『どろてん』と世界観の構築
前講で書いたとおり、『サンプル・ワールド』がまだ固まってもいないのに、それを使った短編を一本仕上げてしまったという話である。
それをどのような思考で書いたのかという纏め。
事前に『悪役令嬢ドロシア・ファーレンハイトの華麗な転身』を読んでいる前提でこの文は書かれている。
また原文は2/2の活動報告、『はうとぅーめいくどろてん。』参照のこと。
サンプルワールドのイメージはヒマがあると脳内で少しずつ考えていた。
文明レベル中世の人間たちの元に機械神が降臨して、ガジェット与えるとどうなるだろう?とね。
TRPGゲーマーとしてはどんなキャラができ、どんなレベルアップをしていくのだろう?とか。
10歳で誰しもがガジェットを貰う。仕事に役立つモノだったり、武器だったり。
ゲーム的にレベルが上がるとは、世界観の中でどういうことか。――2個目、3個目のガジェットを貰うことかなと。
例:
レベル1:ガジェット1つ目(第1階梯)
レベル2:強化パーツ
レベル3:ガジェット2つ目(第2階梯)
レベル4:強化パーツ
レベル5:強化パーツ
レベル6:ガジェット3つ目(第3階梯)
このペースでレベル10で第4階梯か。
ガジェットを神が与えると考えているので、レベルが上がるとは、神の目的に添うことだ。つまり、魔族を倒すか人類の発展に貢献する、機械神信仰を布教すればレベルが上がるのだろうと。
ここで神からガジェットを授かるシーンを考える訳だが、例えば庭師が芝刈り機、パン屋が窯を神殿で賜ると考えるとダサい。
その場では一律象徴的なモノを賜り、後で形が変わる方が良いかなと思って設定したのが『メビウス・ギア』だ。
蒸気を吐く機械がそこそこ町中にある、全体としては中世➡近世の文明レベル、ごく一部近代というデザイン。
世界観を作る中で、なろう中世にはリアリティがなくて云々言う奴、もっと本格的なリアル中世を描くべきなんて言う奴がいる。
バカめと言ってやれ。どうせリアル中世なんて絶対流行らんし、そもそもお前が思っているリアル中世はまるでリアルではないぞと。
時代劇を見て、江戸を知った気になってるようなものだ(注1)。
ところでわたしがリアル中世が流行らんと思っている最大のポイントはファッションである。
ミ・パルティ(左右の色が異なる)のピッチリしたタイツのようなズボンをはいて、コドピース(ちんこケース)で股間の盛り上がった青年貴族に愛を囁かれたいか?
わたくし、頰を染める前に噴き出してしまいますわ!だよ。
と言うわけで、ファッション史に詳しくねー作者はそもそもファッションについて描写しない。安易に中世ヨーロッパ風の世界だったって書いてる作品は、全て男はだるんだるんのズボンを穿いて尻とか出てる状態、貴族はコドピースで股間が盛り上がってると思ってやれ。
で、話を戻してサンプルワールドのファッションだ。
ナーロッパのファッション、特に貴族階級はロココ基調。18世紀フランス。
スチパンと言えばヴィクトリアンスタイル。19世紀イギリスのものだ。
ヴィクトリアンスタイルスチパン衣装が読者に受け入れられるかについては自信があった。
そもそもファッションについてなろうは描写が不足なんだよ。興味ない奴は読みとばせる文量にさえすれば問題ないだろうと。
エマとかゴシックロリータとか男も女も好きだしね。カワイイ!って思ってくれる読者がいればいい。
複雑な設定、描写を書きたいのに、それに興味を持って読んで貰える読者だけでは無いという考えは重要だ。ランキング上位を狙うなら特にな。その技法は聞きたければ感想で質問してくれ。
多くの人から感想頂いてるけど、まだなんでドレスの上にコルセットなんですか?って質問は来てない。
スチパン好きな読者なら違和感持たないし、スチパン知らず、ファッションに興味持たない読者が読んでも読み飛ばされているから質問が来ないということだ。
ではどうやってヴィクトリアンスタイルスチパン衣装が中世ファンタジーに持ち込めるのか?
