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【短編版】小悪魔な義妹を演じる義妹のお話

作者: 仁羽 孝彦

今計画中の義妹ものです。


短編用に書きました。

連載版ではストーリーが改変されると思います。


少々粗削りですが、連載版ではもっとしっかりしたものにできるようにしてまいります!


感想などいただけると嬉しいです。

 西陣リサ。同じ高校のクラスメイトでクラス委員長を務めている同級生の女の子。体育は男女で別々に行われるので、出来についてはよく知らないが、少なくとも学業の成績は優秀で、学年で一番成績がいい。


 俺が男で彼女が女であること。俺は目を見張るほど成績がいいわけではないのに対して彼女は周囲から注目されるほどに成績がいいこと。俺は文系寄りで彼女が理系寄りであること。俺は帰宅部で特に習い事をしていたわけではないのに対して彼女は美術部に属していてほかにもいくつか習い事を持っていること。小学校も中学校も別の学校であること。


 こう並べてみればわかると思うが、彼女と接点なんて持ちようがない。ものすごい頭のいい奴が居るなぁとは感じるが、それだけで、話す理由も話すきっかけもなければ仲良くなる理由も仲良くなるきっかけもなく、別々のコミュニティに属してそのまま夏休みを迎えていた。


 そんな彼女が今俺の自室に居る。


 何のきっかけでこんなきっかけになったのか?


 勿体ぶるほどの立派な理由はない。俺と彼女はお互いが知らないうちに共通点を持っていた。俺が母子家庭、彼女が父子家庭との違いがあるものの、互いにひとり親であること、そしてお互いの親が同じ会社に勤めていることだ。


 俺の母親と彼女の父親は俺の知らぬ間に恋人同士になっていた。そして夏休みを迎えたときに、俺に交際していたことと再婚の方向で話がついていることを告白した。突如連れられた西陣親子との顔合わせの時の俺の間抜けな顔はきっと傍から見えれば見ものだったかもしれない。


 そして腹立たしいことに、西陣リサは早い段階から俺の母親と顔合わせを済ませており、彼女の父親との再婚話についても既に承知をしており、さらには了承までしていた。対照的に俺は顔合わせ当日まで知らされていなかった。俺だけが取り残されて、ぽかんとしていた。本当になんで事前に言ってくれなかったのだろう……。


 俺がその話を聞いた翌日には婚姻届けを出しに行き、俺たち親子は苗字が変わり、彼女たち親子と家族になった。なってしまった。あの才女の家族に。


 その経緯(いきさつ)を思い出した俺は、彼女の前で思わず渋い顔を浮かべてしまう。そんな俺の表情を見て、彼女は「どうしたの?」と首を小さく傾げて尋ねてきた。


「いや。西陣……。そっちは抵抗ないのかなぁって」


「どういう意味?」


「会話したことのないクラスメイトと同じ屋根の下だぞ?ふつう戸惑うだろ?」


 少なくとも俺は戸惑っている。夏休み前までは見知らぬ赤の他人同士だったのにそれが突然家族になって同じ屋根の下で過ごすのだ。すぐに受け入れろというのは難しく、中途半端に知り合いであり、他のクラスメイトという共通の知り合いを持っていることもあって、気まずさを感じずにはいられない。


 ところが彼女はというと、気まずさとか居心地の悪さとか気恥ずかしさとかそういったものを一切見せていなかった。


 だから「なんで平気なんだ?」と問うたのだけれども、対する彼女はというと俺の言葉に対して眉間に皺を寄せて応える。


「そう見える?これでも結構戸惑ってるよ?」


「だとしたら相当のポーカーフェイスだと思うぞ?」


 俺の言葉に彼女はほんの少しだけ苦笑いを浮かべて肩を竦め、「心の準備はしてたから」と答えた。


「それで、用件ってなんだ?」


 俺の部屋に訪れた理由を聞こうとすると彼女は真剣な表情を俺に向ける。


「ジュンくんって呼んでほしい?それともお兄ちゃんって呼んでほしい?」


 その質問には思わず固まってしまう。


 親同士が再婚して家族になったのだから、当然俺たちは兄弟姉妹になった。そして、俺の方が誕生日が早かったので、俺が兄で彼女が妹という関係になった。だが夏休み前まではクラスメイト以外に接点がなかったのに、突然下の名前で呼ばれたり兄と呼ばれたりしたところでびっくりするだけしてうまく反応ができないのがおちだ。特に相手が血のつながりが一切ない女の子と言うこともあって、そう呼ばれることに違和感と気恥ずかしさがある。


