3講:ナーロッパ批判批判
――やあ、諸君。前回の問題は分かりやすかったかね?
わざわざこんな講義を受けようとする諸君なら、テンプレ世界観の是非くらい考えている筈だ。そしてその是非を問うエッセイなど世にあふれている。
故に、君たちの考えた解答は全て正しいだろう。そもそも君がそう思うのであれば、それは少なくとも誰かにとっての長所であり短所であるということだしな。
ただ、わたしは「書籍化を目指す」というワードを入れた。
これに関しての模範解答ならこれだ。
解答
長所:なろうの中でウケやすい。
短所:なろうの外でウケづらい。
である。もう一歩踏み込んでいうと、
長所:パイの中での取り分が大きい。
短所:パイそのものが小さくなる。
細かく説明しよう。
君がなろうの異世界系メジャージャンル、いわゆる異世界恋愛、ハイファンタジーにVRMMOを加えようか。そこにおいてテンプレ的な世界観を使おうと使わなかろうと文章が書けるのだとして、ランキングに乗りやすいのはテンプレである。
作者にとってテンプレ世界観を使用することは、大きく3つのメリットがある。
1つ、設定を考える必要がなく書きやすい。
2つ、読者の共通認識を利用できるため説明が最低限で済み、展開がスピーディーになる。
3つ、読者に想像通りの楽しさ・安心感を提供できる。
結果としてなろうの中で評価を得やすくなる。
一方テンプレを使うなろう内部におけるデメリットは以下のようになる。
1つ、テンプレ的世界観の浅さを嫌う読者がいる。
2つ、同系の話に溢れている。
1に関しては、結局のところなろうでのポイントのみを狙うなら気にしなくても良い。なぜなら少数派だからだ。
2つ目はこれから派生するデメリットが複数あり、すでに先行者がいること、現在同じものを書いている作者がいること、飽きられやすいということになる。この飽きられやすさも気にしなくて良い。ランキングに載るレベルなら新たな読者が流入してくるからだ。
ここで言っておきたいのは、なろうでテンプレ作品が上位に多いのは、テンプレ作品のみが評価される環境だから「ではない」。
テンプレで書こうが、テンプレを使わなかろうが、良い作品はポイントを得ることが可能な環境である。もちろん話の傾向として小難しい内容や設定は敬遠されるがね。
1月21日・22日のハイファンタジー日間ランキングに、『冒険者になりたいと都に出て行った娘がSランクになってた』(注1)が完結してトップ5に入っていただろう。あれがナーロッパか?テンプレチーレムか?違うだろう?
わたしの『メリリース・スペンサーの苦難の日々』だって異世界恋愛で日間・週間1位を取ったとも。あれは恋愛ものの王道的展開であるが、いわゆるなろう的な悪役令嬢でも婚約破棄でもないからな。
非テンプレでも上位にいくことは可能だ。
現存していないが、総合ランキングで月間1位を取ったエッセイ(注2)すら存在するしな。
つまり君が作品の世界観を、設定をしっかり練って書いたせいでテンプレから外れてしまい、そのためでランキングに入れないということはない。
ではなぜランキング上位にテンプレのみが氾濫しているように見えるのか?
まずは簡単な話、テンプレ作品を書く作者がそうでない作者よりも圧倒的に多いからだ。
単純に数が多いものが上に来やすいのは当然であろう。
そしてテンプレの方が更新頻度を高くしやすい。これが大きい。
いいかね、世界観を考えなくて良いということは、そもそもそれだけ執筆に充てられる時間が長くなるということであり、1話書くのにかかる時間が短く連日投稿しやすくなり、さらに言えば見切りをつけやすい。人気が無ければ次の作品に進みやすいのだ。
A君は1ヶ月かけて世界観を作り、投稿は数日に1度。しばらく書いても人気が出ないがその1ヶ月を無駄にしたくはないので、数少ない読者のためにその作品を書き続ける。
B君は1日でざっとキャラクターとネタだけ考え、毎日投稿、しばらく書いても人気が出ないので、エタらせて次の作品を考える。
執筆にかける時間が同じであるとして半年後になろうで人気が出ている可能性が高いのはどちらだ?
まず間違いなくB君だろうね。
つまり、なろうで受けたければ世界観なんて考えずに、次から次へと書けということだ。
ん?ではなぜわたしがそのように書かないのかって?
