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5講:キャラクターやシナリオを作りやすい世界観とは

 今回も何点か解答が来ているので列挙してみようか。

・善悪が明確に分かれていること。

・切迫した問題を抱えている。

・お姫様がピンチな世界。

・他作品を連想できる、どの作品から影響を受けているか自覚している。

・解決すべき問題がある。


 いいね。どれも解答者にとっての正解であるのは間違いない。

 特に「お姫様がピンチ」とまで明言できるマックロウXK君。そこまで具体的にイメージを作れるのは素晴らしい。汎用性と言う意味では違うが、君にとって間違いなく正解だろう。


 類似する解答が多い中、「他作品を連想できる」と別種の解答を書いたのはYuji君か。君は自分のエッセイ(注1)でも書いているが、割とそういうスタンスが強いな。それはそれで悪くない。


 理想となるのは我々が最もよく知る既存の世界、つまり地球と基本法則そのものが変わるわけではなく、既存の作品と類似性が高く、なおかつ既存作品と同じではない世界観だ。

 物理法則や絶対的な概念を崩す作品を書いて評価される長編エンターテイメントは存在しない。重力がないとか、植物が赤いとか、転生先の世界に言語が存在しないとかそういうレベルのことだ。

 そこまででなくてもオリジナリティが高すぎる世界観も読者に考察を強く要求し、これを面白く描くのもまた難度の高い話ではある。無理とまでは言わないが、難度が高い。

 既存のものにちょっと捻りがある程度が良い。


 さて、それ以外の解答は全て対立構造があるか問題を抱えているかである。


 前講で書いたが、シナリオには対立が必要だ。対立構造の解消こそ、最も書きやすいシナリオの基本だからだ。問題を抱えているというのも本質的には同じだろう。


 和解による対立の解消を味方と行ない、一方の破滅による解消を敵と行なう。

 これがエンターテイメントにおけるシナリオの基本だ。

 ハリウッド的?まあそうかもしれなんな。だが『七人の侍』(注2)だってそうだろう?知らない?では黙って見てきたまえ。


 野武士に襲われんとする村、助けを求める農民。困難な状況だ。

 農民が町で武士を雇おうとした時、武士は始め断っただろう。これを説得。

 村に到着した時に、侍は村民に暖かく迎え入れられたか?違う。侍を恐れた村民は、対話すらしようとしなかった。それを一行の一人が機転を働かせ、顔合わせに成功する。

 村にあった武器は落武者狩りによって手に入れたものだった。それを見て侍たちは激高したな?そしてそれを説得したものもいたな。

 村の周縁部の家は守るのが困難だという話に対してそこに住む者は反対し、結束を乱した。それを侍は武力をもって追い立てたな。

 武力もあり、機転をきかせてというのもあるが、これが対立の言葉による解消だ。

 そして話はクライマックスに向かう。野武士vs七人の侍+農民だ。野武士を全滅させることで、クライマックスシーンは終わり、話はエンディングに向かうのだ。

 武力により一方を破滅させることで対立構造を解消したわけだ。


 この構造が基本であり究極である。


 もちろん全てではない。『日常系』などはその対極にある。だが、この対立構造の解消がシナリオの基本にあるからこそ、その逆張りとしての『日常系』が成立し得るとも言える。


 多様なシナリオの作成に耐えうる世界観を1つ構築するとして、対立構造が発生しえない世界観など無価値である。


 では模範解答だ。もう一歩踏み込もう。つまり、どうすれば対立や問題が発生しやすい世界であるかということだ。なに、単純なことだ。



解答

世界の中に多様性があること。



 書きたいストーリーがあって、そのためにシナリオを作るなら世界観はそれに必要な分だけで構わない。


 一方、君が世界観ありきで話を作ろうとする場合、シナリオを作りやすい世界観とは、1つの世界の中に多様性があることである。


 七人の侍でも、侍と農民の、流れ者と土地に住まう者の生き方の違い、価値観の違いは強く表現されている。


 ファンタジー世界であれば、多様性は多様な種族がいること。職業があること、地位や貧富の差があること。宗教観、価値観の違いがあること。


 多様性は対立を生む。現実だと人種問題や宗教・差別問題になることも多く難しいものであるが、こと創作においては極めて使いやすい話である。


 例えば多くのファンタジー世界でエルフとドワーフの仲が悪いと設定されているが、この対立構造は和解により解消すべき対立である。そして悪魔や魔物といった存在を武力によって解消すべき対立と置くことで簡易にシナリオの流れを作ることが可能だ。


 分かりやすく言えば、普段は反目しあっているエルフの狩人とドワーフの戦士が、共通の敵である魔族を滅ぼすため、手を取り合って戦うという流れができる。


 そしてそもそも多様性があるということはキャラクターも創造しやすく、バリエーションもつけやすい。個性が出しやすい。


 ファンタジー的な冒険譚を書こうとする時、その世界には魔法をはじめとする超常能力が存在せず、エルフやドワーフ、魔物など存在せず、戦いを生業とするのは男のみという世界観があったとする。