 けれどもそう呼ぼうとしている彼女は真剣なまなざしで俺の顔を見ていたため、俺は観念して頭を掻き、「どちらでもいいよ」と答えた。


 すると彼女は真剣だった目つきを崩し、小さく笑みを浮かべた。それはまるでいたずらを思いついた子供の顔のようだった。


「じゃあジュンお兄ちゃんで」


 どちらか一方だと思ったらどちらも選ぶとは……。


 真面目で近寄りがたいという委員長のイメージが崩れ、俺はこれから先、突然できた "この妹" に振り回されるんだろうなと予感した。


        ※          ※          ※


 そして予感した通りだった。


 二学期が始まり一緒に登校したとき、途中で後ろから彼女のクラスメイトから声がかかった。


「西陣さん!」


 俺も西陣だけれども、今クラスメイトで俺の苗字が変わったことを知っている者はいないはずなので、明らかにリサを呼んでいるのが分かった。俺はリサとクラスメイトの女の子との会話に交ざる理由もなく、わざわざ彼女たちと同じペースで歩こうにもクラスメイトの女の子に気味悪がられるだろうと思ったので、何も言わずに立ち去ろうとしたのだけれども、そんな俺にリサが声をかけたのだ。


「ジュンくん。また後でクラスでね」


 まあ周囲の空気が凍る凍る。


 夏休み以前の俺たちを知っていれば、まず接点なんて基本的になかったことがよく分かっているので、リサが突然俺を下の名前で呼べば何事かと思うに決まっている。俺のことを例え知らなくても、リサの方は有名なので、彼女が下の名前で呼ぶような男が現れたとヒソヒソ声が漏れ始めていた。


 当事者である俺はただただ固まって棒立ちすることしかできず、唖然とした顔で彼女の顔を見ることしかできなかった。クラスメイトの女の子が「下の名前で呼ぶ間柄になったの?」と驚いたように言うと「そうなんですよ」とさも当然のように肯定してしまった。


 確かに間違えじゃないけど、明らかに誤解されるような……。


 頭が痛くなり、抱え、半ば呆れて彼女の顔を見ると、俺の視線に気づいた委員長は俺の目を直視して、それからクスリと笑みを浮かべた。


 その仕草を見て、狙ってやったのだと感づいた。


 教室に着くと、クラスメイト達がリサの発言を(もっぱ)ら噂していて、教室内は荒れに荒れてしまった。そして俺と委員長が交際していると勘違いした連中から色々と質問攻めにあった。


 何とか頑張って誤解を解こうとしたけれども、解くためには結局、俺の母親とリサの父親が再婚したことをはっきりと告げる必要があり、すると今度は一緒に暮らしていることが露呈してそのことについて質問攻めを受けることになった。


「おい!ジュン!マジで委員長と同棲始めたの?」


「確かに一緒に暮らし始めたが、同棲っていうのはやめろ」


「委員長が義妹になったの?」


「ああ。姉貴の方が欲しかったけどな」


「義妹だったら結婚出来るね!」


「ちょっと待て、お前は何を言ってるんだ?」


 一部の質問がカオスだった。


 リサもリサでクラスメイトの女の子たちに囲まれて質問を受けていた。


「はい。ジュンくんがお兄ちゃんになりました。以前からお兄ちゃんが欲しいとは思ってましたけど、こういう形で実現できるとは夢にも思わなかったですね」


 委員長は何やら嬉しそうにそう答えていた。けれども、俺は覚えている。顔合わせ初日の時に「妹の方がよかったなぁ」と呟いていたのを。


「猫かぶりめ」


 自然と言葉を吐いていた。


「そうそう。ただ困ったことがあるんですよ」と突然哀し気に委員長が口を開く。


「ジュンくん、リサって呼んでくれないんですよね。家族なのに……」


「ちょっと尼崎くん!西陣さんのためになんで呼んであげないの!」


 尼崎は夏休みに行政文書から消えた俺の旧姓だ。


 その非難の声に俺は「そう簡単にすぐに呼べるか」と反論したが「西陣さんは呼んでるじゃない」と再反論されてしまい、言葉に詰まってしまう。「気恥ずかしいんだろ」と理解のある言葉が聞こえたけれども「それじゃあ委員長が可愛そう」との声の方が優勢になり、俺は徐々に追い込まれていった。