わたしがそれに興味がないからだよ。恐らくVRMMOジャンルあたりなら連日1000文字投稿やろうとすれば可能だよ?だがそれはわたしがやりたいことではない。
ここまでの結論だ。なろうでウケること、書籍化することが目的なら。テンプレ設定・世界観を利用して細かいことは一切考えずに書き始めるべきだ。なろうというパイの中で、最も多くの取り分を得やすい形である。
ではわたしが言った短所、なろうの外でウケづらい、パイが小さくなるとはどういう意味なのか。
別に難しい話ではない。なろう読者の共通認識を利用して書いているのだ。なろう読者以外、少なくともライトノベルやゲームなどの文化にかなり触れていないと理解できない文章ということだよ。
そしてテンプレを読んだ作者がテンプレを使って書いていくのでテンプレはどんどん先鋭化していく。
『無職転生 -異世界行ったら本気だす-』(注3)と最近の異世界転生ものを比べてみたまえ。主人公の死と転生するまでのくだりの長さに割いている文章量が大きく減少していると思わないか?
なろうの中にいると気づかないかもしれないが、VRMMOなどもその傾向は顕著だ。世界観の説明が無い、VRMMOとは何かの説明が不足している作品が多すぎる。
何度も言うが、なろうの中でウケたいならそれが最適だ。しかし外に持ち出すには、あるいは新規のユーザーを捕まえるには不適だ。
これが、なろうユーザー以外に売れないという意味だけならまだ良いのだ。問題は、「なろう発の書籍はつまらん」という悪評が立ち、本来取り込みたい、なろうを読んでいないがライトノベルやゲーム、アニメが好きという読者を取り込めなくなることだ。それが、わたしの思う最大の欠点、「パイが小さくなる」である。
いや、正確な統計を取れるわけではないがね。ネット小説の出版作品数は増えていて、ネット小説の売り上げは上がっていないのだ。1冊あたりの販売数の最頻値は減少している。書籍そのものが売れない時代というのもあるが、それにしても書籍化爆死率は上がっているということだ。
他サイトであっても書籍化事業撤退という話を聞くのは心が痛む。
なろうがそうならない保証はないのでな。
これに関しては『魔法のiらんど』の衰退を分析したすばらしいエッセイ(注4)があり、非常に参考になる。
ちと長く、読みづらさもあるが素晴らしいエッセイだ。興味があれば読んでみるが良い。
さて、最後にごちゃごちゃ言いはしたが、基本的になろうでウケたいなら世界観など考えずに書き連ねる方が得策だ。
それでも君は世界観とやらを追い求めたいかね?
この講義の聴講を続けるのかね?
……ふん、では次回より具体的な世界観の構築にうつろうか。
次回予告
「必要な世界観の規模とは」
そう、まずはここからなのだ。
問題……。まあ、今回のは大した問題ではない。ハイファンタジーの作品の世界観を創ろうとしたとき、最大でどれくらいの規模の世界観が必要となる?としておこうか。
ついでに、活動報告の方で簡易なアンケート取っているので、気が向いたら答えてみてくれたまえ。
では本日はここまで。
注1
冒険者になりたいと都に出て行った娘がSランクになってた
門司柿家著のハイファンタジー、書籍化作品で先日完結した。なろうのハイファンタジーでもトップクラスの、地の文がしっかりした作品。
注2
現存していないが、総合ランキングで月間1位を取ったエッセイ
こぴーらいた@風倉著、『これがなろう勝利の理由! 〜昨今のネット小説新参にむけて古参が、なろうが勝者になった理由と歴史を書きなぐる話〜』のこと。作品も感想欄もアンチも熱い作品だったのだが、風倉氏がなろうをbanされたのでなろうには残っていない。作品そのものはカクヨムで読むことが可能。
注3
無職転生 -異世界行ったら本気だす-
理不尽な孫の手著のハイファンタジー。なろうで長きに渡り累計1位のポイントを得ていた作品であり、なろうの異世界転生ブームを作った作品。
注4
『魔法のiらんど』の衰退を分析したすばらしいエッセイ
夕月 悠里さんにかつてご紹介いただいた、羽場タケル著、『ケータイ小説は、何故死んでしまったのか?』のこと。魔法のiらんどやノベルデイズなどに掲載。