6講:4段階の目的、クエスト
今回の講義はTRPGプレイヤーなら多くが理解・体感しているものであろう。
FEAR社のTRPG、以前話題にも上がったアルシャードを例に取ると、各PCには複数のクエストというものが与えられる。
クエストとは直訳すれば探求であり、PCたちが追い求めるもの、動機・目的というものになる。これをわたしは小説に応用して考えている。いやまあ、応用も何もわたしの創作のベースは常にそこにあるのだがね。
今回は世界観とストーリーとキャラクター全てにまたがる話だ。
解答
主に規模で分ける。わたしだと以下の4種。
ワールド/キャンペーン/チャプター/パーソナル・クエストの4種だ。
説明していこう。
ワールド・クエスト
これは世界観全体の目的を示す。これを解決することによりその世界観での小説が書けなくなるものを意味する。
これは小説全体の中で解決しても良いし、しなくても良い。
キャンペーンクエスト
物語全体の目的を示す。これを解決することにより、その小説はエンディングを迎える。
チャプタークエスト
TRPGだとシナリオクエストという言い方で馴染みがあるかもしれない。セッション毎の目的だ。小説なので章ごとの目的、チャプターという言い方にしている。
今そのシナリオで主人公が何を目的として動いているか。これを解決すると物語が進む(次の章に移る)。
パーソナルクエスト
これは各キャラクターが有する目的である。ストーリーとは無関係に存在している(関係していてももちろん構わない)。
わたしはこの4種を意識して小説を書いている。
つまり、主人公の目的とその場での話の目的、大きな話の目的と世界観の目的をそれぞれ別個に用意しているのだ。
これを決めておくことにはいくつかの意味がある。世界観が安定し、話の本筋や主人公のキャラクターがぶれないことだ。
ワールドクエストは世界観全体の話。この世界観で話を綴る時、何を描きたいのか。何をすればこの話が完結する、あるいは大きく世界が変容するのかを考えておく。
なまこ×どりるだと、ワールドクエストは「世界の謎を暴く」こと。「魔族を根絶する」ではない事に注目して貰えればと思う。
これは世界観側の話であって、アレクサはこのクエストを進めてはいない。作者のわたしの意識に影響していて、なまどりはまだ世界観の謎を提示していこうという段階である。
つまり、なまどりは遠未来地球が舞台の話であるのだが、「なぜ魔術が使えるのか?」「なぜ月が3つあるのか?」「なぜ魔界が発生しているのか?」「獣人などの異種族はどこから来たのか?」「なぜ文化や知識が継承されているのに機械文明が発展しないのか?」「なぜキリスト教が断絶しているのか?」「22柱の人類守護神とは何か?」あたりは読者にとって謎として提示されていると思う。
だが、なまどりを読んでいてこれらの謎が解決されなくても何も問題ない。シナリオには関係ないから。
これはわたしがグレートアライアンスという世界観全体で読者に提示し、恐らく次の長編小説の主人公が、さらに次の主人公が……とグレートアライアンスの世界観で物語を綴る中のどこかで、明かされる真相なのだ。
「世界の謎が暴かれた」後、該当する小説の主人公(誰なのかは現在のわたしも知らない)は世界を変える決断をするだろう。そして、この謎を提示した黒幕の元へと辿り着き、最後の戦いが描かれるだろう。それがグレートアライアンスという世界観の終わり。最終話だ。
わたしがこれを執筆できるのかというと正直無理だろうと思っている。それ専業小説家にでもなれば別かもしれないがね。
キャンペーンクエストは物語全体で解決すべき話。これを完遂することでその小説はエンディングを迎え、逆説的にこれがないと話がエンディングを迎えられない。最初から読者に提示する必要はないが決めておくべき。
なまどりで提示したのは第35話。この話は「アレクサがレオの魂を神々から奪還する」物語である。
チャプタークエストは現在の主人公の解決すべき問題。今主人公は何を目的に動いているのか。TRPGだとセッション一回毎の目的なので想像つきやすいだろう。
なまどりでいうと、章ごとの目的がそれに該当する。
ちょっと特異な形をしていて、2・4章がセットで間に3章が挿入されているので、