 委員長の友人である廣松が「リサも言いたいことははっきりと言わないとだめだよ」とまるで背中を押すように言うと、その言葉をあたかも待っていたかのように哀しみを隠して無理やり笑顔に変えたかのような表情を浮かべて「リサって呼んでくれると嬉しいです。ジュンお兄ちゃん」とここであざとく、ジュンお兄ちゃんを挟んできやがった。


 流れは完全に委員長の側につき、俺は呻きながら「リサ……さん……」と呼ぶしかなかった。


        ※          ※          ※


 俺に血のつながらない義妹ができた。このことに反応するやつが居た。オタク趣味を持つクラスメイトだ。


 クラスメイトのテッペイはリサがリアル委員長であり、お兄ちゃん呼びをするリアル義妹であり、しかも突然できた義妹であることに注目し、「まるでギャルゲみたいだ」なんて呟いた。


「委員長キャラと妹キャラと血縁関係なしって属性を実際に併せ持った女の子と出会えるなんてなかなかないチャンスだよ!どうやって攻略するの?」


 もはやゲーム感覚でわくわくした表情で聞いてくる。


「ゲームじゃあるまいし、攻略とかしないから……」


 呆れながらそう応えると「もったいない」とか言われた。


「ああやって無条件に慕ってくれる女の子なんてなかなかいないよ?狙いどころじゃないの?」


「おまえなぁ……」


 深いため息が出てしまう。


 もし俺がリサに対して何かしらの恋愛感情を持っていたらきっと母親は再婚に踏み切らなかっただろう。再婚を俺に伝える前に母親は俺がリサに興味があるのかどうかの探りを入れていたのだ。恐らく再婚した後にリサとの間で恋愛トラブルを抱えて家族関係が壊れてしまうことを警戒したのだろう。その気遣いが分かったからこそ、俺自身もリサに対して何かちょっかいを出す気はなかった。というかリサの父親に色々とお世話になっているので、恩を仇で返す真似はしたくない。


「あ!もしかして照れてるんだ!」


 心の内を吐露しない間に曲解したので、自然と手が伸びて彼を小突いた。


「ジュンくん!」


 後ろから声を掛けられ、恐る恐る後ろを振り返る。


 軽くは知りながら寄ってくるリサの姿が目に入った。


「……なに?」と警戒心を顕わにして尋ねると「これから一緒に買い物に行かない?」と誘われた。


「いくつか買いたいものがあるの。このあと塾があるけど、買い物をジュンくんに押し付けるのもどうかと思うし、かといって塾の帰りに一人で買い物するのも限界があるから、今から一緒に買い物してくれないかなって思って」


 そう言われれば断るわけにはいかない。「分かった」と答えると「ありがとう」と満面の笑みが返された。


「悪い、テッペイ。荷物運びしてくるわ」


「うん。行ってらっしゃい。……まるで新婚さん」


 最後の方はボソリと言いつつも、しっかりと俺の耳に入ってきた。けれども耳ざとく反応したのはリサの方で、わざわざバッと後ろを振り向き、もじもじしてからほんの少しだけ顔を赤くしてえへへと笑みを見せるのだ。


「……おい」


 思わず非難の声が漏れた。テッペイにではなくリサに。


 俺には分かる。わざとやってるのだと。


        ※          ※          ※


 二学期の初日から疲労がたまっている。ゴロリンとベッドで横になる。


 リサのいたずらに振り回されたというのもあるが、リサは塾に行き、リサの父親も俺の母親も仕事に出ているので、みんなが帰ってくるだろう時間帯に合わせて料理を作って準備していたのだ。疲れないわけがない。


 はぁと小さく溜息を吐いて今後のことを考える。


 リサはあからさまには見せないけれども、俺のことを家族として迎え入れようとしてくれた。リサが反対すれば、母親は再婚が叶わなかっただろう。男の俺というイレギュラーが居る中で、誰が来ても迎え入れようと心の準備をしてくれていた。だから俺は今大きな家の屋根の下に居る。