中世ヨーロッパ的な世界観に機械神が先進的文明を持ち込んだとしてここまで一気に進むか?といったらムリだ。
そこで、ファッションそのものを機械神に持ち込ませれば良いと気づく。先ほどのギアだ。
貴族が衣服そのものを機械神に賜る習慣にすれば良い。
そして民衆はそれを見てその劣化衣装を人間の手で作れば、ファッション史を一足飛びに進められる。平民は中近世衣服なのだが、帝都の富裕層や貴族の家に仕える者は近代の衣装。メイド服!執事!
機械神は元々別の世界の神で、邪神に敗れて転移してきた。邪神の手がいずれこちらにも伸びることを悟り、人類を強化している。
服を求められたとき、機械神が授ける服は、彼が元いた世界のファッション、それがヴィクトリアンスタイルだ。
王侯貴族とかいるのにヴィクトリアンスタイルファッション書いても問題ない理由ができたぞ!
で、この辺でこう思う訳だ。
……やべえ書きたい。
いやね、貴族階級のファッション考えてたせいか、スチームパンク×婚約破棄!って言葉が降りてきた。
検索するじゃん。
異世界恋愛でスチームパンク、婚約破棄
ヒット4件、マックス300pt台。
……やってやろうじゃないの!
異世界恋愛にスチパンで殴り込み。
そもそもスチパンがわたしに書ける保障は無い。
それを言っても始まらない、少なくとも書きたくて読みたい話だ。ウケるかどうかは、わたしをお気に入りに登録している奴らには絶対読みたがる、そして上手く書ければ刺さるのがいる。奴らがpt入れたくなるような短編を書ける気はした。
一応数値的な話をすると、わたしをお気に入り登録しているのは『どろてん』書く前で280人程度。お気に入り非公開にしてるのが10人以上いると思われるので300人としよう。
うち、なろうに来なくなっている者、リアルが忙しくあまり来られない者などいるし、アクティブであっても全員がすぐに読んでくれる訳ではない。100人程度は投稿後1日以内に読んでくれるとする。
そしてそのうち30人くらいが評価してくれるとして、十倍して300pt。追加して活動報告などで事前に投稿を話題とすることで、読んでくれる可能性を高める。
と言うわけで、わたしが良い短編を書けば、日間異世界恋愛の30位台くらいには入れるだろう。そこで一般の読者がポイント入れたくなる話を書けるかが勝負である。具体的にはあと700pt、安全圏なら800ptだ。
1/30に活動報告で話してたが、スカートをクリノリンにするかバッスルにするかという話をして。
女性は帽子、コルセット、バッスルスカート。
男性はトップハット、スーツに杖だ。
杖は本来サーベルの代わりなので、この世界だと別途、剣を持ってるかもしれないね。
スチパン感を出すために、コルセットをドレスの上に。
これで貴族階級のファッションが完成した。
実際に文章を書く段だが、わたしは文章を真っ直ぐ書けない。今回は設定もまだ浅い。設定考えながら文章も考える。
最初にスチパン好きな読者が一瞬で反応する要素、時計塔を置く。鐘の音がなる前にギシギシ歯車が鳴ったり、鳴った後に蒸気が噴出されると、スチパンでこの文章に引っかかった奴は最後まで読むだろう。
で「婚約破棄を宣言する!」と書く。誰が言ってる?貴族か王子か?
短編はケレンとハッタリの世界だ。デカく行け。
帝国なので皇太子だなと。
誰にだ?ここで最初ヒロインの名前がベアトリクスだったんだよね。
なんで皇太子が自国の貴族と結婚する?
周囲に人類の大国が残ってないからだ。良し。では公爵令嬢ベアトリクスと。
ストーリーラインは良くある婚約破棄モノをなぞっていく。
特定の小説をパクってはいないが、婚約破棄、短編でポイント高い順に並べて何本か流し読みし、ざっと復習しながら書く。
「追放刑だ!」……エグザイルっと。
エグザイルという単語、25年前から好き。
マジックと、ロミオとジュリエットのせいなのは間違いない。ここでふと追放刑の話がなんかあったな……。と思い出す。
『人狼への転生、魔王の副官』(注2)か。
該当シーンを踏襲させて貰おう。どこだっけ……。
なになに、「裸にするのは勘弁してやろう」という流れか。よし、裸にしよう。
セクシーショット!ひゅー!
