4講:必要な世界観の規模とは
――では諸君、創世を始めよう。
世界観の広さは、話の規模に比例する。
池袋のヤンキーの抗争を描く作品で、南スーダンについて調べる必要があるだろうか。カバディのルールに精通している必要があるだろうか。当然ない。
代わりに狭い範囲への知識が深ければ深い程よい。池袋の路地の一本一本まで、公園の構造や落書き、溜まり場になりそうな店、そんな知識があると良い。
狭い範囲なら狭い範囲ほど深い設定がいる。
広い範囲の深い設定を作るのは個人では無理だ。
では課題の解答だ。
活動報告に正答があったな。多元宇宙だ。
多元宇宙というとSF的なイメージを思うかもしれないが、異世界転生は全て多元宇宙である。地球と舞台となる世界、神の居場所の3つが存在するのでな。
設定面だけではあるが、最も広いのは仏教であろう。
三千世界という言葉は知っているな?あれは3000個の世界という意味では無いぞ。1000の3乗という意味なので、10億の世界があるという意味となる。
エンターテイメントで世界がちゃんと細かく描かれているということであれば、『マジック・ザ・ギャザリング(以下マジック)』(注1)になるだろうね。MTGWikiによると現在65の次元があるらしい。もちろん名前だけの世界もあるが、その半分くらいは実際のゲームの舞台となっているはずだ。次元は宇宙のサイズではなく惑星のサイズなので、SFで言えば惑星30個分のような設定であろうか。ゲームが続く限り、世界もまた増えていくだろう。歴史も数万年の幅が設定されている。
『ファイブスター物語』(注2)が5つの星を舞台とした話で、年表が1万年程度か。
マジックやファイブスター物語に共通する特徴として、主人公を不老で神や神に準じる存在とし、世界を飛び出すことができる存在にすれば、このような話を書くことができる。
グレートアライアンス世界観も実は多元宇宙を採用していて、世界3つと歴史が1000年くらいの幅だ。
当然だが別に全てを細かく設定しているわけでは無い。あれで言えば、GA暦地球のヨーロッパ圏と、ZE暦地球の12都市、神と魔術、技術以外の設定は大枠しかない。最大でこのあたりまでの話を書けるだけの広さを用意しているというだけだ。
逆に狭くしようとすれば、ダンジョン内のみや、部屋1つのみを舞台としたファンタジーも描くことができるだろう。先述の『五竜亭シリーズ』もその類だ。
故に、ストーリーのイメージができていてそれに適した世界観を作るなら、それに見合った分を作れば良い。
ひたすらダンジョンを戦い踏破していく物語なら、ダンジョン、入口の街、モンスター、トラップ、主人公らのパーティー、魔法やスキル、ギルドの設定などで良いだろう。
それ以上は不要。ただ、第2部で別の町やダンジョンに行くのかどうかにもよるだろう。その準備をしておくのかどうかは君の任意だ。
ただそうだね。恐らくここに私と諸君の認識に差がある気がするな。諸君らの多くは書きたいキャラクターやシナリオが浮かんでから世界観を考えるのではなかろうか。
わたしは正直、逆のパターンが多い。つまり最初に世界観ありきでキャラクターやシナリオを考えることが多いということだ。
なぜなら私がTRPGゲーマーだからだ。この人種は、与えられた世界観の中で自由にキャラクターやシナリオを作る遊び手である。少なくともTRPGゲーマーなら必ずその考え方が出来るはずだ。実際に使ったかどうかはともかく、人生で世界観にあったキャラクターを1000やそこらは考えてきているだろう?
小説を書くにおいてもしっかりした世界観を1度完成させ、その上で想像力を働かせれば、キャラクターの100人や中編小説の10やそこらは簡単にネタが作れる。
さて、実際に世界を1つ創造してみようか。
聴講している生徒からは近隣数カ国程の世界観を作ってみて欲しいという意見が一般的かね?最低限それを必要とする程度で考えてみよう。
なに、気楽に考えたまえ。あまりにも難しいことと身構えるようなものじゃあない。
メインとなる国を1つ詳しく、2つくらいの主要国と小国などの勢力をざっくりと。
それに地理歴史とファンタジーらしい力、魔法や神、種族などを決めていけば良いだけだ。
実際にこの後の講義で順次行なっていくとしよう。
ここでなろうテンプレでは無い世界観を考えるなら、念頭におくことは3つ。
1世界観に魅力はあるか。
2世界観がキャラクターを作りやすいか。
3世界観がシナリオを作りやすいか。
上記3つの条件を満たすために、世界にはある程度の独自性、対立と謎、解決すべき問題が必要だ。
独自性がない世界ならテンプレでいい。ありすぎると読者が付いてこれない。
問題の何もない世界は小説の舞台に相応しくない。
天国を舞台にした小説は作れないのだよ。少なくともエンターテイメントとしてはね。
複数の国家・種族というのは対立を自然と作りやすい。シナリオが作りやすいということだ。わかりやすく言えば人間と魔物ということだな。
グレートアライアンスもまた、敵としての魔族を用意している。あれはテンプレ的で分かりやすい世界観を志向しているのでね。
さて、実際に1つシェアード・ワールド(注3)出来るようなクオリティと密度で、だがしかし、あまり使いやすくは無さそうな世界を作ってみようと思う。
あまり使いやすそうな設定で固めてしまうと、君たちが自分で作る必要がなくなってしまうからね。
仮にワールド名を『サンプル・ワールド』しておくが、以降の講義では実際にどのように私がサンプル・ワールドを作成していくかの手順も見せていければと思う。
私の活動報告を見ている者なら、1/25深夜のそれを見ていただろうかね。あれを定期的に行い、読みやすくしてここに掲載していこうと思う。
次回予告
『サンプル・ワールド1』
上記の通り、次回は講義では無く、私がサンプル・ワールドの作成を以て、世界観をどのように考えて作っているかの例を示そうと思う。
本日中に投稿予定だ。故に今回は課題は無し。以上だ。
注1
マジック・ザ・ギャザリング
世界最初にして最大のトレーディングカードゲーム。世界を超越するレベルの魔法使い同士の戦いをイメージしたゲームであり、カードセット毎に極めて独特で詳細な世界観を有し、それを貫く歴史大系が存在する。
注2
ファイブスター物語
永野護によるマンガ、サイエンス・ファンタジーであるが作者の設定量と拘りが極めて大きく、信者というレベルのファンを作るタイプの作品。読んでも意味が分からないが正常な反応である。
注3
シェアード・ワールド
共有された創作世界を利用して、複数作者が小説を書いたりゲームを行ったりする形態のこと。