 けれどもリサのいたずらのせいでかなり精神的なものが削がれているのも事実だ。彼女のふるまいは意図が読めずかなり緊張してしまう。なんの目的でわざわざああもあざとい仕草をするのだろうか?俺の知っている夏休み前のリサはそういう振る舞いをするような人物には見えなかった。


 コンコンと考え事をしている途中で扉を叩く音が聞こえた。


「どうぞ」というと扉が開き、濡れている髪をタオルで拭くパジャマ姿のリサが現れた。


「お風呂あがったよ」


「分かった」


 言われて立ち上がろうとしたけれども、その前にリサが俺の隣にちょこんと座った。


「えっと……。なんか用か?」


「少しお話ししよ?」


「いや。お風呂あいたんだろ?」


「今、お父さんとサチコさんが入ってるよ」


 リサの言葉を思い出す。


「お風呂あがったよ」


 なるほど。単に自分のことを報告しただけだったのか。


 からかわれてるなぁっと内心考えた。


「それで、なんの用?」


 仕方なしに尋ねるとリサは何を言うでもなく、ちょこんと俺の肩に頭を乗せた。


 なぜそんなことするのか理解ができず、固まってしまう。


 無理やり引き離すのもどうかと思ったので「何してるんだ?」と尋ねた。


「ちょっと疲れたから、肩を借りたくって」


「そっか。遅くまで塾で勉強してたもんな。お疲れ様」


 塾疲れだと思って労ったのだが「違うよ」との言葉が返された。


「学校、緊張したから……」


「緊張?緊張してたか?」


 怪訝な顔を浮かべて思わず口をはさんでしまう。


「緊張くらい……。するよ……。周りからどう見られてるのかなって……。ちゃんと兄妹として見てくれるのかなって……。変にからかわれないかなって……」


 彼女から(つむ)がれる言葉を俺は静かに聞いていた。


「学校は……。他の人たちもいるから……。他の人たちの目も気にしながら……。過ごさなきゃいけない場所だから……。夏休み前の私と……。夏休み後の私のイメージが……。あまり乖離しないようにしないとだから……。変なこと言ってないかなって……。変な子って思われてないかなって……。結構……。気にしてるんだよ……?」


 ウトウトとしながら喋っているからこそ、その言葉は嘘偽りなく真実なんだと伝わった。今日一日、高校でも彼女に振り回されたと感じたけれども、リサはリサで思うところがあったらしいことが伝わった。だとすると、相当のポーカーフェイスなんだと思う。


「ジュンお兄ちゃん……」と小さく呟いたかと思えば、寝息を立て始めた。


「愚痴を言いたかったのかな?」


 わざわざ俺の部屋に訪れた意図は結局のところ分からなかったけれどもこのまま寝かせてあげた方がいいと思い、彼女を抱えて彼女の部屋へと運んだ。


 引っ越してからなんだかんだ言ってリサの部屋に訪れたことはない。女の子の部屋に勝手に入っていいものか葛藤したけれども、廊下で寝かせるのはさすがにひどいし、俺のベッドを使わせたとして、今度は俺がどこで寝ればいいのかという問題もあったので、諦めて部屋に入る。


 リサの部屋はいくつもの写真が飾ってあった。パッと見た感じ、小さい頃のリサと彼女の母親であろう人物のツーショット写真だ。あまりじろじろと見るのも悪いと思い、彼女をベッドに寝かそうとしたところで、リサはパッと目を覚ました。