ガジェットの服が貴族の証なら、それを捨てろという意味でちゃんと世界観的にも合致するのが良い。
戦時下だから司法権云々はそのまま流用させていただいた。
で、ベアトリクスが実はサイバーパンク的に体内にもガジェット埋め込まれていて、背中から翼が生えて狙撃をガード、右手が銃に変形して反撃ってのをイメージしてた。
これには問題がある。
長編ならこれで良い。これは短編だ、ヒーローが居ねえ。
異世界恋愛なんで、ヒーローがいないのは怒られる。この中に飛び込んで来そうな……執事!
ヴィクトリアンスタイルだし!メイドや執事出さずにどうするのかー!
執事が黒いんで皇太子を白にして……。
世界観をただのスチパンでなくファンタジーであるとアピールするために獣人にしてやろうと。
この辺で〆をどうするか考える。婚約破棄テンプレならどうだ?実は別のイケメンに婚約を申し込まれる。隣国の王子とか別の貴族とかな。
ここで大事なのはこのパターンは『ざまぁ』なので基本的にさらに上の立場にしないといけない。
皇太子にしたので隣国の王子が使えない。
まさかこの流れで魚介帝国の王子が見そめてはカオス過ぎる。
で、別にわたしは婚約破棄の流れを書きたいのでは無い、スチパン布教なんだからスチパンでクールに終えれば良いのだ!と思う。
しかしスチパンは世界であり話の流れでは無い。
どうする?追放、犯罪者、盗賊、怪盗……怪盗!?
と〆の流れが決まる。
宝石を差し出しておいて盗まれたのですという。エモイ!
その宝石を見ながら盗賊も良いかもねというお嬢様。エモイ!
伝説の怪盗ベアトリクス。エモイ!
とテンションアゲアゲ。この作者、楽しそうである。
ここで、ベアトリクス・バンデット。BB団的な名前が浮かんで、うほっ頭文字揃ったわーいいわー。と思ったのだが、まあ待てと。民衆がベアトリクス様敬愛してるんじゃねーのーこれーとか思うわけですよ。
その愛を名前に表さなくて良いんですかー?とかツッコまれる。自分に。
むむむ。ダッチェスかレディか?男爵令嬢ならバロネスでBなんだけどなぁと思う。暫くうなってたら、デスペラードという言葉が浮かんだわけです。やっほうイーグルス!(注3)
これだ、ダッチェスでデスペラード、ヒロインの名前DにしてDDD団ですね!
ドロシア!ドロシアさんじゃないですか!(注4)
ヒロインのイメージが固まった瞬間である。
実はベアトリクス、カラーリング緑で考えてたんだけど、赤になってしまった。セシリーが渡すイヤリングがエメラルドなのはカラーをセシリーに流用したから。
で、ここで愚帝ウォーレスという言葉が浮かび、この短編は続きの話を誰でもいくらでも書けると分かる。これ、配役がロビン・フッド(注5)だと。ドロシア様=ロビンフッドにして、ウォーレス=ジョン王子枠じゃん、ロビンの愉快な仲間たち、1の子分がダニーで、後はどこかでクォータースタッフの達人の僧侶=タック和尚とか拾って来ようぜ!
悪徳領主とかブチ倒して財貨の半分を民衆にばらまくのだ!
セシリーが悪徳領主の後妻として狙われるのを救ったり、ピンチになったドロシアをセシリーが匿ったりするとかエモイ!