1章「クロについて知る」
2・4章「魔術決闘訓練で優勝する」
3章「婚約を解消しジャスミンを倒す」
5章「レオの魂を神々から奪還する」
となっている。
キャンペーンクエストと最終章のシナリオクエストは同じであって構わない。
パーソナルクエストは個人の目的。チャプタークエストを達成するように努力しながら、個人の目的を達成しようと考える、あるいは目的があることを表現すること。関係ないシーンでも、例えば会話の端々などにそれがちょっとでも表現されると良い。
アレクサのパーソナルクエストは「自己鍛錬」「魔族討伐」である。会話や行動の端々で読者がそれを感じてくれているならば良い。
例
ドラクエ3(注1)を小説化しようとする。
パーティーは勇者、戦士、商人、遊び人でロマリアあたりにいるとしよう(バランス悪いが)。
ワールドクエストは「世界を平和にする」
キャンペーンクエストは「バラモス討伐」
チャプタークエストは「カンダタから王冠を取り返す」
パーソナルクエストは、
勇者「父オルテガを探す」
戦士「最強の武器を手に入れる」
商人「自分の店を持つ」
遊び人「世界中のイイ男にぱふぱふする」
とかそんな感じでどうか。
チャプタークエストはカンダタ討伐後、変わっていく。「ピラミッド攻略」とか「船を入手するため黒胡椒を入手する」とかね。
パーソナルクエストだって変わる。遊び人が賢者に転職すれば、「魔導を極める」とかに変わるだろう。
パーソナルクエストが満たされた時、別のパーソナルクエストを得ることになるだろうが、それによってストーリーから離脱することもあり得る。商人の離脱イベント、新しい店と街を作ることである(アメリカ大陸東部の「○○バーク」)。
彼が離脱し、店を作ることで、主人公の求めるイエローオーブを手に入れる事が出来るわけだが、商人はここでいなくなる。ここで新たな仲間を迎い入れるべく、ルイーダの酒場に戻ってくる勇者一行。かつて気弱げに店に入ったルーキーが、世界を股に掛ける冒険者となって戻り、新たな旅の仲間を求める。いいシナリオじゃないか。
ドラクエ3は「バラモス討伐」というキャンペーンクエストを終えても話が終わらない。それはワールドクエストが達成されていないから。
バラモスを討伐してもまだ魔物が出てくるし、オルテガだって見つかっていない。
地下世界で真の魔王、ゾーマを倒すという話になる訳だ。
とまあ、こう書いたが、今の作品、特にハイファンタジーや異世界転生系か。多くの作品がこのあたりを全く意識していないだろう。
特にワールドクエスト、キャンペーンクエストはまるで提示されないかそもそも設定されていない、考えられていないものも多いはずだ。
なぜかって?テンプレハイファンタジーの大半は成功して延々と連載を続けるか、それより遥かに多くの作品がエタる(注2)からだ。
なろうテンプレを利用して小説を書くことは一向に構わないとわたしは言っているが、1つだけなろうテンプレには大きな問題があるとしたらこれだ。『エンディングのテンプレは無い』し、なろうらしいエンディングというものも存在しない。なぜなら完結することが稀なため、テンプレが作れないからだ。
なろう71万作品のうち、10万字(書籍およそ1冊分)の文章量があり、完結している作品は23930件のみ、そのうち、おそらくテンプレが好きな読者というものはランキングから読んでいると考えて1万pt以上に限って話をすれば、1238作品のみ、さらにハイファンタジーに限定すると519作品しかない。
今回この考え方、目的の設定。それと世界観を事前に構築することによって、エタる作品が減ることを願ってやまない。
本日はここまで。
次回予告
『サンプル・ワールド』作成2
近日中になまこ×どりるを更新した後、時間をとってまた活動報告で作成をしようと思っている。
ではまた次回の講義で。
注1
ドラクエ3
1988年発売のコンピュータRPG、ドラゴンクエストの3作目のこと。リメイクも多く国民的なゲームである。
知っている前提で話しているので、Wikipedia等参照のこと。
注2
エタる
作品が完結していないのに更新が行われなくなること。またその作品。
語源はエターナルから。