 戦いに出るのは全員が『人間、男、戦士』だ。敵も全員、『人間、男、戦士』だ。

 その世界観と、魔法も異種族もあり、男も女も戦う世界観、どちらがキャラクターや派生するシナリオのバリエーションが多いかと言ったら間違いなく後者である。


 もちろん前者が書けないわけではない。バンダル・アード=ケナード(注3)シリーズとかな。だがどうしてもバリエーションやシナリオのパターンは狭まるだろう。


 前回の『サンプル・ワールド1』でもこのあたりは意識している。


 人間やドワーフの帝国と魚介系種族の対立、少数勢力としてのエルフたち、そして絶対悪としての侵略者・魔族。


 魔族の力は強大で、全ての種族が力を合わせて追い返せる程度とする。そして現状では人間と魚介系種族は反目しているとする。


 本質的な構造は極めてシンプルだ。後は人類の中でも貴族と平民の身分差などを出していければ良い。


 さて、ざっくりと本当にざっくりとであるが世界のイメージを作った段階で。キャラクターやシナリオの原型を脳内で考えてみると良い。

 この段階で多様なバリエーションが考えられるか。特に魅力的なキャラクターが考えつく世界観なのか。書き出して見ると良い。

 アイディアだけで良い。10秒で1つくらいのペースで考えられると良い。

 サンプル・ワールドの段階で、


機械神/邪神/海洋神/帝国皇帝(初代英雄王)/帝国皇帝/魔王/魔将軍/海洋帝国王/海の巫女/親人間の人魚/機械神の司祭/帝国貴族/令嬢/召使い/農民/冒険者の剣士/機械で魔法っぽいの使う奴/機械銃使い/ドワーフの技師/ドワーフの戦士/ドワーフの鍛治士/エルフの魔法使い/エルフの弓兵/エルフの長老/人間とともに住む獣人/野に住む獣人/魔族一般兵/魔族と無関係の竜/転生者がいる可能性/機械神の御使(天使)……。


 このようにいくらでも出せるなというイメージが必要だ。

 同様にシナリオのネタが何個もあることを確認すれば良い。これも複雑な内容である必要は無い。簡単なものをいくらでも作れるようにしておけば良い。


 2講でわたしは世界観で最も大切なことは『その世界観が魅力的であり、それが説明できるのか』という話をした。


 実はもう1つ大切なことがあるのだ。小説なら『話が書けそうか』、TRPGなら『キャラクターやシナリオが作れそうか』である。

 ここでさっとキャラクターを考えてみろといったのはそういうことである。

 逆説的にここでキャラクターが浮かんでこない、シナリオのネタが浮かばないのであれば、『キャラクターやシナリオを作りやすい世界観』ではないということである。

 1つの話を作るための世界観ならそれでも良い。故にこれは最も大切な条件ではない。だが複数の話に跨がる世界観なら、これは必須の条件となるのだ。



 さて、ところでわたしは1/29の『サンプル・ワールド1』を書き終えた後、実際にこの作業を行ない、スチームパンク×婚約破棄というネタが浮かんでしまったのだ。そして即座に短編を書き始めてしまった。


 この講義を受けている諸君なら知っているものも多いかと思うが、『悪役令嬢ドロシア・ファーレンハイトの華麗な転身(以下どろてん)』という作品である。


 短編で日間異世界恋愛の3位まで上がり、現在4690ptを稼いだ作品である。

 次回はその裏話、わたしの思考法を見ていくものとする。内容は主に2/2の活動報告のものなので、明日にでも更新しよう。



次回予告

『どろてんと世界観の構築』


ではまた次回の講義で。



注1

自分のエッセイ

 『小説の書き方を勉強していくエッセイ』、Yuji著。なろうにて掲載。


注2

七人の侍

 黒澤明監督映画。数多の作品、監督に影響を与えた名作中の名作映画。


注3

バンダル・アード=ケナード

 駒崎優著のライトノベル。少数精鋭の傭兵団の活躍を描く作品で、登場人物の大半が男性というか傭兵団は敵も味方も全員男性。芳醇なブロマンスが尊い。ちなみにこの記事を書くためにネットで検索したところ、レーベルを変えて2018年に新刊が出ていると今知った。

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i521206
― 新着の感想 ―
[良い点] 多様性の話、勉強になります。七人の侍は『野武士、農民、七人の侍』の違いでまず多様性があって、そして『七人の侍』の中でも多様性があるな、って思いました。多様性の中の多様性。個性のある七人が目…
[良い点] いやー今回も面白かったです! 七人の侍ってそんな話だったんですね! めっちゃ使いたくなるストーリーですね!
[一言] なるほど、多様性ですか。 いつもながら勉強になります!
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