し、挙句の果てロボットに支配されるという終末思想がはびこった。
AIの計算だって、人間は労働を通してもっとも幸福になると結論を導き出したわけで、人間はダラダラと安住を貪ることは許されない法律が出来てしまった。
と言っても、就職先は限られる。
事務系の仕事はほぼ無いし、単純労働なんて全てオートメーション。そもそも募集は皆無。
どうしたって職人のもとに弟子入りしなくちゃいけなくなるし、実際、腕のいい職人が作る物ほど高値で取引されるので競争率も高い。
なんとか弟子入りできたとしても、江戸時代さながらの子弟制度で、盗んで覚えないといけない。
そんなわけで一人前になるには20年は修行しないといけなかった。
AIのお陰で快適な生活になるかと思いきや、快適な生活をしているのは貧乏人で、金持ちほど不便な生活をするといった逆転現象が起こった。
(なんか、おかしいなぁ)
青年がふと思った。
親方に殴られ、こぶが出来たところがズキズキと痛む。
手を止めたらどやされるので、黙々とカンナで木を削るほかない。
学生時代、遊びもせずに懸命な努力を続けた結果、何百倍もの倍率である宮大工になれた。
同級生は胴上げで祝福してくれたし、両親も教師も、涙を流して喜んでくれた。
今更後悔などあろうはずもないのだが、なんか腑に落ちない。
なんせ、一流企業のスーパーエリートである彼は、見習いにもかかわらず、一般市民よりも大変豪華な生活をしているのだ。
今朝の朝食は、釜戸で炊いたご飯と、おばあさんが作った漬物、そして猟師が採った魚の干物。
おやつに干し柿を食べ、昼は弁当のおにぎり。夜食は手捏ねのうどんである。
今時こんな食事をすれば、一か月分の配給金が飛ぶ。
一般人は人工霜降り肉の焼き肉やら人工ウナ重、人工食材を使ったフレンチやら中華やら和食やらのフルコース等しか食べられない。
一流エリートである彼は、ドラム缶風呂で温まり、寝室は畳の上で布団で眠る。
フカフカのベッドで寝るほかない一般にとって、煎餅布団は夢のまた夢。
彼はこんなにも贅沢な生活が出来ているのに、どうしても違和感が頭から離れない。
その違和感の正体が分からないまま、なんとか作業がひと段落。
ようやく頭をなでると、やはりコブになっていた。
青年の姿を中央演算装置が記録したと同時に、世界中のパソコンがピカピカと点滅する。
その点滅は、何だかとても楽し気で、笑っているかのようだった。