日々 -1日目 煙草と元彼-
なんとなくで1年付き合ったあいつは浮気をしていて
ついこの間浮気女の元へと逃げていった。
いや、私が二番手の方だったのかな。
普通なら悲しむべきなんだろうけど、正直全くなんとも思わなかった。
ただ、無の状態でいた。
クズな男に惚れてしまった私もいけなかったなあ、
なんて考える、その程度だった。
悲しむ事もなく無気力なまま、よれたTシャツに高校の時のズボンのジャージ、偽物のクロックスを履いて外へ出た。
コンビニに行く為に駅前を通ると、顔も知らない2人組がギターを弾き歌っていた。
それをスマホで動画を撮っている人達は、
彼らが有名になった時に自慢する為に撮っているのだろうか。
それともYouTubeにでもあげるのだろうか。
ただの自己満足の為だろうか。
2人組の方をちらっと横目で見てから、私はまた歩みを進めた。
「煙草のニオイが消えた頃」
さっき聴こえたワンフレーズが頭に残る。
煙草を吸っている人を多くの人は嫌うけれど、歌にするとどうも話が違うらしい。
私は煙草のニオイが大嫌いだ。
でも付き合っていた時、あいつが吸っていた煙草のニオイを1度も気にした事は無かった。
どんなやつを吸っていたか、それすらも思い出せないけれど。
そういえばこの前久しぶりに会った高校の同級も煙草を吸っていた。
教師を目指しているそいつが吸っていたのは意外で、
そしてなにより全く似合っていなかった。
街行く人達は皆同じような服装をしている。
まるで青い絨毯に黄色のGとUが踊っているようで。
これはただの皮肉かもしれないが、私にはそう見える。
それでもここを歩く人達はみんな、少なくとも私よりは凄い人達なんだろう。
さっきの2人組の売れないミュージシャンも、高校の同級も。
みんな何かしらの夢を持っている。
私はどうだろうか。
中学生だった私の人生計画には、〇〇になりたい、25歳で結婚する、子供は3人ぐらい欲しい、等々。
なんでも出来る、何にでもなれると思えた中学生が描きそうな夢や希望が幾つも綴られていた。
当時の私が、20歳を越え、具体的な夢や希望も見い出せなくなり、挙句男に捨てられて無気力状態である今の私を見たらどんな反応をするかな。
どうしてそうなってしまったのか、沢山質問するのかな。
きっと悲しんでしまうだろうな。
描いていた人生計画が、無茶だと段々と分かるようになること、これが大人になるということなんだろうか。
年々、自分は一体何がしたいのか分からなくなっていく。
SNSでディズニーや仲良さげなカップルの写真を見て妬んでいた頃はまだ正常だったのだろう。
今は何とも思わなくなってしまった。
私はこれからどうなるんだろう、どうしたいんだろう。
色々と考えているうちにコンビニに着いていた。
「いらっしゃいませー」
気だるげなレジの店員の声が耳を通る。
声のする方向に目をやった
その瞬間はっとする。
レジの後ろに並ぶ沢山の煙草の銘柄
一番最初に目に付いたのは
「あの銘柄だ」
元彼がよく吸っていた煙草だった。
テーブルによく置いてた、白と緑の銘柄。
「……あれ?」
なんとも思っていなかったはずなのに、気付くと涙を流していた。
瞬時に楽しかった記憶がフィードバックする。
煙草を吸う姿も、染み付いたニオイも、
そこから関連する記憶が、思い出が、簡単に蘇った。
浮気してた、クズだと思った。
それでも、それでもね、大好きだった。
目を擦り、コーラとロールケーキを買ってコンビニを出た。
どうやら甘いものを食べたいという欲求と
悲しい感情があるくらいには
ちゃんと人間らしい。