「寝てた……?」


「ああ」と答えると、浮遊感に気づいたのかきょろきょろと見渡す。そして抱えられていることに気づき、きゅっと俺の襟元(えりもと)にしがみついた。


「も、もうしばらくこのままで……」


 ほんの少し顔を赤くしながら精一杯のように言葉を吐いたので、嘆息しながらも、彼女を抱えたまま彼女のベッドに腰を落とした。


 それからしばらく無言の時が続く。


 何か言うべきかと思い、ふと、リサのいたずらに苦言を呈そうと思った。


「おまえ、なんでああも勘違いされるようなこと言うんだ?」


 尋ねたところで、彼女は俺の顔を見ることなく、むしろさらに俺の胸に寄りかかった。それから襟元に回した手にきゅっと力を入れる。


「どうすればいいのか分からなかったから……」


 俺にはその回答の意味が分からなかった。


「いや、どうすればいいか分からなかったからってああいう言動になるか……?」


 呆れたように言うと「マンガを参考にして」と返ってきた。


 ふとテッペイの顔を思い出す。


 きっとそのマンガは参考にならないタイプの物の気がした。


「マンガを参考にしてまで何がしたかったんだよ」


 再び呆れて言うと思いもよらない回答が返ってきた。


「……甘えたかった」


「は?」と思わず間抜けな声を出す。


「お兄ちゃんっていう人に甘えたかった。道端の小学生くらいの兄妹が仲良くしてるの見てると、お兄ちゃんが居たら私もあんな感じで甘えてみたいなぁって思った。でも、今の私は高校生だし、流石にべたべたと甘えるのもなんかあれで……。どうすればいいか分かんなくって、ジュンくんとの距離の測り方も分かんなくって……。ジュンくんが "妹" に興味を持てたら私も甘えられるようになるかなって思ったんだけど……」


「正直どう接していいのかなおのことわかんなかったぞ……?」


「むぅ」と恥ずかし気に俺の胸に顔をうずめ始めた。


「具体的にどんな感じで甘えたかったんだ?」


「……一回降ろして」


 言われて一度彼女を放すと、リサは俺の隣に再び座って、それからさりげなく俺の掌の上に自分の手を乗せ、それからキュッと握ってきた。


「小学生の時だったらきっと手をつないでも恥ずかしくないんだろうけど、さすがにこの歳にジュンくんと手をつなぐって言うのは抵抗があった……」


 見ればリサの耳は赤くなっていた。


 ふと思う。


 リサも小学生くらいの頃に母親を亡くしていたはずだ。急に母親に甘えることができなくなり、父子家庭の中で自立することを求められ、今に至っているに違いない。もう少し甘えたかった、という思いがあるのかもしれない。それが不思議なことに、俺の母親に対してではなく、俺に対してになっているのだけれども。それはもしかすると、母親が居なくとも、もし兄が居たらという思いの表れだったのかもしれない。


「まあ、頻繁に甘えられても俺だってどうすればいいのか分からなくなるから勘弁してほしいけどよ。ほんの少しくらいだったら甘えてもらったら相手になるよ。きっとそれくらいしか俺にはできないからな」


 するとリサは大きく首を振って「それでも私にとっては十分だよ」と言葉を返した。


        ※          ※          ※


 二学期が始まってから数日が経ち、クラスメイト達も俺とリサとの間柄について慣れ始めてきた。学内では基本的に夏休み以前と変わらないようにふるまっている。俺は俺のコミュニティで、彼女は彼女のコミュニティで高校生活を送っている。


 ただ、ほんの少し、彼女が甘えたいと思ったとき、学内であっても隙を見て俺のところに訪れた。


「ねえジュンお兄ちゃん」


 甘えたいというアピールをするとき、彼女はジュンくん呼びをやめる。それに気づいて「なんだ」と顔を向けた。


「デートしよっか」


「は?」


 何を言われたのか分からず、思わずぽかんとしてしまった。


「デートだよ、デート。私とジュンお兄ちゃんで。いいよね?」


「え?デート?え?」


 なぜその言葉が出てくるのか分からない。お出かけしようではなくなんでデートしようなのか。


 困惑ししどろもどろとなっているところで、リサはペロっと舌を出し、俺の顔を覗き込んだ。


「深いこと考えなくっていいよ?兄妹デートだから」


「……」


 少しずつ平静さを取り戻してからからかわれたのだと理解した。


「おまえ……」


「おまえじゃないよ?リサだよ?お兄ちゃん」


 くすくすと笑う姿にああそうかと納得がいった。


 リサは兄をからかうという形で甘えてみたかったのだと。


 彼女の相手をするのは一筋縄ではいかなそうだ。

連載版の執筆の方向性とかも含めて参考にしたいと考えております。


お時間のある方はぜひとも感想を書いていただけますと嬉しいです。

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[良い点] 主人公に好感が持てますね! 地味めな男の子らしい不器用さはありますが、「たりぃ〜」、「やれやれだぜ……」系のイラつく様なキャラじゃないですから。 女の子はもう少し堅くてもいいかな……ま…
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