TRPGで言う公式キャラクターとサンプルシナリオフックですね。
感想欄でなんで皇太子殺さなかったのかという意見が来たが、婚約破棄モノ短編なら殺しても良かったんだよ。ざまぁの極致だし。でも、実は世界観を作るための短編なんだよな、これ。
こいつ生かしたことでシナリオめっちゃ作れるはずだ。
で、後はスチパンギミック。バイクにしようとかね。ちなみにバイク乗ってエンディングを小麦畑にしようとか。古い洋画っぽくていいよね。サイドカーだし。
後は腕を銃にして撃つところも、ヒーローに見せ場が欲しい。
せっかく獣人なんだし、バイオレンス入れて、後は狙撃への防御を傘にしようと考える。ファッションの活動報告で日傘って意見もあったしね。
それなら撃つのも傘でいいよなと。傘で止めて、その傘が銃に変形して射撃。
おお!書けた!と。
後はタイトルか。『の』が入るタイトルが好きだ。ジブリで、『の』が入る作品が強いと言うのを昔聞いたことがあってな。わたしのイメージは基本それだ。
風『の』谷『の』ナウシカ、となり『の』トトロ、天空『の』城ラピュタ。
で、『の』の後が固有名詞。
だがわたしは前に固有名詞のが好きなのだ。
なまこ×どりるは違うが、『×』がそれに近い役割かなと。
長文タイトル?アリだと思っている。だが自分がつけるかに関しては、世界観からガチで構築してる作品にはつけたくないなぁ。という想いもまたある。
後もう1個。強いタイトルは4文字程度の略称がつけられること。
なまこ×どりるですら、『なまどり』。
ここまでを意識して考える。
今回は『悪役令嬢』というパワーワードを使えるので、『悪役令嬢ドロシア・ファーレンハイトの~~』だ。
ここで怪盗にしたのが、『華麗な転身』というタイトルに生きたね。かなりのキラータイトルだと思うよ。
実際タイトルで呼び込んで異世界恋愛勢にスチパン読ませるのに成功してる。
読者層考えれば一人称のが良いんだろうけどね。
スチパンのちょっと硬派な雰囲気をさわりでも入れるために、敢えて三人称でカチコミかけましたっていう。
これは、今回ポイントを少しでも多く稼ぐことを考えるなら失敗。文章評価点が平均4.4点なのだ。わたしの他の一人称の作品、メリリースで4.6なまどりで4.8点だから。
でも、これはなんか違うぞ?と思わせることには成功している筈なんだ。この先、このシリーズを続けるなら、三人称で書いたことは正しいと考えている。
こんな感じだ。
幸いにも続きを望む声を感想欄でもいただいているし、先日は個人ブログで紹介してもいただいた(注6)。
スチームパンク世界観でもいけるという実証ができたので、このまま世界観を構築していくことにする。
次回予告
『目的意識について』
キャラクターは各々が人生の目的を有する。これをどのように分類するかについて考察しよう。半分は世界観の話だが、半分はキャラクターやシナリオの話だ。
では問題だ。
「キャラクターなどの有する目的を分類して考えておくべきなのだが、どのように分類すべきか」
昔活動報告かどこかで話した気はする。TRPGプレーヤーなら普通に知っている可能性の高い問題だな。
ではまた次回の講義で。
注1
時代劇を見て、江戸を知った気になってる
今どき、登場人物がお歯黒つけて眉を剃っている時代劇なんて無い。
注2
人狼への転生、魔王の副官
漂月著のなろうハイファンタジー魔物転生ものの書籍化作品。
注3
イーグルス
1970年代を代表するバンド、Desperado(ならず者)は彼らの名曲の1つ。
注4
ドロシア
拙作、なまこ×どりるの登場人物であるが、なぜか彼女を使ったエッセイを執筆しているという作品を飛び出して使っているキャラクター。悪役令嬢的なイメージ、元が炎の魔術士であり、赤のイメージがある。
注5
ロビン・フッド
中世イングランドの伝説上の人物であり、多く小説や映画化されている。近代以降のイメージだとリチャード王が十字軍遠征で不在の際のジョン王子の悪政に反抗した人物であり、アウトロー集団を率いてシャーウッドの森に隠れ住んだ義賊。
皇帝親征時に皇太子のウォーレスが留守を預かる間の悪政、その時代の伝説の義賊ドロシアという形式がはまったので、長編小説の一本くらいなら簡単に書けると言い切れる。
注6
ブログ
なろう系VTuberリイエルのブログ。
https://blog.riel.live/entry/2020/02/09/にて。
ご紹介ありがとうございます。